step4.デート
step4.デート(1)
電車で帰る
スマートフォンでラインのアコとのトーク画面を開く。アコからのメッセージはスクロールして戻らないと溜まっていたすべてに目を通せない。いつもはほったらかしなのだが、このときはなんとなく画面を上にスクロールしてみた。
『デート候補地!』
といくつかURLが貼られている中のひとつ、透明感のある水色にいくつも気泡が流れる背景の画像が目についた。アコからのメッセージに初めて興味を引かれた瞬間だった。
駅前からシャトルバスが出ているショッピングモールにやって来る移動水族館の広告だった。日時は来週の日曜日午前十時から午後五時まで。由基は頭の中でシフト表を広げる。
基本的に由基の公休は週に一日。あとはパートのスタッフたちの出勤状況やケーキの予約状況などに合わせて早上がりしたり半休を取ったりして調整している。来週の日曜日は琴美が一日通しで入ってくれるから由基は早上がりできそうだ。
だからといって、行くのか? 自分が。JKとデートに。うーむ、とそれまで考えていたことを一旦放棄した。非現実すぎる。
テレビをつけ、いつも見ているニュース番組にチャンネルを固定する。行楽日和の週末、各地のレジャー施設の賑わいが続々と紹介される。公園の噴水プールで遊ぶ幼い子どもたちの姿に由基の心も素直に和む。
あんなふうに明るい日差しの下ですごすことは今ではめっきり減ってしまった。ほぼ毎日アパートと職場の往復で、休日にはいつも家でごろごろしている。稀に友人と会っても飲みに行くくらいで、釣りやゴルフやキャンプといったアウトドアな趣味もないから戸外に出る機会が少ないのだ。不健康極まりない。
最後に太陽の下で活動したのがいつだったか思い出せない。何年か前、会社の研修旅行でバーベキューをやったときだろうか。つらつら考えていると、スマホからまたメッセージの着信音がした。
『ヨッシーは映画かカラオケのほうがいいのかな?』
映画は好きだがカラオケはやらない。今上映しているタイトルの中に気になる映画があるにはあるが。
『それとも海とか行っちゃう? 恥ずかしいけど、ヨッシーにならアコのすべてを見せちゃうぞ』
そういうのはいいから、と頭を抱えながら由基はスマートフォンを操作して返事をしていた。
『水族館が気になった』
送信ボタンをタップして画面にメッセージが表示される。途端に由基は自分のしたことに青くなった。送信を取り消したい。が、ノータイムで既読が付きアコからの返しが画面に現れた。
『モールの? 日曜の? 行っちゃう?』
『はい。昼で仕事が終わればだけど』
『やったああ。おけ! 日曜の午後ね。きゃあああ、ヨッシー大好き』
『まだ確定では』
『わかった! 決まったら教えてね! 待ってる!』
もたもた返信をする由基に比してアコのメッセージは小気味のいいテンポで返ってくる。こういうところからして世代の違いを感じる。というか、今まで散々無視していたクセに、何を普通にやり取りしているのだろう。アコもどうしてそのことを言って寄越さないのだろう。
しっくりこない気分のままやり取りをして、日曜の午後に一緒に移動水族館に行くことを約束してしまっていた。
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