ソンヂューロ
若林紅
プロローグ
「マルノヴァ・ソピーロ」
それは、この世界が始まる以前の物質。
かつて地上で起こった大災害。
それを発端に始まった戦争により地上は荒れ果てた死の星となった。
残ったわずかな人間は地下シェルター“Refuge of Ideal Permanence”へと逃げ延び、そこで新たな文明を築き上げた。
それから数百年。地上を忘れた人類はさらに科学を発展させ、ついに究極の薬剤「ドゥオブロ」を造り上げた。
ドゥオブロは注入された物質が破壊されるとそこを起点に物質を元の形状へと回復・再生させるという性質を持つ。このドゥオブロの登場によって様々な資源が再生可能になり、シェルター内は常に満ち足りた生活ができるようになったのである。
しかし、ドゥオブロの効果が及ぶのは「ノヴァージョ」――シェルター内で作られた物質を指す――だけに限られていた。
また、人間に使うことはシェルター内を管理する統一組織「ウーノ」が取り決めた国際法で固く禁じられており、また安全を保障するものではないとされる。
この性質から、「マルノヴァ・ソピーロ」と呼ばれる、ドゥオブロが効かない物質、つまり戦火を逃れた物品は、シェルターで富を築き上げた人間たちにとって垂涎のコレクションとなった。
マルノヴァ・ソピーロは易々と見つかるものではない。シェルターの拡張作業など、ごく限られた条件でのみ見つかるものであり――つまり、人間はまた新たな争いの火種を獲得したのである。
そして、これらに高額な価値が付けられることから、一獲千金を夢見る人間たちもこれを奪い合うことになったのである。
ウーノは治安維持のため、こうした人間をラビストと呼び、取り締まっているが、ラビスト達は自分たちのことをこう呼んでいる――
ソンヂューロ――夢みる人、と。
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