第11話  【覚悟】



「ここは…………」




 目覚めたリトライダー、ダズ、ミエの三人は辺りを見渡した。

 周りには一緒にいたはずのパト達はない。

 落ちた時にハグれてしまったようだった。




「ねぇ、どうするの?」




 ミエが不安のこもった声でリトライダーに聞く。




「そりゃー、探すしかないだろ。俺たちが巻き込んだんだ。放っておくわけにはいかない」




 そう言い、リトライダー達は洞窟の奥へと進む。

 何層にも重なっていた洞窟は、いくつかの層が崩れ、吹き抜けのようになっている。

 それに大量に散らばる瓦礫の山。




「まさか、埋もれてるとかはないっすよね」




 ダズがおずおずとそんなことを口にする。それを聞いたリトライダーとダズはビクリと体を震わせる。




「ま、まさか、そんなことはないだろ……」




 その時、瓦礫の山の一角が崩れ、物音が響く。




「そ、そうよ、そんなことないはずよ……」




 再び、瓦礫が崩れ、今度は瓦礫の山がガタガタと震えだす。




「お、おい!! どうしよう!! どうしよう!!」




 リトライダーが大量の汗を垂らしで焦りだす。だが、そんな様子とは別に瓦礫の山は大きく膨らみ。




「待ってくれっす。なんか、大きいっすよ」




 瓦礫の山から巨大なゴーレムが這い出てきた。




「「「ギャォァァァァ!!」」」








 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎








 洞窟の側、鎧を失ったガーラは身を休めていた。




「はぁはぁ、あいつらは……脱出できたのか……」




 ガーラは折れた斧を見つめる。




「お前もよく頑張ってくれたな……」




 呟くガーラに答えるように、斧は光を反射する。

 それは暗闇の洞窟を照らす一筋の光。




 ゴーレムとの戦闘の結果、洞窟の一部が崩れ、天井が抜き出しになっていた。




 戦闘で傷を負ったガーラであるが、外までの高さは数メートル。怪我を負った状態とはいえ、登ることはできない距離ではない。

 しかし、




「…………」




 ガーラはゆっくりと外から視線を逸らす。




 そしていつか戻ってくるであろう、弟子たちのことを思い出した。






 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎






 洞窟のある場所に到着したパトたちは、紺色のフードを羽織ったスケルトンと対峙していた。




「さぁ、モンスター。白状しなさい!!」




 エリスは堂々と前に出て、骸骨を圧倒する。エリスの勢いに押された骸骨は気圧されるが、ここから退散する気はないようだ。




 骸骨は食い気味に言い返す。




「誰がモンスターだ! 俺は人間だ!! 見ればわかるだろ!」




「どこからどうみてもモンスターよ!」




 エリスに言われ、骸骨は自身の白い腕を見つめ、一瞬固まる。




「あ、そうだった。……って、今はそうだが、俺は人間なんだよ!」




 言っていることはアベコベだが、骸骨は嘘をついている様子はない。




 だが、そんな様子にお構いなしに、エリスは杖を骸骨に向ける。




「さぁ、モンスター!! 覚悟しなさい!!」




 エリスの杖からいくつかの掌サイズの炎が生成され、骸骨に向かって飛んでいく。

 骸骨は魔法計算もなく、寸時に魔法攻撃を仕掛けてきたことに驚くが、素早い身のこらしで炎の弾を回避していく。




「ま、待ってくれ!! だから俺は人間だって!!」




 骸骨は炎を避けながらも、自身が人間であると主張し続ける。その言葉には必死さがあり、パトはそんな骸骨の姿に疑問を感じる。

 そしてもう一人、この場で全く動かず、成り行きを見守る人物に気がついた。




「ヤマブキさん? あの骸骨についてどう思う?」




 パトの中では既に、あのモンスターは敵ではないのではないか。と言う考えが芽生え始めていた。

 そしてそれはヤマブキの回答により、さらに育つこととなる。




「ハイ。敵対反応ハアリムセン」




 敵対反応はない。それはつまり、パト達に対して好戦的な感情を抱いていないと言うことだろう。




「つまり、モンスターじゃない」




「ソノ可能性ハ十分高ク考エラレマス」




 モンスターであるならば、生物の発する魔素を食らうため、人間や動物を真っ先に襲うはず。それなのに敵対行動を起こさない骸骨。それに知能があると言う点もおかしい。




 パトが悩んでいると、ふと昔、ライトから聞いた話を思い出した。




 それはライトがまだ現役の魔石発掘家だった頃のこと。

 魔素の濃い洞窟である人物に出会ったという。それは魔素により身体を侵され、モンスターのような姿になってしまった人間。

 自我は残っているものの、体はモンスターと化してしまい、洞窟から出ることのできなくなったものの話だった。




 その後、その人物はどうなったのか。その続きは知らない。だが、もしもこの骸骨もその話に登場する人物と同じように、魔素に侵され、自我を残したまま、モンスターの姿になっているのであるとしたら。




 パトは勇気を振り絞り、エリスと骸骨の中に割って入った。




「待って!! エリス!!」



「パト!?」




 パトが突然飛び出してきたことに、エリスは驚きの動きを止める。

 パトの行動により攻撃が中断されたことに驚きながら、その場に立ち止まった。




「なんで止めるの?」




 エリスの質問にパトは迷うことなく、瞬時に回答する。




「もしもこの人の言うことが本当なら、俺たちは戦う必要はないからだ」




 そう、相手が人間であるなら話し合いが可能だ。

 争う必要など、一つもない。




 それにこの洞窟によるモンスター大量発生の原因。それについて、理由を知っているかもしれない。




「あなたは本当に人間なんですか?」




 パトの言葉を聞いた骸骨は戸惑い、パトの事を見つめる。




「君は俺が人間だと信じてくれるのか?」




「そうだと言うのなら、僕は信じます」




「君…………」




 骸骨は自身の言葉を信じてもらえたことが嬉しいのか、パトを見つめる。そしてパトの顔を見て、何かを思い出したかようで、懐かしそうに呟いた。




 だが、その声は小さく、独り言だったため誰にも聞こえてはいなかった。




 骸骨は壁に背中を付け、一休みする。

 エリスは未だに骸骨を信用する気はないようで、睨み続けている。




「それであなたはなぜここに?」




 まずは事情を聞くため、パトは骸骨に尋ねる。




 するとオルガ・ティダードと名乗った骸骨は、深刻な顔付きで、刻々と語り出した。






 70年も昔。彼は各地を渡り歩く冒険者をやっていた。

 奇妙な体験、愉快な仲間、白熱の討伐戦。その日々は色鮮やかなものであった。しかし、ある日突然、仲間は姿を消した。




 ──オルガ、一人を置き去りにして──




 それからオルガは仲間を探すため、一人大陸中を探し回った。




 なぜ、突然いなくなったのか。なぜ、俺だけが置いて行かれたのか。なぜ、俺はここにいるのか……。




 しかし、何ヶ月。何年と何十年と探し続けても、仲間は一向に見つからなかった。




 それでも仲間を忘れられなかった彼は、ある方法で仲間を探すことにした。

 それは…………。




「魔術ね……」




 オルガの話に割って入り、腕を組んだエリスが答えた。エリスはそのまま怒ったような口調で続ける。




「魔術は魔法と違い、特定の条件を満たすことによって使用ができるようになる。そしてその効力は絶大」




 つまりは魔術を使い、逸れた仲間を見つけ出す。魔法でもできない芸当のできる魔術ならではのことだ。

 でも、魔術には欠点がある。




「……魔術を使用した時。大量の魔素が流出する。あなたはそれを分かっていたの?」




 そう、魔術は魔法よりも高度な力を発揮する分、大量の魔素を放出する。

 魔素は集中すれば集中するほど、強力なモンスターや大量のモンスターを発生される。だとすると村を襲ったゴブリンやモンスター大量発生の原因はほぼ決まったと言っても過言じゃない。




「分かっている」




 オルガは口を開く。




「なら、あなたが!!」




 その言葉にエリスは強く反応するが、すぐにオルガは返した。




「だが、対処はしておいた」




「対処?」




 パトとエリスは首を傾げる。






 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎






「ギャァァァォァァ!!」




 すぐ後ろから地面を強く踏みつける音が響く。




「ヤバイっす! ヤバイっすよ!!」




「どうするのよ! どうすのぉ!!」




「そりゃ…………逃げ続けるしかねぇだろ!!」




 リトライダー達は突如瓦礫の山から現れたゴーレムから逃げ回っていた。




「チクショォォ!! どうしたらいいんだよ!!」




 リトライダーは頭を抱える。




 現在リトライダー達を追っているゴーレム。この個体には前回も出会っている。そしてガーラがリトライダー達を逃すために足止めをしていたはずなのだ。




「ガーラ師匠は!? ガーラ師匠はどこなの!!」




 彼らはこの場にいない。最も頼りになる人物に助けを求める。しかし、そんな人物は現れるはずもない。

 リトライダー達は逃げ回り、洞窟の最深部へと進んでいく。




「こ、ここは?」




 逃げ回っていたリトライダー達はある部屋にたどり着く。

 そこは洞窟の中には似合わない。綺麗に陳列された壺や大きな窯の置かれた部屋。




 ダンジョンというよりも研究施設に近い部屋に彼らは疑問を感じるが、考える暇もなくゴーレムは追ってくる。




 部屋の出入口は一つ。出口にはゴーレムが立ち塞がり、逃げ場はない。




 怯える二人を尻目に、リトライダーはガーラの姿を思い出す。




 どんな時でも、どんな強敵でも、背を向けず、恐れることなく立ち向かった憧れの姿。




 そして冒険者試験の時、聞こえて来た彼の過去……。




 彼が一人、ゴーレムに立ち向かい。洞窟に残ったのは、再びあの悲劇を起こさないためなのだろう。




 リトライダーはガーラの姿をなぞるように覚悟を決める。




「や、やる。やってやるぞ……」




 リトライダーは腰から下げたナイフを手に取り構える。

 リトライダーの手にはわずかに震えが残っている。その様子を見て、ミエとダズも各々の武器を手にリトライダーと並んだ。




「私たちだって……」




「やってやるっすよ」




 リトライダーは二人が一緒に戦ってくれることが心強く。恐怖が少し和らぐ。

 しかし、敵はガーラですら、圧倒していたゴーレム。駆け出し冒険者である彼らには真っ向から戦って勝利できるとは言い難い。




 だが、彼らはただの駆け出し冒険者ではない。




「いくぞ……」




 彼らには師匠がいる。




「いつも通り、ミエ! 援護頼むぞ!」




「任せなさいな!!」




「ダズ!! 行くぞ!」




「おうっす!」




 リトライダーは魔法計算を行い、自身に《軽量化魔法》を付与し、ゴーレムに向かっていく。




 ゴーレムは長い腕を横なぎに払い、リトライダーに攻撃を仕掛けるが、リトライダーは風に乗るようにゴーレムの腕をスレスレのところで躱す。






『お前はいちいち迷いすぎなんだ。考えることは大事だが、迷うな』






 ゴーレムはリトライダーを追って腕を振り回すが、リトライダーには当たらない。

 ゴーレムがリトライダーに気を取られているうちに、ダズは魔法計算を行なって、《身体強化》を自身に付与すると、ゴーレムの懐に潜り込み、ゴーレムを胴体を殴り付けた。




 ゴーレムの体は宙に浮き、ヒビが入る。






『お前は攻撃をするとき、いつも腰が引けてるよな。何をビビってるのか知らんが、いちいちビビるな』






 ゴーレムはダズの攻撃に驚き、ダズに警戒を切り替える。そして長い腕を振り下ろし攻撃をするが、






『お前は後衛なんだろ。パーティの土台だ。周りをよく見て判断しろ』






 しかし、ゴーレムの腕は空気の壁に弾かれ、ダズには届かない。




「《空壁(ミュールエール)》」




 ミエが風魔法を使い、風の壁を作って、ゴーレムの攻撃を防いだ。




「助かったっす!!」




「当然よ」




 ミエの魔法により、ゴーレムが動揺している隙に、ダズとリトライダーは一旦ミエのいるところまで後退し、作戦を練ることにした。




「どうするっす?」




「相手はゴーレムだ。俺の攻撃じゃ歯が立たない。俺が囮になる。隙を見て攻撃できるか?」




「ええ、任せてちょうだい」




「ああ、いけるっす」




「よし! ならそれでいくぞ!」




 リトライダー達はゴーレムに向かって、向き直す。










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