step3.アプローチ(3)

 いちばん最後に昼休憩に入り、事務室で琴美が買ってきてくれた焼き肉弁当を広げながら由基はおそるおそるスマートフォンの画面を覗いた。

 予想通りアコから大量のメッセージが届いていた。昨日今日ではなく、ラインを教えたその晩から始まったことだ。


『ごはん』

『今日のボムはこれ』

『宿題』

『おやすみなさい』

『朝から雨だー』

『アコがデコッた傘カワイイでしょ』

『朝からキライな先生に会っちゃった気分ワル』

『新作ネイル』

『今日から半袖』

『新しいマーカー色がお気に』


 などと、画像も交えて送って寄越すのだが、一ミリも由基の興味はわかない。返事のしようもないし最初からする気もないから既読スルーなのだが、自分で言っていた通りアコはそれでいいらしく、送るだけで満足だと言わんばかりに一方通行なつぶやきを送信し続けてきた。

 ところがそれも二日後には次の段階に入り、メッセージは由基への問いかけに変わってきたのである。


『ヨッシー起きてる?』

『今日も仕事?』

『ていうかなんの仕事してるの?』

『ねえねえお休みはいつ?』

『ねえってば』

『デートしよ』

『会いたいよ』

『おーい』

『で・え・と』

『会いたい』

『ヨッシーのバカー』


 どんどん頻度が増え要求に変わっていく内容に由基は恐怖を覚え、そのうち電話がかかってくるのではないかとひやひやしていたのだが、アコは電話をしてくることはなかった。今の若者はメッセージならポンポン発信するけれど通話は苦手でハードルを高く感じるのだと聞いたことがあるから、アコもそうなのだろう。


 いずれにしろ、このまま無視していても事態は好転せず、アコがまた夜の駐車場に現れるのではないかというのは想像がつく。なのでライン上でくらい適当に相手をしておけば、とも思うのだが、由基の方はラインでのやり取りなど慣れていないし、今更どう返事をしようかとも悩む。


 食事をしながらどうしたものかと思案するそばから、またアコからメッセージが届いた。

『暑いね。というわけで、新しい水着』

 しっかりばっちり水着姿のアコの画像が添えられていて由基は米をふきだしそうになった。黒地に白い水玉模様のビキニで脇をしめて谷間を作っているのがあざとい。グラビアかっとツッコミつつ、ガン見してしまうのは男なのだから仕方ない。JKはNGではあるけれど。


「げ。あんた昼間っから何見てんの。欲求不満?」

 背後からのあんまりな指摘に由基は硬直する。

「ていうかラインじゃん。ちょっとちょっと。寂しいあまりにそっちに走っちゃった? マジかんべん。女子高生相手に淫らな行為に及んだら通報の前にソッコー解雇だからね」


 黙っていれば言いたい放題。何か言い返してやろうと振り返ったが、担当エリアマネージャーである三咲みさきの目のあまりの冷たさに、由基はスミマセンと謝ってしまいそうになった。

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