新たな出会い?

 ベッドに横たわるタケル。その隣には街の医師と、心配そう……でもないサラがいた。

 医師は口を開いた。


「心配はいりません。マナの使い過ぎで気絶しただけです。少し寝ていれば目を覚ますでしょう。今後はマナの使い過ぎにお気を付けて。また何かあったらご相談ください。」


 そう言い医師は席を立った。しかしサラは納得していなかった。まず第一にタケルは魔法も魔道具も何も使ってない。さらに言えばサラでさえマナの使い過ぎで気絶する事はあるが、タケルはマナの使い過ぎで気絶した事なんて無いからである。考えられるのは、あの石碑がタケルのマナを一瞬で全て奪ったという事だ。サラが思考を巡らせていると、早くもタケルは目を覚ました。


「サラ姉……ここは?」

「家ですよ。ここまで運んでくるの大変だったんですからね。」

「俺……やっぱり倒れたのか」

「ええ、お医者様はマナの使い過ぎで気絶したのだろうと言っていました。心配はいらないそうです。」


 そういえばギルドの依頼の途中だった。もう夜も遅いしギルドが閉まる前に薬草を集めて来ないと。そう思いベッドから起き上がろうとしたタケルにサラは言った。


「薬草なら私が集めて依頼は達成できました。ちゃんと報酬も出ましたよ。」


 それを聞いて俺は安心した。しかし、ふと思い出した。夕飯の支度をしないとサラ姉にどやされる。俺はベッドから起き上がった。


「夕飯の支度なら私が済ませておきました。タケルがいつ目を覚ますかわかりませんでしたし。」

「サラ姉……少しは優しいとこもあるんだ。」

「何か言いましたか?」

「何でもございません。サラ姉の手料理を頂ける事、誠に光栄でございます。」


 タケルとサラは食事の席についた。こう見えてサラは料理が上手なのだ。蒸し野菜と卵スープ、それに中央に鎮座ちんざするのは鳥の丸焼き。なんとも豪華な食事に少し不安を覚えるタケル。


「大丈夫ですよ。この鳥は森の帰り道仕留めた鳥で1チェンもかってません。野菜と卵はギルド依頼の報酬で市場で買いました。久しぶりに料理しましたが、楽しかったですし今回は貸しは無しということで良いですよ。」

「本当!? いただきます!」


 サラはにっこりと笑った。タケルにとって今のサラは天使に見えた。感激しながら食事をしているとサラは口を開く。


「そういえば、タケルが倒れた後、少し地面が揺れ洞穴ほらあなの入り口のようなものが現れました。明日行ってみませんか?」


 タケルも興味を惹かれた。タケルが倒れた後に入り口が現れたという事は未踏破みとうはのダンジョンに違いない。つまり、まだ見つかっていないが眠っている可能性があるのだ。しかしそれと同時に---


「でも、強いモンスターや強力なトラップが仕掛けられているかもしれない。せっかくギルドに所属したんだから、ギルドに要請して他の冒険者を---」

「明日、私たちだけで行ってみませんか?」


ぐい、と顔を近づけてサラは強い口調で言った。さらに続けて、


「ギルドに要請したら発見したお宝はほとんどギルドに持っていかれます。ここは私たちで総取りしましょう。」


 そういってサラは視線を落とした。その先には豪勢な料理。サラの目には”食べましたよね?”と書いてある。タケルの負けだ。


「わかったよ。明日行こう。」


 俺は軽くため息をつきながら答えた。サラ姉がこんなにがめついなんて珍しいし、相当興味があるんだろう。俺も興味が無いわけじゃない。明日お宝を総取りできると思ったら急にワクワクしてきた。お宝があるかは分からないけど。


 こうしてタケルとサラの冒険者初日は終わった。タケルは明日、いや未来への期待を胸に眠りについた。


 そして翌朝、昨晩の残りものとパンで軽く朝食を済ませ洞穴へと向かった。途中ギルドで有り金全部をポーションに変え、準備は万端だ。

 洞窟の前に立つとタケルは昨日の事を思い出した。


「何だったんだろう。何か吸われている感じがして……もしかしてマナを吸われていたのかな。」


 考えても仕方ない、と言わんばかりにサラはとっとと洞穴の中に足を踏み入れる。慌ててついていくタケル。松明たいまつを片手に少し進んだ所でサラが言った。


「この洞窟、比較的ひかくてき新しいわね。しかも、何者かによって作られたものみたい。」


 どうしてそんな事が分かるのか。俺は聞こうとも思ったが俺には聞いてもわからない。サラは非常に頭が良く博識なのだ。


「この洞窟、もしかしたら出口があるかもしれないわ。マナの流れが洞窟の奥まで続いているもの。」


 サラ姉の口調から相当興奮しているのが伺える。しかし気になる事がある。モンスター、というか生き物がまったく居ない。洞穴なんかはモンスターや獣の恰好かっこう住処すみかになるハズだ。

 タケル達はそう考えながら奥へ進んで行くが、そう深くない所で行き止まりだった。しかしそこには小部屋があった。タケル達が足を踏み入れると同時に小部屋にある松明に火が付き部屋が明るくなる。小部屋の奥には羽の生えた天使をかたどった石像があった。そして---


「私は天使イリス。汝に祝福を与えん。」


石像から声が聞こえる。


「やっと言えました。400年以上待ったんですから。」


 ん? なんだ? そう思ったのも束の間、サラ姉が話しかける。


「400年……つまりこの洞窟にあなたは400年幽閉ゆうへいされていたのですか?」

幽閉されていたわけではありません。私を扱える者を待っていたのです。選ばれし者ならこの私を破壊してみせなさい。」


その瞬間サラは詠唱を始め即座に魔法を放った。


「火柱-ヴォルカニック-」


 燃え盛る炎が石像を包み込む。しかし、目の前の状況にタケルは驚いた。


「傷どころかすす一つ付いてない」

「どうやら魔法そのものを吸収・・されたようです。」


「まだ人が……いや天使が話してる最中なのにいきなり魔法をぶっ放すなんて、なんとS気えすっけのある人なのでしょう。感激……いや慷慨こうがいしました。」


 この天使、なんか様子がおかしい。


「そうじゃありません。私の隣に刺さった剣で私を斬り付けてください。しかしこの剣はここへの扉を開いた者にしか扱えません。」

「俺の事か? もしかして、俺は選ばれし勇者で伝説の剣を扱える唯一の人物って事か?」


 そう言ってタケルは小走りで駆け寄り剣を抜き、石像を斬り付けた。その瞬間見事に砕け散った。石像と剣が。


「えええええ-----剣粉々になったんだけど! 俺の伝説の剣が!俺にしか扱えない剣が!」

「たしかにその剣はあなたにしか扱えないモノですが、その剣の持ち主を探していたのではありません。この石像の中にある吸魔石きゅうませきの持ち主を探していたのです。」


 粉々になった石像の残骸の中に赤く光る10センチほどの大きさのたまが見えた。タケルはその珠を手に取った。


「これが吸魔石?サラ姉これ何?」

「吸魔石……どこかで聞いた事があるような…」


「話は追々おいおいします。とりあえず外へ出ないとこの洞窟は崩落しますよ。」

 

 天使がそう話した瞬間地面が揺れ始める。タケルとサラは急いで洞窟の出口まで向かった。無事脱出した2人はゆっくりと帰路きろについた。

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