第5話  【冒険者一行】




 金髪の男がナイフを振り、ベアウルフに攻撃を仕掛ける。

 しかし、ベアウルフは一歩後退しナイフを華麗に躱す。




 バンディ山の北西の外れにある林。そこに三人の冒険者と一匹のモンスターが交戦をしていた。




「ダズ!!」




 金髪の男は丸刈り頭の男を呼び、指示を出す。




「分かってるっすよ!」




 丸刈り頭の男は魔法陣を展開し、自身に《身体強化》の魔法を付与すると、




「ウォォっス!」




 丸刈りの男はベアウルフに殴りかかった。

 しかし、ベアウルフは宙へと飛び上がり、丸刈りの男の攻撃を間一髪で避ける。

 空振りに終わった拳は、流れるように地面に突き刺さり大地を砕く。




「すばしっこいっすね! …………って、なッ!?」




 大地を揺るがした拳は地面にめり込み、埋まってしまい丸刈りの男は身動きが取れなくなる。

 そんな身動きが取れない丸刈りの男を見て、好奇と思ったのか。ベアウルフは空中で向きを変えると、丸刈りの男目掛けて特攻してきた。




「危ない!!」




 丸刈りの男の首筋に噛みつこうとしたベアウルフ。しかし、突如として現れた見えない壁にぶつかり、丸刈りの男に後一歩のところで牙は届かなかった。




「《空壁(ミュールエール)》」




 それは丸刈りの男の後ろにいた、オレンジ色の短髪の魔法使いの放った魔法。




 空気を凝縮させ、クッションを作る作る魔法。風魔法の中でも中級レベルの魔法であるが、多くのところで活用される汎用性の高い魔法だ。

 しかし、この魔法を放った魔法使いはまだ魔法の操作に慣れていないのか、持続することは出来ずにすぐに解除した。




「た、助かったっすわ〜。ミエさん」




「当然よ!! 私を誰だと思ってるのよ」




 丸刈りの男は拳を地面から抜くと、魔法使いに礼を言う。




 ベアウルフは消えた《空壁(ミュールエール)》を警戒し、丸刈りの男へと攻撃を仕掛けようと回り込もうとする。



「おい!! 油断するな! ダズ!! ミエ!! まだだぞ!」




 ベアウルフの姿を少し離れたところから見ていた金髪の男が二人に向けて叫ぶ。

 油断していた二人だが金髪の男の言葉を聞くと、すぐに戦闘態勢に戻る。




 金髪の男は“魔法陣“を展開すると自身に《軽量化魔法》を付与する。そして身軽になった状態で、ベアウルフにナイフを向け切りかかる。

 丸刈りの男を狙っていたベアウルフであったが、金髪の男に気づくと、身軽な身体を利用して森の中を縦横無尽に動き出した。




「くらえぇ!!」




 ベアウルフは上手く地形を利用して避けていく。金髪の男も負けず劣らず追いかけるが、致命的な一撃を与えられない。




「コイツ、早いっ」




 丸刈りの男も魔法陣を展開し、金髪の男の援護に行こうとするが魔法使いに肩を掴まれ止められた。




「なんすか? ミエさん」




「アンタが行っても意味ないわ」




「ひ、ひどいっすわ〜、ミエさん。俺だって《身体強化》を使えば……」




 しかし、魔法使いは首を振る。




「それは無理よ。アンタ……デブだもの」




「ガーン! ひどいっすわ〜」




 丸刈りの男はお腹を摩る。

 そのお腹はスイカでも入っているように大きい丸い。




「だから、アンタはトドメ。アンタのパワーなら確実に倒せる」




 魔法使いに言われ、丸刈りの男は自身の拳を見つめる。




「……それも、そうっすけど………。どうやって、ベアウルフを捕まえるんすか?」




 そう例えパワーが有ったとしても、当てられなければ意味はない。




「私に“作戦“があるの」




「“作戦“っすか……」




 魔法使いは丸刈りの男の耳元で作戦を聞かせる。

 そして丸刈りの男は魔法使いから作戦を聞くと、納得したようで再び、“魔法陣“を展開し、《身体強化》を付与しすると戦闘をしているベアウルフと金髪の男の元へと走っていく。




 金髪の男はベアウルフを追いかけ続けるが、そろそろ疲れてきたようで追いかける速度も遅くなってきた。




「リトライダーさん!!」




 そんな金髪の男だが丸刈りの男がやってきたことで、一旦ベアウルフを追いかける速度を下げ息を整え直す。




「遅いぞ。ダズ!!」




「す、すまないっすわ〜。でもミエさんと作戦を考えたっす」




「作戦? なんだ……」




 金髪の男は作戦に疑問を持ち尋ねるが、丸刈りの男はそれには答えず、金髪の男の体を抱きしめるようにガッチリ掴む。




「ん? なんのつもりだ…………ダズ」




「それじゃあ、行くっすよ〜」




 丸刈りの男は金髪の男を持ち上げた。

 《身体強化》の魔法の効果により、運動能力が増上している。そのため簡単に持ち上げることができる。

 そしてその強化された肉体を使い、




「お、おい!! まさか!!」




「そのまさかっす!!」




 丸刈りの男は金髪の男をベアウルフに向かって投げ飛ばす。

 さすがのベアウルフも仲間を投げるとは思ってなかったとようで動揺し、避けるのが一瞬遅れてしまう。

 しかし、ベアウルフの俊敏さは高く、遅れてもどうにか避けることができた。




 だが、ベアウルフには見えてなかった。

 投げられる金髪の男に隠れ、丸刈りの男が走ってきていたということに……。




「これで終わりっす!!」




 しかし、ベアウルフは素早い動きで有名なモンスターである。

 不意をついたとしても、普通の攻撃ではベアウルフに避けられてしまう。だから、




「ウゥオォっす!」




 丸刈りの男は金髪の男の足を掴むと、自身を軸にし回転し始めた。

 金髪の男は足を掴まれたまま、ぶん回される。




 すでに攻撃を警戒し後ろに下がったベアウルフであるが、金髪の男を武器に使った攻撃は、ベアウルフの想定していた距離よりも長く。

 ベアウルフは金髪の男の頭部に当たり、吹き飛ばされる。




 吹き飛ばされた衝撃で岩に背中を強打したベアウルフは気を失い倒れ、魔素と化し姿が消える。

 金髪の男も頭に大きなタンコブが出来上がり、そのまま意識を失った。




「よ、よっしゃ〜っす!」




「やった!! 私たち、三人だけでモンスターを討伐できた!!」




 ベアウルフを討伐した二人は、初めて三人だけでモンスターを倒した喜びから、金髪の男を放置してハイタッチをする。

 そしてお褒めの言葉を貰おうと、高木の上から見下ろしていた鎧の男を見る。




 しかし、その男は頭を抱えるとため息を吹く。そして武器を持って降りてくる。




「お前らな〜」




 呑気に武器をしまおうとする二人を見て、鎧の男は再びため息を吹きそうになるが、それを抑えて金髪の男を指差す。




「ほら、お前ら、リトライダーを起こせ……。そろそろくるぞ」




 二人は状況が分からず首を傾げる。

 ベアウルフは討伐した。なのに何が来るというのだろうか。

 そうな二人が疑問に思っていると、森の奥から唸り声が聞こえだす。

 そしてその猛獣のような唸り声に聞き覚えがあることを思い出し、二人は身を構える。




「ま、まさか……」




「まだ、いるんすか?」




 怯える二人を背に、鎧の男は巨大なオノを唸り声の聞こえる林の奥へと向ける。




「当たり前だ……。ベアウルフは群れを好む。一匹のわけがないだろ」






 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎






 月の光も入らない暗闇の森で、四人の男女は火を焚き、身を寄せ合っていた。

 炎の脇には串に刺さった魚が置かれており、焦げ目がついた魚を各々が手を伸ばし口にする。




「ブッハァッ!」




 リトライダーが喉を抑えてむせる。




「またっすか〜、リトライダーさん。しっかり噛まないから骨が刺さるっすよ〜」




「うるせー! ダズ!! テメーが俺を投げるから……こんな大きなタンコブが出来たんだ!! 痛いんだよ!!」




 魚の骨を魚で流し込もうと、どんどん口に入れるリトライダー。

 その姿を見ていたミエは魚を入れた状態で大きく口を開けて笑う。




「アハハ! でも、本当にでっかいタンコブ。ダズも酷いことするね……ッ!? 痛、骨が刺さった」




「いや、あれミエさんの作戦……ッ! 骨がァ! 刺さったっす!」




 骨の刺さった三人を無視し、ガーラは一人黙々と魚を食べ進める。




 ガーラは『水晶(クリスタル)』の称号を持つ“冒険者“である。

 “駆け出し冒険者“である三人とは、ある出会いがきっかけで、“弟子“入りをせがまれ、付き纏われている。




「……ガーラ師匠」




 ガーラが魚を食べ終わるのを見計らって、三人は立ち上がり頭を下げる。




「すみません。俺たちが未熟なばかりに今回も助けてもらって」




「俺はお前たちの“師匠“になった覚えはないが…………」




 三人はさらに深々と頭を下げる。




「そうです。俺たちはただガーラ師匠を尊敬して、師匠の受ける依頼を追いかけているだけです。しかし、そんな俺たちを師匠は毎回助けてくれます」




 ガーラは食べ終わった魚の骨を焚き火の炎の中に投げ捨てる。




「…………うぬ。毎回毎回……。いつモンスターに食われてもおかしくないな」




 三人は申し訳なさそうに縮こまる。




「だが、毎回毎回、お前たちは成長してる。一匹のベアウルフとはいえ、お前たちは討伐した…………成長したな……」




「し、師匠……」




 三人は泣きそうなりながら、ガーラに飛びつこうとするが、ガーラは体を捻り避ける。

 避けられた三人は地面に顎をぶつけるが、すぐにガーラに顔を向ける。




「俺は“師匠“になった覚えはない」




 ガーラはそう言い、三人から目を逸らした。






 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎






 翌日、冒険者一行はベアウルフの討伐を終えたことを“ギルド“に“報告“するために、“ルガル村“へと向かっていた。




「あ、ミエさん、それ、俺のオヤツっす」




「良いじゃない、少しくらい」




「良くないっす。ミエさん、いつもそう言って全部食べるっす」




 小さな箱に入ったクッキーを取り合っている二人。

 そんな二人の後ろから肩を上下させ、息を切らせて助けを呼ぶ声が聞こえる。




「ダズ、ミエ…………そろそろ、変わってくれねぇか。もう疲れて………」




 三人分の荷物と装備を持ったリトライダーは、その場に座り込む。




「何よ。疲れたアピール? そんなことしなくていいから、早く立ちなさいよ」




「そうっすよ。ジャンケンに負けた人が装備を持つって、言い出したのはリトライダーさんっすからね。俺は変わらないっすよ」




 リトライダーはいっそのこと、荷物を全て置いて行こうかとも考えたが、二人の先にいるガーラが先へと進んでいくのを見えて、置いて行かれたくない一心で付いて行く。




「…………ン?」




 しばらく進んだところで、ガーラの歩みが止まる。




「どうしたんすか? ガーラ師匠もリトライダーさんに荷物持たせる気になったっすか?」




「…………そんなふざけたことはしない。それよりも……」




 ガーラは三人にバレないように密かに“魔法計算“を行い、《魔力感知》を使っていた。




 《魔力感知》とは使用者を中心に、周囲の魔力や魔素の動きを察知できる魔法。

 周囲の“警戒“や“探索“時などに使うことが大半であり、周囲の警戒のために使っていたのだが。




「あの洞窟……異常だ……」




 その魔力感知にある洞窟が引っかかった。




 魔力感知を使用していなければ気付くことはできないが、魔力の異常な流れと感覚。

 経験豊富なガーラはこの洞窟が通常とは違うことにすぐに気づいた。




「異常? 何かいるんですか、ガーラ師匠?」




「…………」




 最近ギルドでの依頼にある疑問を抱いていた。

 それは本来ならば、北西の地では出現するはずでないモンスターの討伐依頼。何か異常事態が起こっているのではないかと懸念していたのだが、この魔力の感覚からガーラはある考えに至った。




「おい、お前ら、まずはギルドに戻る。俺たちだけじゃ危険だ。他の冒険者に頼んで……調査はそれから…………」




 ガーラは洞窟が危険だと考え、一度ギルドに戻ろうと提案するが……。




 リトライダー、ダズ、ミエの三人は洞窟に無鉄砲に入っていく。




「おい!! お前ら!!」




「大丈夫ですよ!! 何かあるなら探索あるのみです!!」




「大丈夫って、どこからその根拠は来てるんだ……」




 ガーラは止めようとするが、止める前に三人は洞窟の奥へと入って行ってしまった。




「…………馬鹿が………」




 ガーラは“魔法陣“を展開し、“魔法計算“を行う。

 そして新しく《魔力感知》を使用する。




「…………昔の俺なら、気にすることはなかっただろうに…………今の俺はどうかしてる」




 ガーラはオノを手に洞窟の奥へと入っていった。






 続く






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