第6話 神祭(じんさい)
我が町では町の東西にそれぞれ八幡(はちまん)神社が鎮座され、『東の八幡(はちまん)様』と『西の八幡(はちまん)様』とよばれ、信仰を集めている。
そして春と秋、それぞれの季節には神社の祭りがある。それが神(じん)祭(さい)である。神(じん)祭(さい)は前宮(まえみや)・本宮(ほんみや)・後宮(あとみや)と三日間執り行われる。本宮(ほんみや)の日には、神社の境内には朝から晩まで屋台がこの時ばかりと言わんばかりにたくさん出る。子供たちの大騒ぎできる日で、子供たちは学校が終わると、小遣いを握りしめて、一目散で神社に走っていくのだ。
各家庭では、その前日から当日の夜まで各地域で宴会が行われる。
各家庭や地域の人たちが集まりワイワイ言いながら祝う。
この祭りの間は、女性も料理をしなくてよい。
料理などしなくてもいいように、料理のいっぱい盛られた大きな皿鉢(さわち)をいくつも並べ、男女ともに酒の輪に入って、誰にも気兼ねすることもなく同じように飲み食いするのである。
皿鉢料理(さわちりょうり)には、刺身や寿司だけでなく水ようかんや子供が食べられるものも入っている。
男も女も、じいちゃんもばあちゃんもも、子供や孫も、この皿鉢料理(さわちりょうり)を囲(かこ)んでワイワイ言いながら食べたり飲んだりしている。
逆を言うとそれ以外の食べ物は無いに等しい、酒以外は。
この時期、特に春の神祭(じんさい)は高校生には辛い時期である。必ず期末試験が重なる。
今年も期末試験の二日目。昨夜は神祭(じんさい)。
「こんな時に試験をするかね!いかんぞね。学校も、もうちょっ考えてくれんろか。」
とクラスのみんなが不平を言う。
当然である。土佐では生まれた赤ん坊にすら祝いだと言って酒を嘗(な)めさせる。
何人か集まって酒を飲みながら大いに議論し、挙句の果てに、しこたま飲んで道路に寝込んで車にはねられて死んだら「あいつはえらい奴や!ようそこまで飲んだ!」などと褒(ほ)めちぎる。(実際にそんな人は見たことがないが…。)
そんな土地柄(とちがら)だから、高校生ともなれば、神祭では無礼講(ぶれいこう)とばかり、周りの酔っぱらいのおじさんたちが「お前はもう大人だ!飲め!」などと理不尽(りふじん)な訳の分からぬことを言って酒を強要する。
みんな断るが、どうしてもいう事を聞いてくれない場合は、仕方なく飲まざるを得ない場合が出てきてしまう。大人が飲酒を強要するとは、この町では法律はどうなっているのだ?
始業時間になり、先生がいつものように出席を取り始めたがまだ何人か来ていない。
「ありゃ?今日はどうした?なんでこんなに欠席が多い?」
と先生がぼやき始めると
「すみません!遅れました!」
と、何人かが雪崩(なだれ)れ込むように教室に駆け込んできた。
「神(じん)祭(さい)で夜遅うまで騒ぎよったか⁉」先生も仕方なさそう。
「まだ入江が来んな。誰か何か聞いてないかや?
あいつはバイク通学で家から三十分は掛かるから途中で事故でもしてないか心配じゃが…⁈誰か何か聞いてないか?
今日の試験を欠席したらあいつ進級出来んぞ…。
仕方ない……時間じゃ……。試験を始めるか。」と先生は試験を始めた。
次の二時間目も、その次の三時間目になっても入江は来ない。
みんな「さては昨日神(じん)祭(さい)だから…。」と思い当たる節がある。
四時間目開始になった。やはり入江は来ない。
先生が呆れたような安心したような顔をして教室に入ってきてみんなに報告してくれた。
「入江のお母さんから連絡が入った。
あいつゆうべ神(じん)祭(さい)で飲まされて二日酔いで起きられないそうだ。
かわいそうにな。仕方がない、特別に後日追試(ついし)をしてやることにした。
他のクラスでも何人かいるそうだ。みんな酒飲まされないように気をつけろよ!
ま、なんにせよ事故でなくて良かった。仕方がないか。」
みんな「まっこと!」である。
結局入江はその日現れず、後日【神祭(じんさい)組】として追試を受け、何とか留年は免れた。
神祭は楽しいのだが、一人前に扱ってもらえるのはこんな時だけ。
土佐の酔っぱらいの大人は怖い。普段は開放的で面倒見のいい明るい人達なのだが…。
この戦いは何年先まで続くのだろうか……?多分『土佐』が、『神祭(じんさい)』がある限り、この【人災(じんさい)】は続く事であろう。
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