step11.リスタート(7)
「一緒に、お参りに行くだけでいいんです。お願いします」
「そうだね。たまには、初詣も、いいだろうし」
「ありがとうございます!」
良かったぁと、ほっとした様子で手を握り合わせていた琴美は、すぐにまた眉根を寄せて妙なことを言い出した。
「すみません。もうひとつ、お願いがあるんです」
「え」
「わたし、元日に、いちばん初めに店長と話したいんです」
「?」
「新しい年に、店長が最初に話す相手も、わたしだといいなあって思うんです」
なんじゃそりゃ。
と思っていたら、アコまで同じことを言い出した。
『じゃ、十時に駅前に集合ね』
「わかった」
『ヨッシー、それまで誰とも口きいちゃダメだよ』
「は?」
『ダメったらダメ。新年にいちばん最初に由基と話すのはアコじゃないとダメなの!』
「なんかの呪い?」
『なんでもいいからダメなの。アコとあけおめするまで口開かないで』
「無茶言わないでくれよ」
『ムチャじゃないもん、アコも頑張るからヨッシーもやって』
電話の向こうでアコが目をうるうるさせている気配が伝わってくる。
「悪いけどパス」
『パスなし! いい? アコ以外の人と最初にしゃべったら呪ってやるんだから』
やっぱり呪いじゃないか。
アコがしつこいのでなし崩しに訳のわからない約束をさせられ、そういえば、琴美にも同じ頼み事をされたなと思いはしたけれど、他愛もないことだと深くは考えなかった。当日、会ったときに確認されても、「誰とも話していない」と流せばすむことだろう。
大みそかの夜、通常より一時間早く閉店して仕事を終え、スーパーに寄り道して年越しそばと酒を購入して家に帰った。物の少ない寒々しい部屋でテレビを見ながらそばをすすってシャワーをすませる。
布団に潜り込みながら、明日実家に電話をするのを忘れないようにしなければと考える。また母親からどうして帰省しないのかと責められるだろうが、長期の休みを取りにくいのだから仕方ない、と言って宥めるしかない。それも毎年のことだ。
テレビのニュース番組では全国各地の年越しの準備の様子が流れている。もうすぐ新しい年が始まる。とはいえ、由基の日常にまるで変化はないし、それでいいと思う。いいと思うのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます