第105話 誕生日デート⑤
「いいお話でしたね……」
映画が終わってシアターを出ると、涼風がボソッとそう言った。俺は迷わず涼風を抱きしめた。
「謙人くん?どうしたんですか?」
「いや、ちょっとこうしたくなってな……」
「ふふっ。謙人くんも案外、感情移入しちゃうタイプなんですね」
俺たちが見たのは恋愛映画だ。病気を持った彼女のために、彼氏がやれるだけのことはするんだけど、結局……。っていう感じの切ないラブストーリー。そのヒロインに涼風を重ねてしまうと、こうせずにはいられなかった。
「涼風があのヒロインみたいになったらって思うとな……」
「謙人くんって、私のこといつも可愛いって言ってくれますけど、そういう謙人くんも今、すごく可愛いです」
俺が可愛いって?いったいどんなことをしたら俺が可愛く見えるってんだ?
「俺は可愛くなんかないぞ?っていうか、男が可愛いっていうのもどうなんだろう……」
「でも、今の謙人くんは私的にはとっても可愛いです」
ま、涼風がとっても楽しそうだから、細かいことは気にしなくてもいいか。
「そっか。でも、俺的には涼風が一番可愛いと思ってるからね」
涼風は真っ赤になって俯いた。いくら言われても褒められるのにはなれないらしい。そんな涼風もめっちゃかわ。
「あ、ありがとうございます……」
「それじゃ、行こっか!」
さて、映画の後は~、イタリアン!ふっ、俺がこのデートプランを何回頭の中でシミュレーションしたと思っている?もう今日のプランは完璧に頭の中に入っているのさ。
「謙人くん、お昼ご飯はどうするんですか?」
よくぞ聞いてくれた、涼風!
「うん、もう予約してあるお店に行こうと思うんだが、涼風はイタリアンは好きか?」
「はい!ピザとかパスタとか、大好きです!」
天使や……。ここに天使がいる……。めちゃくちゃ可愛い天使がここにいるわぁ……。
「あの、謙人くん?大丈夫ですか?」
はっ!涼風の可愛さに昇天するところだった。でも、個人的には死因が涼風っていうのも本望……、
「あの、謙人くん?」
「涼風の可愛さに殺されるっていうのも最高だな……」
「へっ⁉」
あれ……?も、もしかして、また声に出て……?
「謙人くん、な、なにを言ってるんですか?」
しまったぁ~!また声に出してしまった~!
「え、え~っと……、涼風さん?」
涼風は俺の腕になぜかしがみついてきた。
「謙人くんが死んじゃうのは嫌なんです。謙人くんが死んじゃうっていうのなら、私、整形します。そうすれば、謙人くんも死んじゃいませんよね?」
そんな純粋な目で俺を見ないで。俺がひたすら罪悪感に埋め尽くされてしまうから。
「あ、あの、涼風?流石に冗談だから。涼風はめちゃくちゃ可愛いっていうのは事実だけど、俺が死んじゃうっていうのは冗談。さっきの笑った涼風が天使に見えてさ。こんなに可愛い天使なら、そのまま連れて行ってもらっても悪くないなぁって思っただけだよ」
は、恥ずかしい!自分の考えていたことを全部さらけ出してしまった。めっちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。
「そ、そうだったんですか。えっと……、あの……、と、とにかく!謙人くんが死んじゃわないならいいんです」
涼風はそれきり、レストランの席に着くまで俺と目を合わせようとしなかった。
「不意打ちはずるいです……。あんなこと言われたら、ニヤニヤがとまらなくなっちゃうじゃないですか……。謙人くんのバカぁ……」
もちろん、そんなことを涼風が呟いていたなんて、俺には知る由もないのであった。
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