第12話 正月(しょうがつ)とスイカとメロン

四国に詳しくない人は、四国は南国(なんごく)で年中(ねんじゅう)暖(あたた)かいと思っているだろう。特に高知県はそうに違いないと思われている。

しかし、高知県でも四国(しこく)山脈(さんみゃく)のあたり、徳島県、愛媛県、香川県との県境に近い地方は豪雪で交通が遮断されることもしばしばである。

 太平洋に面した海側(うみがわ)のこの地方でもやはり冬は寒い。しかし雪は降らない。いや、降らないというのは嘘(うそ)になる。降る。しかし一年に一回か二回、「あれ⁉ これは雪か⁉」という程度のほんのちょっぴりの申し訳程度の雪がパラパラ、ひらひら降るだけである。

 そんな日に寒くて学校にコートなどを着ていくと,先生が

「お前ら雪でも降りゆうかや⁉ 降(ふ)りやーせんろう? 積(つも)っちゃーせんろう!? もっと寒い雪のいっぱい降る本州(ほんしゅう)でも高校生はコートを着(き)やせんぞ! そんな物着(き)んでも風邪ひきやせん。」と訳の分かったような分からないようなことを言う。

単純な我々は「そうか、先生の言う通り、ここは雪が降らんからそれも一理(いちり)ある。」と変な納得をしてコートは着ないようにする。

だが実はコートを着ないのは脱ぎ着が面倒くさいのが理由の半分で、半分は制服の下にセーターなどを着ているからそれなりに暖かいのである。冬が寒いのはどこも変わりはない。

 期末試験、クリスマス、年末大掃除、新年の飾りや餅の準備等と忙しい。雪は無いが寒い十二月が過ぎて「行く年来る年」を見て、年越しそばを食べて、やっと正月が来る。

 正月(しょうがつ)三(さん)が日(にち)。これでボーとして過ごせる。

と思っていると正月(しょうがつ)元旦(がんたん)から我が家には年賀(ねんが)の挨拶(あいさつ)に来る人がいる。年賀(ねんが)の挨拶(あいさつ)は二日からだろうと思うのだが皆さん元旦からやって来られる。家族は『ま、親父の仕事の関係上長年(ながねん)こうだから仕方がないか。』とあきらめてはいる。が、毎年一つ問題が起こる。問題は、皆さま持ってきていただく『お年賀(ねんが)の品(しな)』である。

 「お正月ですので珍しいものをお持ち致しました。どうぞ皆さんでお召し上がりください。」

 「夏場(なつば)の物よりこの寒い時期の物が一番美味(おい)しいですよ!」

 と言って、皆様お持ちいただくのが、メロンかスイカである。

 こんな調子(ちょうし)であるから、我が家の床(とこ)の間(ま)には正月用の紅梅(こうばい)の掛(か)け軸(じく)の下に、お鏡餅(かがみもち)の横に、スイカ様(さま)メロン様(さま)が五つ六つ鎮座(ちんざ)されることになる。

 ありがたい話であり、ご厚意(こうい)には、感謝はしているのだが、こうなるとこれからが大変になる。早く食べないといけないのだ。

 スイカとメロンを近づけて一緒に置いているとスイカが爆発(ばくはつ)するのである。『それを避(さ)けるためには離(はな)しておいておかなければならないのだが、離(はな)す距離(きょり)はわからないし、冬に冷えたスイカを食べるのは…。』等(など)と考えているうちに、『せっかくだから早くいただくのが一番だろう。』と頑張(がんば)って食べる事になる。

 確かにこの時期のスイカやメロンは一番甘(あま)く美(お)味(い)しい。それは本当である。

しかしこんな状況(じょうきょう)で、寒い正月に、炬燵(こたつ)に入りながら、これだけの量のスイカとメロンを食べるのは、いくら美味(おい)しいスイカやメロンでも、我慢(がまん)大会(たいかい)の様相(ようそう)を呈(てい)してくる。

 この地方では過去二期作(にきさく)や二毛作(にもうさく)が行われてきた。その勤勉(きんべん)な農家の中から、新たな生(せい)産品(さんひん)を増やして特産物を増やそうと頑張っている農家が、新しく大きなビニールハウス栽培(さいばい)を始め、様々(さまざま)な野菜や花の栽培をしてきた。その農家の努力によって、スイカとメロンはこの地方の正月贈答品の目玉になってきている。 

 まだそれが市場にあまり出ない時期に、珍しいうちに届けていただけるのは本当にありがたい事ではあるが…感謝申し上げてはいるのだが…。

一度皆さん試しに食べて見られてはいかがでしょうか? スイカが爆発(ばくはつ)する前に……。

食べ過ぎておなかが爆発(ばくはつ)しないように……。

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