転職させるのにいい加減飽きたんで神官だけど旅に出てみました

大神官、職を失う

大神官、辞めるってよ

魔王降臨からはや500年。


魔法都市ガラティアは「我こそは」と、魔王討伐の為に立ち上がった冒険者たちで連日ごった返していた。

その中でも一際人混みの多いここ、大神殿で一際派手な衣装を着込んだ男はボヤいていた。

「なぁ、今日はあと何人なわけ?」

頭に被っている縦長い帽子に手を突っ込みボリボリと頭をかく。

人が多く暑いここでは尚更蒸れるから嫌なのだ。

「今日は残り62件ですね

うち5件は上級職への転職、1件のみ転生のご依頼があります」

彼の横に佇むメガネをかけた女性は男に目を合わせることなく淡々と述べた。

「それよりも勤務中の私語は慎んでください

貴方は一応ここの大神官なのですよ?」

鋭い目でこちらを睨めつける様はまさに切れ者…。

『大神官』と呼ばれた男は首を横に振りながらため息をつく。

転職一度にかかる時間は10分程度だがそれが62件?

更にそのうち6件は面倒な案件?

「カルナ、まーた俺は徹夜かな…?」

『ブラックキギョウ』なんてワードが一時期流行っていたが俺が務めているこの仕事がまさにそれなのではないか…?

なんて思いながら大神官は手続きを終え目の前に現れた小柄な男に目を向けた。


「大神官様!私は貧困な農民でしたが______」

いつも通り客は頼んでもない自らの身の上をペラペラと喋り出す。

俺としてはこの時間すらも削りたいのだが…

「と、言う訳で魔法使いへ転職したいのです!」

男の身の上が終わり、転職の儀が始まる。

儀の要となる詠唱の合間に神官は口を開く。

「あー…貴方は魔法使いになる事で何を遂げようと?」

「勿論!魔王討伐ですよ!」

爛々と輝く男の目と対象に死んだ魚の目をした大神官。

儀式が始まり光が天より降り注ぐ。

この光を浴び終えた時彼は魔法使いへ転職し、新たな人生を歩むのだろう…。

俺がここで毎日睡眠時間を削りながら誰とも知らぬ奴の転職活動を手伝ってる間彼は素敵な仲間たちと心躍る大冒険を繰り広げるのだろう…。


なんでだ、なんで俺はこんな目に…!!

ふつふつとこの手の怒りが湧いてくるのはいつもの事なのだが今日は何かが違った。


監視役を兼ねているメガネの女性が偶然別の客の対応をしていたからか、それとも小柄な男性が光の眩しさに目を瞑っていたからか。

それとも文字通り神の悪戯か…。


大神官はニヤリと笑い呪文を素早く唱えた。

その瞬間光が一際輝き…。


ドガシャアアアアアアアン!!


神殿に響き渡る轟音。

「な、何事ですか!?」

「お客様は無事か?」

他の神官が阿鼻叫喚し、大神官が最後に担当していた小柄な男性がものぽかーんと大口を開けている中彼女、カルナは1人拳を握りしめていた。

「やられました…!まさか転職の儀の対象を自分に差し替えたなんて…!」

カルナの目線の先、大神官の席には彼の姿はなく

建物に空いた巨大な大穴とそこから覗くガラティアの喧騒が虚しく響いた。



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