第82話 落ち着かない
「それじゃあ、各自自分の競技を覚えておいてくださいね~。今日はこれまでとします!」
終わったぁ!さて、今日の晩御飯は何にしましょうかねぇ?
「涼風~!帰ろ~!」
俺はスキップでもしそうな勢いで、涼風の方へ行った。ところが涼風は、少し困ったような顔を見せた。
「どうした涼風?具合でも悪いのか?」
もしかしたらこの間の熱がまたぶり返したのではないかと心配になったが、どうやらそういうわけではないようだ。
「いえ。あの、実はですね……放課後、お呼び出しをされてしまいまして……」
「へっ?誰に?志賀先生?」
涼風に何か用事だろうか?
「違くて……、先輩に、です……」
「えっ…………」
先輩に呼ばれたということは、もうそれは告白で確定だろう。でも、そんなのいつ言われたんだ?朝も涼風と一緒にいたはずだけど……。
「さっき、お手洗いに行った時に、放課後校舎裏に来てほしいって。それですぐに行ってしまったんで、断れなくて……」
そういうことか……。それにしても、こんなに俺が涼風との関係を学校で広めたというのに、まだ告ろうとするやつがいるとは……。かなりびっくりだ。
「そっか。じゃあ、校門のところで待ってるから。何かあったら叫んでくれれば分かると思う」
涼風はかなり不安そうにしている。俺は彼女の頭に手を乗せて、ゆっくりと撫でた。
「大丈夫だよ。怖くないから。何かあったらすぐに行くからね」
「はい……」
とはいえ、心配なのは俺も一緒だった。
それから五分後、涼風は校舎裏へと向かった。俺は下駄箱で涼風と一旦別れて、校門の方へ……とは向かわず、こっそり涼風の後をついて行った。
あんな不安そうな顔をされて、様子を見に行かないほうがおかしいだろう。だから俺のやっていることは正しい!……はずだ、多分。
校舎裏の柱に身を潜めて、涼風の様子を窺うことにした。まだ先輩は来ていない。涼風は、落ち着かない様子で、不安げにしていた。本当なら駆けつけて抱きしめてあげたいところだが、それは彼女の勇気を踏みにじることになりそうだから、ぐっと我慢だ。あくまで俺は、涼風のピンチの時のみ駆けつければいい。
「おっと、待たせちゃったかな?ごめんね」
すぐに先輩が来た。なかなかにイケメンの先輩だ。きっと、三年の間ではそこそこ人気があるのではないか?
「そ、それで、あの、話っていうのは……」
涼風はガチガチに緊張している。ちょっと心配だ。
「うん、あのさ、単刀直入に言うけど、僕と付き合ってくれないかな?」
はぁ……。やっぱりな……。涼風がこうならないように色々と動いたつもりではあったが、無理なものは無理か。
「えっと、私は先輩の事、なにも知らないと思うんですけど……?」
そりゃそうだ。だって、涼風が先輩と話してるところなんて、一回も見たことないもん。あ、俺うるさい?はい、すいません、黙ります。
「けど僕は君の事、何度か見たことがあってね。可愛い子だなって思ったんだ。だから、どうかな?」
「お気持ちは嬉しいですけど、ごめんなさい。それに、私付き合ってるんです。だから、あなたとは付き合えません」
「そっか。じゃあ、二番目でもいいんだけど、ダメ?」
ちょっとすいませ~ん!失礼します!なに、二番目って?え、それ、「二股してくれない?」って頼んでるのと同じだよね?
「私はその人の事しか好きになれないので、本当にごめんなさい」
嬉しいよ~涼風~。よし、今日はデザートにプリンを作ってあげよう!
「そっか、なら今日は諦めるけど、また近いうちに言うから。とりあえず、僕の中では後夜祭で僕と君が躍るのは確定事項なんだ」
はっ?アイツナニイッテンノ?確定事項?いや、お前の妄想だろ?
それだけ言うと残念イケメン先輩は去っていった。俺は柱の陰から出て、何事もなかったように校門で涼風を待った。
少しすると、涼風がこっちに歩いてきた。
「謙人くん、お待たせしました」
俺は涼風の手を握って、微笑んだ。
「お疲れ、涼風。怖くなかったか?」
涼風もにっこり笑ってくれた。
「はい!謙人くんから勇気をいっぱい貰ってるんで、全然へっちゃらでした!」
うん、全部見てたから知ってるよ。涼風、君は本当に強い子だよ。
「頑張ったね、涼風!」
それから二人で一緒に帰って、デザートには約束通り、俺がプリンを作った。
「美味しいです!謙人くんのプリン!こんなものまで作れるなんて、やっぱり謙人くんはすごいです!」
「ありがとな。って言っても、作り方見ながら作ったから、俺のオリジナルってわけでもないけど」
「そんなことないですよ。私なんて、初めて作るものは、レシピ見ながらでも失敗しちゃうんで、一回でできちゃう謙人くんはすごいです!」
俺は涼風の近くに行って、彼女を抱きしめた。
「ありがとな、涼風。今日もさ、ちょっとだけ不安だったんだよ。涼風のこと信じてるとか言いながら、ちょっとだけ不安になっちゃったんだ。ごめんな……」
涼風は俺の頭を優しく撫で始めた。
「私だって、謙人くんが他の子とお喋りしてるのを見ると、嫉妬しちゃいますもん。それはお互い様ですよ。でも、今日呼び出された時に、相手の人から可愛いって言われたんですが、全然嬉しくありませんでした。やっぱり、その、謙人くんにそういうことは言われたいなって……」
俺は涼風を強く抱きしめた。もう、愛しさがどうしようもなくこみ上げてくる。俺は精一杯の気持ちを込めて、彼女に告げた。
「涼風、いつもとっても可愛いよ。俺はそんな涼風が、心の底から大好きだ!」
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ご都合主義の俺様キャラは主人公にボコされるのが落ちですよね……。さて、謙人くんはどうするんでしょうねぇ?
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