第13話 カレーライス

子供と言わず大人と言わず、食べ物にはいろんな思い出があり、その思い出は一生忘れる事は無いだろう。特に子供の頃の思い出ともなれば、その家の「家庭の味」として味覚(みかく)に大きな影響を与えると同時に、様々な感傷(かんしょう)を焼き付けているはずである。私にとってそれはカレーライスである。

 朝、家を出る時に、今日の晩(ばん)御飯(ごはん)はカレーラースだと聞いた。カレーライスは嫌いではないが以前程あまり喜びは湧(わ)いてこない。カレーライスはワイワイ大人数で食べるほうが美味(おい)しく感じる。六人家族のうち二人が家を離れ、帰宅の遅い父を別に、母と妹と三人で食べるのは少々寂(さび)しい。

 中学生の頃は、家でカレーだといえば必ず兄の高校の同級生二人が学校帰りにやってきて、うちの家族の夕飯(ゆうはん)前に鍋の半分ほどの量を食べて帰るのである。母もそれがうれしいようで六人家族なのにいつも倍ほどの人数分だと思われる量のカレーを朝から作っている。時(とき)によっては前日の夜からつくりはじめたりする。

兄の同級生は、

「旨い!お前の家のカレーは本当に旨(うま)い。なんでこんなに旨いんだ!何か秘密があるんだろう、教えろ!うちでもやらせるから。」

と言って必ず二杯や三杯はお代わりをして、うちのみんなの夕食で食べる分が無くなるのではないかと心配する程食べて、「今度はいつカレー?カレーするときは必ず呼んでや!」と腹をさすりながら帰っていったものだった。

 確かにうちのカレーは、よそのカレーや気取った店で食べるカレーよりも美味(おい)しかったように思う。みんなどこの家でもそう思っているだろう。

母に聞いても姉に聞いても、何も変わった調理(ちょうり)方法(ほうほう)や味付(あじつ)けはしていないと言う。ただ砂糖(さとう)が少し入っているだけ。そのほかは市販(しはん)のルーを使い、普通(ふつう)に作るだけ。少しだけ違うのは六人家族なのに十人分ほどを朝から仕込んで煮込(にこ)んでいるだけである。特殊なことはしていないと言う。しかし、同じ調理方法、同じ味付けであるにも関わらず、近頃(ちかごろ)は以前のような美味しさはあまり感じられないのはどうしてだろうか。

兄の友人たちがパクパクお代わりをしながら食べるのを見たり、大人数(おおにんずう)で食べるから、あちらもこちらも美味しく食べられたのであろう。そのワイワイガヤガヤ言いながら、面(おも)白(しろ)可笑(おか)しく食べていたのが楽しくて、それが我が家のカレーを美味しくしていた一番のスパイスだったのかもしれない。あの頃のカレーライスが懐(なつ)かしい。


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