17 俺の世界でハイレグが流行ったのは何年前?

 メルが目指した服屋は、町の大分外れにあった。

 鍛冶屋から10分以上歩いた気がする。

 ここは小さな町だったが、メインの通りを軸に細長い作りになっていて、建物と建物の隙間からはのどかな緑の風景が見えた。


 こじんまりした白い店のウインドウには、可愛らしい女ものの服が飾ってある。奥に見える商品が華やかな色のものばかりなことに俺は不安を覚えるが、メルは「着いたぁ」と両手を上げて喜びながら店のドアを開けた。


 「いらっしゃいませ」と出迎えてくれたのは、40代くらいの落ち着いた感じの男だった。顎髭あごひげと髪は白髪だらけで、生成りのエプロンと丸い眼鏡が印象的だ。


 店の奥には作業場もあって、ここで服を作っているらしい。良く見ると男物の服もチラホラと見えるが、8割方は若い女物のようだ。やはりお洒落をたしなむのは女の方が多いようで、俺の居た世界と変わらないのかもしれない。


「明日エルドラに行くんだけど、彼の着替えを揃えて欲しいの。3着くらいあれば普段用にも使えると思うから、頼んでもいいかしら? あと、この間注文しておいたのはできてる?」

「もちろん。そろそろ来ると思って準備しといたから、行ってきな」

「ありがとう、ヤシムさん! じゃあ、後はよろしくね!」


 何のことだかよく分からないが、メルは俺をヤシムに預けて、颯爽と奥の部屋へ消えてしまった。

 他に店員の姿もなく、俺は彼と二人きりになってしまう。


「彼女に新しい服を頼まれていてね」

「そうだったんですか」


 メルが入っていった部屋の扉を振り返る俺に、ヤシムが説明する。そして、男物の数少ない服の中から数組の上下と下着を見繕ってくれた。

 どれも落ち着いた色の無難なものだ。


「その服は、アンタの世界のものか?」

「はい。学校の制服です」

「ほぉ。イイ感じだな。俺もそういうの作ってみるかな」


 そう言って、ヤシムは俺の襟元を指差す。どうやらネクタイを気に入ってくれたらしい。

 紺色のジャケットに映える、濃い赤と細いシルバーのストライプ柄だ。


「ここにある服って、全部、えっと……ヤシムさんが作ってるんですか?」

「あぁ。町には他にも幾つか洋服店があるが、メルには贔屓ひいきにしてもらってな」


 町には男女ともシンプルな服を着ている人が多かったが、きっと特別な日にはここに飾られているような可愛らしいものや綺麗な服も着たりするのだろう。

 俺は家庭科が苦手だから、服を作れるなんてただただ尊敬してしまう。


「そうだ。アンタ、魔王親衛隊の女たちには会ったのか?」

「マーテルさんや、リトさんですか?」

「そうそう。あの二人の服も、俺が作ったんだぜ」


 ちょっと自慢気に鼻を鳴らしてニンマリとするヤシムに、俺は一瞬だけ軽蔑するような視線を投げてしまった。いや、本当に一瞬だったから気付かれてはいないだろうけど。


「あ……あれをですか? ヤシムさんが?」

「なかなかいいだろう?」


 確かに否定する箇所がないだけに、俺は正直に「はい」と頷いた。

 あのハイレグはこの世界で彼が発信したものだったのか。


 ヤシムは実に嬉しそうに何度も頷いて、俺の服を詰め込んだ袋をカウンターの横に立て、がっしりと腕組みをした。


「あの服は、ヤシムさんがデザインしたんですか? それともあの、魔王様が? あ、いいえ、何か凄くいいなとは思うんですけど、あんまり見掛けない服だと思って」

「そうそう。俺も初めて見た時は腰抜かしそうになったね。あんな大胆な服を着せようだなんて、アイツも好きモノだよな? でも異世界ではああいうのが流行ってるんだろ? 鍛冶屋のゼストがあれにしろって五月蠅く言うもんだからよ」

「えっ? 俺のいた世界で?」


 ハイレグが流行ったのなんて、いつの時代の話だろうか。

 鍛冶屋のゼストが向こうの世界を好きな事は聞いていたが、もしやタイムスリップまでしているんじゃないだろうな?

 その間違った情報のせいで、ハイレグのままマーテルやリトが向こうの世界に行っているのだと思うと、何だか申し訳ない気分になってしまった。


 それにしも、親衛隊の制服がゼストの頭の中でアレに至った経緯を俺は知りたい。

 だって、同僚に着せるってことだよな? セクハラだろ?


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