殺し屋たちの哲学を 抱えて死ぬ気の 三千道

エリー.ファー

殺し屋たちの哲学を 抱えて死ぬ気の 三千道

 花火が打ちあがる前に貴方を殺す。

 そういう仕事なんだ。

 悪く思わないでくれ。

 俺も、一生、こんな仕事をしようとは思っていない。けれど、成り行き上続けているこの仕事で多くの人を殺している。今回も、まさにそれという訳だ。

 分かってる。

 俺も、今の自分のしていることに誇りを感じている訳ではない。

 本当さ。

 ただ、それとこれとは話が違う。

 金をもらい、仕事をすると言ってしまった。

 今更、断ることはできないし、誰かにこの仕事を譲ることはできない。

 この世界はな、すべて丁寧に整頓されている訳じゃない。俺たちのような人間がそのあたりを綺麗にしているから整理整頓されているように見えるんだ。

 さっき死体になった双子もそうだろう。あいつらを雇ったお前は明るいところにいるのかもしれないが、あの双子は俺となんら変わらない。ただ雇ってきた相手が誰だったのかということに過ぎない。

 本当に、それだけなんだよ。

 それだけで死ぬんだよ。

 俺が今日まで生きていた理由だった粗末なものだ。

 ただ、このまま生きていくことを諦めたからだ。欲を出さなかったからだよ。

 その都度、どちらが勝ってどちらが負けるのかを考えて生きてきたからさ。我慢をし続けて、自分のストレスをどこかで発散して。

 殺し屋を名乗る。

 自分のこの腕と背中で名乗る。

 それを繰り返してきたからだ。

 この場所から見える花火は綺麗だろうな。

 いや、子供のころに母親と一緒に見にきたことがあるんだ。ここの花火をな。

 どこで見たと思う。

 そうだよ。

 この部屋で見たのさ。

 母親とな。

 さあな、それからどんなことがあって俺という人間が、この部屋に特に用事もなければ入ることもできない人種になり、そして最後はこの部屋を花火を見るために訪れるんじゃなく、汚すために訪れる様になったのかは語るに値しない。

 あんたに対してじゃない。

 こんなものは誰にも語るべきじゃない。

 言葉なんて持ち合わせるべきじゃない。

 そうだろう。

 俺はここから見える景色に自分の過去を重ねて、たった今だって自分の母親の顔を思い出そうとした。でも、もう思い出せない。

 忘れたんじゃない。

 思い出せない。

 そうやって自分に呪いをかけて生きてきたからだ。その呪いが気が付けば本当になって俺の頭から母親の顔を消し去った。

 生き別れさ。

 この呪いはもう解けないし、それはきっとここで花火を見たって変わらない。

 愛とか恋とか、温もりとか優しさとか。

 そのすべてを探すために自分の人生を使うことは今後ないんだよ。

 思い出の花火なんかじゃない。

 そういう花火が過去にあったというだけだ。

 炎が空中に生まれて、いや、火でもいいか。

 とにかく夜空が明るくなって地面に向かって燃えカスというゴミをまき散らす。

 そういうショーだと思ってる。

 そういうショーだと思うようにしたよ。

 ほら、もうすぐ司会者が壇上に立ってこの祭りの開始を告げようとしている。

 間もなく。

 花火が上がる。

 そうしたらここでも小さな花火があがる。もしかしたら夜空に打ち上げるべきかもしれないが申し訳ない。そんな礼儀は持っていないし、そのための時間を割くのが適切だとも思えない。

 あんたももう十分殺してきただろう。

 相手のことも自分のことも。

 もう、いいだろう。

 楽になろう。

 最後に一言だけいいかな。

 俺のことを覚えているかい。

 あぁ。

 そうか。

 何でもない。

 いや。気にしないでくれ。

 こうやって年配の女を殺す時に同じ質問をするんだ。そうすると、皆揃って言うんだよ。

 貴方の生き別れた母親は私よ。

 あんたもその口か。

 いやいや、ごめんな。

 さっきの話、全部作り話なんだよ。

 でも、良かっただろ。

 派手な花火と乾いたジョークはとびきり合うんだよ。

 特にあんたみたいな嘘つきにはな。

 じゃあな。

 二百六十四人目の母さん。

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