第78話 目覚めぬ者

「今日も起きないか……。」


 俺はベッドで規則正しい呼吸をしながら静かに眠る三人を見た。


 あの一件から一週間。


 結果から言うと、ギルバード以外に死者は出なかった。俺が直接運び出したサスケとアンとシフォンとレナは無事だった


 それに、サランを含めた『ドラグニル』の騎士たちは、『ドラグニル』とは別の騎士団に引き渡され、何らかの処置を下されることになった。


 騎士団長であるギルバードがいないことや、サランのみが明らかに感情が昂っていたことで彼らに連行され、俺たちはあまり疑われることはなかった。

 もちろん一度だけ事情聴取を受けたが、はっきりと事の顛末を語ったこともあり、あっさりと釈放されたのだった。


 しかし——。


「——旦那。入りますよ。」


「ああ。」


 声の主はサスケだった。


「まだ目を覚ましませんか?」


「全くだな。一体どうなっているんだ……?」


 三人は全く目を覚さなかった。

 呼吸は安定し、顔色もいい。

 特に苦しげな様子もなく、空腹や喉の渇きを訴えてくることもない。

 さらに特に外傷もないので、全く原因がわからない。


「おそらくギルバードの魔法でしょう。解除するためにはやつの死だけではいけなかったようですね。」


 てっきりギルバードが死ぬことで、自動的に解除されるものだと思っていたが、そんなこともなかった。

 

「だな。どうしようか……。」


「……一つだけ心当たりがありますが」


「心当たり?」


 サスケが顎に手を当てる仕草を見せた。

 ヒラヒラと袴を揺らし、グッと顔をしかめている。


「ええ。某の故郷に行きませんか?」


「……極東の国か?」

 

「はい。旦那もご存知の通り、極東の国ジェイプは医療の技術が非常に進んでいます。もしかしたら、何かわかるかもしれません。」


 極東の国——ジェイプの出身であるサスケが言うのだから間違い無いのだろう。


 それに、こちらで普及している液体のポーションの上位互換である丸薬のポーションを見る限り、医療の技術に関してはあちらの方が上だろう。


 選択としてはあり。しかし……。


「三人を置いてはいけない。ここは王都だ。俺たちがいなくなったら誰が三人の面倒を見るんだ?」


 王都に俺の知り合いはいない。

 フローノアに行けば別だが、ここは俺たちにとっては完全に管轄外だ。


「それは——」


「ししょー!? いらっしゃいますでしょうか! 何やら事件に巻き込まれたと、風の噂で聞きまして、お見舞いに参りました!」


「ルーク……! お前がいてくれてよかった!」


 楽しげな声とともに部屋に入ってきたのはルークだった。

 大きな出来事の連続だったせいで、俺がここへ来た本来の目的をすっかり忘れていた。

 

「し、師匠!? ど、どうなさいましたか!? そ、それと、そちらの方はどちらでしょうか……?」


 俺はルークの肩をガッと掴み、目を合わせて揺さぶった。


「彼はサスケだ。それより、ルークに頼みたいことがあるんだが……いいか?」


「え、ええ。構いませんが……。何か困りごとでも?」


 俺はルークの肩から手を離し、三人が眠るベッドの端に座らせた。


「ああ。実はな——」


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