第4話 彼の驚き

あかねは内心ヒヤヒヤしていた。昨日の夜赤ちゃんゴッコをした時、おしゃぶりも咥えていた。いつもは洗面所で洗って干してからしまっていたのだ、朝寝坊のバタバタで洗ったまま洗面所に置きっぱなしにしていたのだ。さすがに一人暮らしの女性としては違和感がありすぎるブツだ。


「ありがとうございました~」


優希は違和感を顔に出すことなくあかねにお礼を言った。


うん、と答えたあかねは、一瞬火照った顔を手でパタパタとあおいで誤魔化すしかなかった。しかし、すかさず優希の声が核心をついた。


「洗面所にあかちゃんのおしゃぶりみたいなのあったんですけど、お友達か誰かの忘れものですか?」


あかねが機転の利くタイプであればそこで話を継いでごまかすこともできただろうが、元来おっとりしたタイプのあかねは、そのまま押し黙ってしまった。優希も敏感におかしな空気を感じ取る。


「あ、すいません。なんか変なこと聞いちゃって…」

「え、あ、うん…そう、友達の赤ちゃんが来たことがあって…」


あかねの目が泳ぐ。明らかに嘘だと思った優希だが、何か事情があるのだろうと思って深く尋ねるのはやめておいた。しかし、この後違和感が一本の糸につながる事件が起きる。




「あかねさん、上の方の棚の本を仕舞いたいんですけど、何か台になるようなものはないですか?」

「そうね、クローゼットに踏み台あると思うから見てもらっていいかな?」


あかねは気が抜けていた。言ってしまってから、まだクローゼットの中に段ボールに入れ終わっていないおむつのパッケージが入っていることを思い出した。


「優希くん!ちょtt」

言い終わるより早く優希はクローゼットを開けていた。開けた目の前に鎮座してあるおむつの数々に何も言わないわけにはいかない。介護用で使うようなテープタイプの紙おむつ、優希にも見覚えがあるよう幼児用のカラフルな紙おむつ、パステルカラーのかわいいイラストが入っているにも関わらずどう見ても大人サイズの紙おむつ。様々なおむつが優希の目の前に広がった。


子供用のおむつだけであれば、まだ言い訳ができたかもしれない。さっきのおしゃぶりと併せて、友達の赤ちゃんがお泊まりしたときに…で済む話だ。大人用、それも介護に使うようなものだけでないとすれば特殊な用途だと思うほかない。たくさんのおむつを見て呆然となる優希の背中をじっと見つめるしかできなかった。


2人の間に長い沈黙が訪れる。

ようやくあかねは口を開いた。


あかねの告白が始まった。


「私ね、ちょっと世間には言えない趣味があって。赤ちゃんが好きなの。大人の」


優希は面喰った。正直何を言っているのか理解するのに時間がかかった。律義なあかねの説明は続いたが、おそらく半分も理解できなかったと思う。優希自身も、そういう趣味があるのは知っていたが、どこか遠い世界の話だと思っていた。要は、大人の男性に赤ちゃんの格好をさせて、まったくもってただの赤ちゃんのように扱いたいというのだ。


「あかねさんってエッチとかしないんですか?」


あかねは優希の間の抜けた質問につい噴き出してしまった。


「ん~、そうね。自分にとっては赤ちゃんごっこがエッチの代わりだと思ってるから、相手が求めなければエッチしなくても大丈夫かな」


つい真面目に答えてしまう。優希も茶化す目的で聞いたわけではなく、純粋な疑問から聞いたのだった。へ~と納得するような顔であかねの話を聞いていた。



「それでね…」

あかねがもう一度口を開いたとき、確かに空気が変わるのを優希は感じた。一体何を言うつもりなんだろう…

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