第14話 ヨメタチ
統一歴 二千二百九年 弥生 二十三日 12:02 晴天 武蔵総合学園 女子教職員寮 食堂
その日の夕食には信長が手土産として持ってきた食料が全校生徒に配給された。
さすがに捕虜にまではいきわたらなかったが……
信長一行への供応役は愛子主導で行われ、誠からの入れ知恵で信長が持ってきた手土産でもてなすことにした。
誠曰く
「敵地になるかもしれない相手の懐で素材も分からぬものを出しても喉を通らないだろう?」
という建前の下、少なくとも一月先までは非常食しか手元にないことを悟らせない為の工夫として採用された。
広間での会合で信長とは手を取り合える余地はあるように見えたが、どこまで要求が通るかはわからない。
要求が通ったとしても代償が大きくて割に合わなければ余所と手を結ぶ可能性もある。
そういう可能性があることを暗に示して有利な条件で手を結びたい。
その為に足元を見られるようなことはしないという認識で宴席に出る者達の意思統一は図られた。
女性教職員寮の一角にテーブルを固め上座――いわゆるお誕生日席――に白髪を総髪にして後ろで纏め白い顎鬚を伸ばした学園長である嵯峨弘信が座り、学園長の左手側にクラーラ、生徒会副会長である目付きのキツイ黒髪魔乳の鳳凰寺菖蒲、愛子の従姉であり赤毛巨乳という特徴が似ているがこちらは眼鏡をかけた美少女である会計の楠木ちはや、書を書く際邪魔するものがない
二年の生徒会役員は偉い方から神乳、魔乳、巨乳、貧乳の順になっていて、おっぱいによる序列があるのだと駄法螺が広まっているが並んで座るとなるほどと思う者は多い。
学園長の右手側には信長、恒興、一益に続いて愛子と誠が座っている。
信長一行もおっぱい序列に従って座っているように見える。
彼女達が休んでいた客間から愛子と誠が前後を警護し、食堂へ案内した後全員が自己紹介して名乗りあい、和やかに食事が進む。
さて、どうしたものかな?
クラーラに説教された直後集まってきた女子役員達から『これより先は奥向きの事』と言い渡され、彼女達が何かを話し合う場から締め出された男子生徒会役員らは方針をこそ伝えられたものの、この後の段取りはほぼ教えてもらっていない。
学園長には話を通して許可をもらっているようだが、彼は転移後から意図的に自らの影響力を押さえている。
理由は『新しい世界を自分主導で渡るには歳を食い過ぎた』とのことだ。
ステータス的に低いのではなく、自分が生きてきた間に培った価値観がこの世界で生きていく邪魔になると判断した結果クラーラのサポートとして教職員を抑える役回りに徹している。
なので今回も相談には乗るし意見は言うけど積極的に口を出すつもりは無く、クラーラたちが失敗したときに場をとりなすために出席している。
クラーラはここから先は女の戦いであると認識し、味方の意思を確認後信長に対抗する方針を決めたようだ。
農業科で飼育している家畜から鶏卵と牛乳を融通してもらい、学園内にある残り僅かな燃料を使って作ったプリンを出し食事を〆ると同時にマウントを取りにかかる。
この一品だけの為に相当な労力が払われていて、武蔵総合学園的には痛手ではあったが生徒会の女子たちは強硬に大事な事だと男子たちに言い聞かせ、何とか元の世界で市販されている程の物ではないが食べておいしいといえるレベルのものを作り上げると食事の締めとして出したのであった。
「三郎殿、こちらの世界では異なる世界『異世界から来た』転移者は過去にいらしたのですか?」
プリンを食べ終えるのを見計らってクラーラが切り出す。
「おらぬな。少なくともワシは聞いたことがない」
そう答えると、
「出雲にある千引の岩を動かした者がいて、そこから亡者があふれ出し中国は亡者に攻め滅ぼされ、勢いを増した亡者の群れと黄泉の住人によりつい先年都が落とされ天照大神の末裔が根絶やしにされると日の光か弱まったということはあったが、異世界からの来訪者など聞いたこともない」
穂村達の状況を受け入れたのか信長がこの世界の状況を教えてくれる。
「応仁より世は戦国の時代に入り、人心は荒んではいたのだがまさか亡者の力を借りようとするものが出るとはな……それで自らが真っ先に死んで亡者の仲間入りをしているだろうから文句も言えん」
信長なりのジョークで場を和ませようとする。
この信長結構気づかいの人だなと穂村は改めて思う。
それを受けて微笑みながらクラーラは
「転移したものの記録はないということは、そういう技術体系もなく、帰る術もない……ということでしょうか?」
そう信長に問う。
「あるいは帝の一族ならば知っていたのやもしれぬが今となっては分からぬ。何しろ我らも都から落ち延びた公家を保護することで秘名や荒武者といった技術を知ったくらいでな、この世にあっても我らが知らぬ技術などまだ幾らでもあるやもしれぬ……」
苦々しげにそう答える。
知識を独占する階層に対する嫌悪感があるのだろう。
それを認めたクラーラは
「三郎殿には改めて申し上げます、我われ武蔵総合学園関係者に配下になれとのお申し出でしたが、それははっきりとお断りいたします」
クラーラはそこまで言うと改めて覚悟を決め
「その上で対等な同盟者としての協力なら受けます。我われが力をお貸しし、三郎殿が我われに必要なものを提供してくださるという形でなら条件を詰めたいと思いますが、それを不服と思われるなら他の方との同盟に動きます……昼にも穂村が申し上げましたが友貞殿など窓口にはいいと思っておりますし……」
信長に妥協を求める。
クラーラの話を聞いて一瞬思案した後信長は
「で、あるか……ならばそれで良しとしよう。無理強いして獅子身中の虫に暴れられてはかなわんからな」
呵々大笑する。
しばらく笑った後表情を改めると
「してその方等は何を望む?」
と条件交渉に入った。
「知識を! あなた方にとって当たり前な事でも手間をかけてでも教えて下さる知識の持ち主を派遣してください」
反射的にクラーラが答える。
「よかろう。具体的には何が知りたい?」
信長が問う。
クラーラは間を置かず
「農業、漁業、畜産、料理、この世界における常識、戦う術、政治にまつわる事。およそ国を形作る全ての人に必要な知識を、何人かの人で教えてください。長島に睨みが利くこの地にいる我われが強くなることは三郎殿にとっても必要な話だと思うのですが? 必要な知識や経験を持つ方を随時派遣して頂ければ……」
そう応じる。
ふてぶてしく笑いながら信長は
「では代償として穂村殿を我がむこ「
言い終わる前に生徒会副会長である菖蒲が割り込む。
一瞬呆気にとられた後、鳳凰寺菖蒲と織田三郎信長が睨みあう。
そこに横から
「不満なら席を立ってもよいんですよ? 友貞殿は一向宗に掛け合って良業物の荒武者を融通してくださるそうですし……」
普段は気弱そうな表情でおたおたしている楠木ちはや会計が口を挿む。
更に
「手土産も持参できない田舎豪族が嫁入りってのはないよね。友貞殿が嫁入りするなら三郎殿より扱いは上になるし」
書記である雁塔聖子が畳み込む。
生徒会役員にそれぞれ目を走らせた信長は
「それなら我が家の国重は大名物ぞ!」
対抗するようにそう吼える。
どうやら元の世界にあった『懐宝剣尺』そのままの価値基準ではないらしい。
少なくとも良業物よりも大名物の方が良いらしいのは信長の口調からも推し量れる。
そして言ってからしまったという顔をしながら
「さすがに辺志切長谷部は母上の所有にてやれぬが、大業物の鶴丸国永ならワシの物ゆえそれを持参の品とする! それでよかろう?」
悔しさを声に滲ませながら信長がいう。
「ここらがお互い譲り合える妥協点のようですね。愛子さんの次席である第二妃として迎えましょう。ですが新参であることを弁えて生徒会の三人の夫人を軽く扱わないことはお約束ください」
手打ちとばかりにクラーラがそう宣言する。
「それは……わかり申した。奥の序列を乱すつもりは無いので安心されよ……」
呻くように信長が承諾する。
穂村は自分の知らない内に少なくとも六人の奥さんが出来ていたことに吃驚しつつも余計なことを言わぬようにしながら内心で毒づくのであった……
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