第8話 職員室(しょくいんしつ)へ呼(よ)び出(だ)し

休み時間に教室でみんなとワイワイやっていると、

「おい!ちょっと職員室に来い!」

担任の先生がかなり焦ったような大きな声で私を呼びに来た。

『何かしたかな…?』と自問したが、何も先生に叱(しか)られるような事はした覚えがない。

同じクラスの仲間(なかま)とふざけあったり、一部の先生たちと冗談(じょうだん)をいいながらからかいあったりはするが、度(ど)を越(こ)した事はした覚えがない。

『考えても仕方がない。心当たりは無い。怒られるのならそれでもいいや。』

と職員室に向かった。

職員室の前で制服(せいふく)を正して、覚悟(かくご)し、一呼吸おいてドアに手をかけ、

「失礼します。」と職員室に入った。

 職員室に入ると部屋にいた先生全員が一斉(いっせい)に私の方を向いた。

何だ?この雰囲気(ふんいき)は?何だかやはり変だ。

怒っているような雰囲気(ふんいき)でもないし、呆(あき)れられている風でもない。

何だか不思議なシーンとした雰囲気が漂っている。

「嫌だな……」とは思ったが仕方ない。

 「先生!何でしょうか!」と担任の先生に声をかける。

 先生は、

「この間OB社の全国(ぜんこく)共通(きょうつう)試験(しけん)を受けたよな。その試験の結果が来た。」

と何だか落ち着きかえった重い声で話を切り出した。

『ハハーン、結果が悪くて、もっと勉強しろ、とのお叱りか?』

と覚悟したが、先生は意外な事を言った。 

 「お前も知っているように、この試験は日本全国のほとんどの高校生が受験している。

今回、お前の英語の成績が、全国で何万人もが受験した中で、3位だったそうだ‼

こんな成績をとった生徒が出たのは学校始まって以来初めてだ‼

よく頑張って勉強したな‼ 先生たちもうれしい‼

これからも勉強頑張(がんば)っていい大学に行ってくれよ‼」

と先生はさっきと打って変わって涙を流さんばかりに喜んでいるように言った。

お叱(しか)りや説教(せっきょう)でなくてホッとしてボ~としていると

職員室にいた全員の先生が立ち上がって拍手をしてくれた。

ここはひとつお礼を言っとかないといけないと思い、

「ありがとうございます。頑張(がんば)ります!」

と言って、悪い用件ではなかったとホッとして、急いで職員室を出た。

 特別に学校の英語の勉強を頑張(がんば)った覚えはない。

英語の成績が良くなったのにはこれではないかと思われる節(ふし)はある。

成績を上げようと単語を沢山(たくさん)暗記したり教科書の文法を特別に励んだわけ暗記したり、

教科書の内容の勉強を頑張(がんば)ったわけではない。

英語を学ぶ事をしなかったわけでもないが他の方法で、しかも動機は別のもっと単純なことである。

地理的条件なのだろうか高知のこんな片田舎(かたいなか)でラジオのFENの放送が聞けた。

たまたま中学時代にオーストラリアとカナダの同学年の女の子と英語で文通をしたことがあって少しは英語が好きになっていた。全体の聞き取りはチンプンカンプンだが、その中で『カンボジア』を『キャンボ~ディア』と発音しているのがわかり、なんだか楽しくなり、面白がって聞き始めた。

 FENの放送で音楽を聴いているうちに、アナウンサーのしゃべっている言葉を何とか理解したくなり、頑張って集中して聞いているうちに、少しは良く聞き取れるようになった。

 流される英語の歌の意味を知りたいと、歌詞の単語や歌詞を覚えて歌ってみたりした。

 中学時代からの楽しみが洋楽(ようがく)を聞く事。高校になってから、ますますその楽しみは自分の楽しみの中でどんどん大きくなり、ラジオで洋楽を聞きその中で気に入った曲のレコードを買うために少しずつ貯金をし、手に入れては聞き漁(あさ)った。

フォーク、ロック・ポップス・カンツオーネ・ボサノバ・ファド・ブルース等様々(さまざま)なジャンルの音楽に興味をひかれた。ここ何年か日本の歌謡曲は聴いた事が無い。

 三歳年上の姉の影響で中学時代から、アンディー・ウイリアムズショー、エドサリバン・ショー、サミー・デイビスショー、ソウル・トレイン等(など)の外国の音楽番組がテレビで放送されるのを毎回欠かさず見ていた。その延長(えんちょう)線上(せんじょう)に今回の結果があるだけである。

 確かに、英語の歌を聴いて、歌詞の英語を聞き取って、それを文字で書く……という作業が英語の上達方法の一つであるとは聞いてはいるが、それをやってはいたが試験勉強で頑張っているわけでは無い。今回は、たまたまそんないい成績が残っただけで、「いい大学に……。」等と言われても……。一方的な要望を言われるのも…勘弁(かんべん)してほしい。

勉強は勿論(もちろん)しなければいけないとは思っている。しかし『この学校出身者の中で過去にないような一番の成績を残すように試験勉強を頑張ってくれ。』等(など)と、過度(かど)な期待は持たないでほしい。私は単なる外国音楽好きで、歌詞の内容を理解したいだけなんだから。


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