step5.ソイフレ
step5.ソイフレ(1)
「あのね……」
それまで会話のイニシアチブを持っていた由基が黙ったことで、アコがおそるおそるといった様子で話し始めた。
「アコ、ヨッシーがお仕事してるお店見つけたんだ」
ナヌッ? 思わぬ告白に由基は驚く。
「メッセではああいったけど、デートまで我慢できなくて、いつもこの道を通るのなら会社はこの向こうなんだよなって。別にほんとに見つけられるとは思ってなかったよ。会えたらおもしろいなーってぶらぶらしてたらケーキ屋さんあって、ヨッシーがいて」
そういうこともあるだろう。もはや力なく由基はアコの話を聞く。
「ヨッシーがお仕事してるところ見て、かっこいいなって思ったんだ。外からガン見してるアコのことに気づかないでさ、一生懸命キウイの皮剝いてた」
「はは、フルーツカットは苦手なんだ。不器用だから。それに目が合うと恥ずかしいからさ。視線を感じても顔をあげないことにしてる」
「ヨッシーらしいね」
くすりと笑った気配に目を向けると、その表情は今までになく大人びていた。
「あたし、そんなふうに誰かが働いてる姿を見たことなかったなって。ヨッシーはきちんと働いてる大人で、あたしはだらしないJKで、だからヨッシーがジョシコーセーなんかって言うのはそれはそうなんだけど……」
えええ、そこまでディスってはいない。先ほどまでのポジティブさから一転、ネガティブに妙なオーラを漂わせ始めたアコにさすがにフォローを入れようとしたとき、アコはでも、と由基と目を合わせた。
「ヨッシーはアコのこと、バカにしたりしないでしょ。最初からアコの話をちゃんと聞いて、助けてくれたでしょ。キョドることはあっても、ちゃんと返事をしてくれるでしょ。だからアコはヨッシーならって思ったんだ」
話を聞くにつれ、この子はこれまでどういう男と付き合ってきたのだろうと思ってしまった。出会ってすぐホテルに連れ込むような輩ばかりだったのだろうか。恋愛脳ゆえのだめんずウォーカーなのだろうか。由基だってアコから見ればマトモな大人に見えるだろうが、世間一般では頼りない方だと自分では思うし。
何はともあれそうとなれば由基が言ってやれることはひとつだ。
「アコちゃん。君の恋愛観はどうあれ、もっと自分を大事にした方がいいよ」
「アコ自分を大事にしてるよ。なんだかんだ自分が好きだもん。だめな子ほどカワイイみたいな」
「俺が言いたいことは少し違うんだ。自分を安売りしちゃ駄目っていうか」
「売りなんてしてない……っ」
「ああうん。だからそうじゃなくて」
寝不足と疲れで頭がもうぐだぐだだ。
「セックスするのはお互いのことをもっとよくわかってからじゃないとって」
言葉を選ぶ余裕がなくて直截的な言い方になったが、アコにはわかりやすかったようだ。
ぱっと目を見開いてアコは身を乗り出した。
「わかった! ヨッシーはソイフレから始めたいんだね」
ソイフレ? 大豆の何かだろうか。
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