【縮地】を極めて早三年〜Aランクパーティーから追放されて悔しいので秘境の山に隠居し、刀を使えるようにしたら最強になりました〜
チドリ正明
第一章 始まり
第1話 『漣』からの追放
「縮地!」
膝を軽く曲げ重心を低くし、前傾姿勢になると同時に、流れるような動作で地面を蹴ることで俺の縮地は完成する。
発動までに、約一秒。
体力の限界を迎えるまで動き続けることが可能だ。
敵はCランクのオーガキング。硬い皮膚と強力な一撃が特徴のモンスターであり、ここら一帯に数匹現れたうちの一体だ。
俺は右手に持つ小型のナイフでチクチクと全身に擦り傷を与えることで、時間を掛けてオーガキングの体力を奪っていく。
オーガキングの攻撃は俺に擦りもせずに、全てが空を切る。
切りつけ始めてからかれこれ十分ほど経過したが、オーガキングは多少の出血はあるもののピンピンしていた。
「おいおい。まだ終わんねぇのか?」
着実にオーガキングの討伐に近付いている俺に、不快そうな声色で文句を垂れたのは、パーティーリーダーで戦士のロイだった。
「ねぇー。ロイー。先行こうよ。まだまだ掛かりそーだよー?」
「そうですよ。私たちだけでギルドに戻りませんか?」
そんなロイの後ろから現れたのは、パーティーメンバーのサラリーとスズだ。
三人とも少し離れたところでそれぞれオーガキングの相手をしていたはずだが、もう終わったみたいだ。
「タケル。先に帰るぞ。ギルドで待ってるから終わったら来い。話したいことがある。行くぞ」
ロイは二人を両脇に侍らせながら、先にギルドへ帰っていってしまった。
はぁ。またこのパターンか。
俺の戦闘が長引きすぎるあまり、ここ最近は三人とも先に帰ってしまうことが多々あった。
昔は、全員で団結して強大なモンスターに立ち向かったはずなんだけどな……。
◇
あれから十分ほどでオーガキングを失血死に追いやった俺はギルドに帰還していた。
「話って何だ? 何か良いクエストでもあったのか?」
俺はギルドの三人掛けのベンチで足を組んで座っている三人に話しかけた。
「やっと来たか。ところで、お前は縮地しながらだと小型ナイフ以外は使えねぇのか? 腰に差してある刀は飾りか?」
「ああ。剣だと少し重くてね。あまりスピードが出せないんだ。それと刀は予備の武器だ。だが、まだまだ上手く扱えない」
俺はスピードに特化しすぎているのか、縮地しながらだと重量のあるものが上手く扱えないのだ。
「魔法とスキルも相変わらずか?」
ロイは小さなため息を吐きながら言った。
「そうだな」
俺は魔法は全く使えず、スキルは戦闘用のものは持っていない。
「そうか。なら決まりだな。二人ともそれでいいよな?」
ロイはニヤッと口角を上げると二人に同意を求めた。
「いいよー。前々から話してたもんねー」
「はい。別の人を入れれば良いと思います。剣士なんてたくさんいますし」
サラリーとスズはロイの同意に間髪を入れずに返していた。
「一体何の話だ?」
「速く動けるだけならパーティーにいらねぇ! お前を今日付けでAランクパーティー『漣』から追放する」
「お、おい! それはあんまりじゃないか!? 俺たち四人でFランクの頃から一緒にやって来ただろ!?」
俺たち四人は十六歳の時に意気投合し冒険者になり、Fランクの頃から四年の歳月を掛けて、最近になってやっとAランクパーティーにまで登り詰めたのだ。
「何言ってんだ。モンスターの討伐には時間掛かるし、他に何もしてないだろ? Aランクから先にお前は要らないんだよ。なぁ?」
「絶対いらないねー。早くフローノアから出て行ってー」
「はい。ロイの言う通りです!」
ロイは特徴的な金髪をふわりと揺らしながら、馬鹿にするような口調で言った。
「くそッ! 俺が抜けて後悔しても知らないからな!」
俺は三人の嘲るような目に耐えきれなくなり、ほろほろと滝のように流れてくる涙を吹きながらギルドを後にした。
「二度と顔を見せるな。速いだけのタケルくん」
ロイの言葉に二人は爆笑し、俺の悪口大会が始まった。
くそ! くそ! くそ!
俺だってスピードを生かして索敵をしたり、敵のヘイトを引きつけたりしてただろ!
俺は縮地を使い、訳もなくがむしゃらに走り続けた。
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