ばぶれもん高校生日記
akijiji
第1話 荒川先生
荒川(あらかわ)先生(せんせい)
学校は小さな道路で海岸と隔てられた松林のそばに立っている。
3階の教室の窓辺に立って外を見ていると、日陰の砂浜に立っているような不思議な感覚に襲われる。
目に入るのは青い海、緑の松林、新しい水に満たされたプールの透明な水の色と白いコンクリートのコントラスト。
太平洋の潮の香りをほんのり含んだ風が、松林を抜けて窓から教室に入ってくる。
初夏のいつもの明るい日差しが差し込み、ぼんやりしながらけだるい午後を満喫している。
そんなけだるい気分を邪魔(じゃま)するかのように、園庭(えんてい)の芝生の方から声が聞こえ始めた。
女子高校生特有の、少女でもなく大人でもない少々耳障(みみざわ)りな声に混じって、大人の女性の明るい、弾(はず)んだような調子の声が聞こえる。
現代国語の荒川先生のようである。
クラブ活動にしては少し早いようだが…。どこかのクラスが早めに終わって外にいるのかもしれない。
「おい!下を見てみろ。」
窓から顔を出して下を覗いてみると、色白で、明るくユーモアのある授業で人気のある美人とはちょっと言い切れない少しふくよかな荒川先生がいた。どこかのクラスの女生徒5~6人を引き連れて歩いている。
「荒川先生だ!」
「上から見てもちょっとふくよかすぎるように思うな!」
「ひとつからかってみるか⁉」
「先生優しいからやめろよ!」そう言った奴もなんだかうれしそうにしている。
「荒川先生!」窓から身を乗り出して言った。
「何の集まりですか?部活(ぶかつ)ですか⁉」
「当ててみてよ‼」と先生。
「もしかすると舞踊部(ぶようぶ)ですか⁉」
「まあありがとう‼私が踊れるのがわかった⁈
でもどうせあんた達のことだから違う意味でしょ‼
ハハーン、わかった。私が少しふくよかだから『ブヨブヨ』なんていうつもりなんでしょ!美人の先生は辛(つら)いは!みんなに褒めてもらって。」
一枚上手な先生はニコニコしながら我々にそう言って、女子たちとしゃべりながら去っていった。
確かに先生はそんな体型ではあるが、優しくてぽっちゃり美人で人気がある。
今少しスレンダーであれば、誰も近寄りがたいものがある程のモデル級の美人であるかもしれない。
だが、我々には、今の先生の方が、気軽に近づきやすく話やすくて、楽しい先生であることに間違いない。
今のままの先生でいてほしいと願う。そう願うのは我々の勝手であり、だれにも迷惑をかけるわけでもないから良いだろう。
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