神様になりましたが願いを叶えてあげるかあげないかは"俺"次第

竹野きの

神様になりました

第1話 神様になりました!

 夏が近づいてくる心地よい気温の昼下がりの中、神社の拝殿はいでんの脇にある縁側で、俺は白猫をなでて木々をながめている。なぜそんなにまったりとしているのかというと……。


 それは……この"猫神神社ねこがみじんじゃ"の神様になってしまったからだ。




───きっかけは1週間ほど前。

 俺、神代恵太かみしろけいたは24歳の中堅サラリーマン。俺は、上司の無茶振りに悩みながら帰路についていた。


「あーもうっ……そんな、絶対に成功する企画なんてあるわけ無いだろ……」


 どこの会社でもありそうな愚痴をこぼしながら歩いていると、視線の先にぼんやりと白い何かが動いて脇道に入るのが見えた。


 今のはなんだ?


 気になった俺は、暗い脇道に入りその"何か"を探してみる事にした。


 多分この辺りに入っていったと思うのだけど……


 すると、目の前に灯籠とうろうの明かりが並ぶ様に石の階段が見える。和風の柔らかなオレンジ色の光がどこか祭りを思い出させて懐かしく感じる。

 入り口の脇に目をやると、立札が立っているのが見える。その立て札には墨で書いた文字で何か書いてある様だ。


 "願い事1つ叶えます。※但し神様次第"


「いやいや、神様次第ってそりゃそうだろ!」


 つい、声に出して言ってしまった。だけど、本当に叶うとしたら……捕らぬ狸の皮算用なのだが、願い事を考えながら階段を登る。


 願い事かぁ……


 成功する企画をください……うーん、1つしか叶わないのにこれはもったいない。


 企画の才能をください……ふむ、これなら次にも繋がるな……。


 いやいや待て待て、ここは願いを増やすのが先ではないか? だけど、神様次第と書いてある以上、そんなのはまず無理だろうな……。


 そんな事を考えながら気づけば拝殿の前に着いていた。夜の静かな神社は何処か神聖な雰囲気を増している様に感じる。特別な空気の中、本当に願いが叶う気さえする。


 5円玉を取り出して、お賽銭箱に入れ、2回礼をし、柏手かしわでを打った。


 パンッ!


 パンッ!


 静かな神社に音が響く。

 咄嗟に心の中で願い事をした。


(神様になれますように!)


 すると、拝殿の方から声が聞こえた。


「神様になりたいんですかにゃ?」


(えっ? 今のは願いが聞こえたのか?)


 恐る恐る拝殿に近づいて行く。中に誰かいるのだろうか? すると足元から先程の声がした。


「ふにゃあ……無視とは酷いですにゃあね……」

「し、白猫? ってか喋ってる?」


「わたしはこの神社の巫女の"ミイコ"神様は貴方の願いを受け入れましたにゃ」


「あー、願いを……ってあの願い!?」

「ですにゃ。貴方は今日からこの神社の神様の後を継いで頂きますにゃ……でも、にゃんか頼りなさそうですにゃあね……」


 失礼なミイコは、縁側から降りると中学生位の巫女服の黒髪少女に変わる。


「ふぅ、貴方にはこの方が説明しやすいですね……って何ジロジロ見ているんですか?」


「いや、人間の耳だなって……」

「当たり前です。これは行事用の姿ですから猫耳を残したら怪しまれてしまいます!」


「あぁ、そう言う事……」


「話がそれましたが、それとは別に、貴方には今日から神様の力を使って願いを叶えて貰います」


 ミイコはそう言うと、懐から細かく縦に折り畳まれた紙を取り出す。


「神様の力でって……あぁ、今から説明しようとしてくれているのか」


 するとミイコは神社の祈祷きとうの様ないい方で読み始めた。

「かけ〜まく〜も……」

「ちょっと待った! なんで急にそんな言い方になるんだよ?」


「神様に大事な事を伝えるときは間違いない様に伝えなくてはならないので……」

「普通でいい、普通でいいよ!」


「……そうですか。では、神様は3つの力を使えます。」


 1つは、その人の過去や行いを見る力。

 2つ目は、願いを叶える力。

 3つ目は、この街の猫と話す力


「ん? 最後神様というか猫使いじゃない?」

「ここは、猫神神社。特有の能力ですね」


 ミイコの説明である程度は、理解する事が出来た。だが、今からとなると色々問題が出て来る。


「あのさぁ、俺会社員だから明日も普通に仕事あるんだけど……」


「その辺りはおきになさらず、こちらで諸々の手続きを済ませて会社にも猫を一匹送ります」


「いやいや猫って……」

「貴方のやっている程度の仕事でしたら猫の手で充分でしょう」


「おいっ! まぁ、その辺りがどうにかなるなら……それで今からは何をすればいいんだ?」


「拝殿の奥に部屋がありますので、着替えてからそこで猫でも愛でていてください。参拝者が来られたら呼ばれますので、それまではご自由に……」


「猫でもって……自分の事、だよな?」




 ───こうして、俺の神様生活がスタートした訳なのだが、あれから翌日の昼まで誰も来る事が無かった。


 暇なので朝方から縁側に出ていると、ミイコが膝の上に丸まる。白猫のモフモフは気持ちがいいのだけど、それとは別に心配になってくる。


「全然来ないんだけど……」

「まぁ、参拝者は神様のカリスマ性によりますからにゃあ……」


 昨日まで一般人の俺にカリスマ性などある訳が無い。このまま空を眺めているのだろうか?

 すると、一人のお爺さんが階段を上がってくる。


「お?」

「神様出番ですにゃ!」


「隠れた方がいいのか?」

「大丈夫ですにゃ、神体は意識して見せようとしない限りは普通の人には見えないですにゃ!」


「おお!便利!」


 お爺さんは、拝殿の前まで来ると参拝する。


 パンッ


 パンッ


 "家族みんなが仲良く過ごせますように"


 柏手が響くとお爺さんの願いが聞こえてきた。

 なるほど、これが神様の能力の一つか……なるほど、内容としてはよくある願い事だな。


 というか、この願い事どうやって叶えたらいいんだ??

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