第一話 妖精の啓示

00 プーク

 プークは各地に伝承が残る、悪戯いたずら好きの妖精だ。


 容姿は地域によって異なる。例えばブリギット地方では草花のかんむりを頂く赤ん坊の姿で、下半身は山羊やぎとして描かれている。


 家の小物が行方知れずになったり、残しておいたビスケットがかじられていたら、それはプークのしわざだ。悪戯はどれも可愛いものだが、ときには子供をさらい、家人の大切なものを隠してしまうような困った行いもあるという。


 奪われてしまったものを取り戻したければ、蜂蜜はちみつ入りのミルクを用意するのが効果的だ。好物に誘われて姿を現したプークは、盗品を傍らに置いたまま夢中で蜂蜜入りのミルクを飲み続ける。その隙に、持ちものを返してもらうというわけだ。


 またプークには、運命を司る力があるとも伝えられている。


 こんな話がある。プークが富豪の財布を盗み、貧者に拾わせた。善良な貧者は正直に富豪へ財布を届けるが、盗人ととがめられて痛めつけられてしまう。プークはまた同じ富豪から財布を盗むと、傷ついた身体で夜の路地に横たわる貧者の前に落とした。貧者は迷わず、再び富豪へ財布を届けた。驚いた富豪はようやく妖精の悪戯だと気付くと、自らの行いを恥じ、貧者に仕事と屋敷を与えて善行に報いた。


 こんな話がある。ある若い男女が恋に落ちた。しかし親同士が反目しあっており、結婚は許されない。生まれの不遇を嘆いた二人は、せめて女神の膝元で幸せになろうと毒を飲もうとした。そこにプークが現れ、致死の毒を仮死の薬にすり替えてしまう。なにも知らずに妖精の秘薬を飲んだ男女は息を引き取った。二人の死を知った親たちは、互いの不仲が招いた悲劇を反省し、大いに後悔した。二つの家は遺恨を水に流し、せめて恋人同士を同じひつぎ埋葬まいそうしてやろうと話し合う。そこで仮死の薬の効能が切れ、若い男女は息を吹き返した。そして二人は親の許しを得て、幸せに暮らした。


 破壊と再生、生と死、善と悪、プークの悪戯がどちらに転ぶかは、人間の心しだいなのかもしれない。


 ――フラン・ビィ『妖精の啓示』(幻想書院、一七二五年)




【登場人物】

 ユウリス・レイン:黒髪の少年。レイン公爵の子。本編の主人公。十四歳。


 カーミラ・ブレイク:赤毛の少女。ユウリスの友人。十五歳。

 ミック:太っちょの少年。ユウリスの義弟アルフレドの子分。十三歳。


 白狼:ウルカと旅をする魔獣。雌。

 ウルカ:亜麻色の髪の女性。怪物狩りの専門家。外見は二十代の半ば。

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