第89話 体育祭⑥
ものすごい喧騒に包まれた借り物競争も終わり、今はお昼休憩の時間だ。俺と涼風はさっき見つけた両親のところへ向かった。
「おっ!涼風と謙人くんじゃないか!こっちこっち!」
義治さんが俺たちに気づいて手を振ってくれた。そしたら俺の父さんも立ち上がって手を振ってきた。当然、涼風は俺の両親がいるのを知らないわけで……、
「えっ……、なんで、謙人くんのご両親が……?」
「あらあら、涼風ちゃんったら、そんな堅苦しい言い方じゃなくて、お義父さんお義母さんでいいのよ?むしろそう呼んでほしいわ」
母さん、登場してすぐ、そんな涼風を困らせるようなこと言わないでくれ……。
「あ~、涼風?実は、涼風をびっくりさせようと思って、父さんたちと義治さんたちが一緒に来ることは内緒にしておいたんだ。びっくりさせてごめんね?」
仕方がないから種明かしだ。
「じゃあ、謙人くんは皆が来ること、知ってたんですか?」
「ま、まぁ、そういうことだな」
「むぅ~。私だけ仲間外れなんて、ずるいです……」
そうきたか……。これはお詫びが必要だよな。
「ごめんな涼風。仲間外れにするつもりはなかったんだけど、やっぱり嫌だったよな?お詫びにお昼ご飯は俺が食べさせてあげるから、それで許してくれないか?」
涼風はあからさまに嬉しそうな顔をした。
「こ、今回だけなんですからねっ!次は許さないんですからねっ!」
どうやら機嫌を直してくれたようだ。それにしても、ツンデレ涼風、可愛すぎやしませんかね?
「なぁ、謙人くん。君は涼風に、ちょっと甘過ぎはしないかね?」
義治さん、それは聞かないでくださいよぉ……。俺だってちょっとそんな気がしてるんですからぁ……。まぁ、でもさ、
「好きな女の子に甘くなっちゃうのは当たり前じゃないですか?それに、涼風には自分の中にため込まないで、ちゃんと俺に伝えてほしいので」
これは俺の本心だ。涼風が好きだから、甘やかしたくなるし、涼風が好きだから、辛いことはため込んでほしくない。
すると義治さんは、俺の両肩に手を置いて、
「謙人くん、君は本当にいい人だな。僕の事はお義父さんと呼んでほしい。いや、呼んでください。そして涼風。涼風も駿と花恋さんのことはお義父さんお義母さんと呼びなさい。いいね?」
「「は、はぁ……」」
今、俺そんなにいいこと言ったか?普通の事だったような気がするんだけどなぁ……。
な~んて考えてると、トラブルメーカーが参戦した。
「あ!涼風ちゃん、見~つけた!一緒にお昼ご飯食べることになってるんだけど、いいよね?」
おい……、長谷川先輩……。借り物競争の時、人前で堂々と誘ったのを断られて、まだいけると思ってるのか?はぁ……、もう知らん。おとなしく消え去ってくれ。
「お、お義父さん……。こいつ、最近涼風に妙になれなれしいんですよ……。涼風もいつも相当迷惑してて、俺が何回追い払ってもしつこくやってきては涼風に迫るんで……。退治してもらってもいいですか?」
お義父さんは親指を立ててニコッと笑った。
「可愛い息子と娘のためなら喜んで引き受けた!……さて、と。そのゴミ、捨ててきますか……」
えっ?お、お義父さん?お顔がすごく怖いんですけど……、あの、懲らしめるくらいにしてくださいね?
「ねぇねぇ、涼風ちゃん。どこで食べようか?」
「あの、私は謙人くんと食べるので……」
「えっ?僕と一緒に食べたいって?嬉しいこと言ってくれるじゃないかぁ~」
「おい……」
ひぇっ!お、お義父さん!そのお顔はさすがに怖すぎますって!これじゃ、いくら先輩でも……、
「ねぇねぇ涼風ちゃん。早く行こうよぉ~」
え?効いてない?それとも、聞こえてないのか?いや、そんなことはないだろうよ。だって、あんなに至近距離であんな低い声だったんだよ?気づかないほうがおかしいって。
涼風も自分の父親の形相にやや困惑気味であった。そして彼女が、ついに……!
「あ、あの、先輩?後ろに……」
先輩が涼風の声にゆっくり後ろを向いた。あぁ、ゲームオーバーだ……。
「あん?誰だおっさん。ってか近けぇんだよ、気持ち悪い。どっか行け、クソじじい」
その言葉に我慢できなかったのは、お義父さん本人……ではなく、
「先輩。今の言葉、撤回してください」
俺だった。
「は?意味が分からん」
「そうですか。親が自分の子供の安全を気にするのは意味が分からない事なんですか」
先輩はいよいよ分からないと言った様子で純粋な疑問の目を俺に向けた。ここまで言ったんだから、気づけよ……。
「はぁ……。先輩、この人は、涼風のお父さん。姫野義治さんです。これを聞いても、まださっきまでのような口がきけますか?」
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次回!終末の長谷川伴彦!
なんか時代劇でありそうじゃないですか?笑
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