第7話 サンゲキ

 XXXX年 X月 X日 11時35分 晴天 武蔵総合学園 普通科正門


 乗物から素早く降り整然と陣形を組んだ正体不明の武装集団を前に顔をひきつらせた商業科教頭の脇を矢島がつつく。

 それにより引き攣り気味な笑顔を浮かべて


「ようこそ武蔵総合学園へ。何の御用でしょうか?」

 教頭が友好的に迎え出て、日本語が通じるかどうかわからないがとりあえずそう挨拶する。


 露出過剰な衣服にボディペイントで文様を書いたほぼ女性だけで構成された集団から警護の者を何人か伴って、この武装集団では高位の者であろう女性が前に出て来る。

 日本の女子高生の平均よりやや低めな身長の女性ではあるが少女というよりは大人の女性といった雰囲気を纏っている。

 胸は小さめだが露出が多めの水着のようなものにデザイン入りの羽織をかけている。

 色合いがそれなりに良い物を羽織っているので恐らくこの軍の指導者的立場なのだろう、この女性も露出部分にはボディペイントを施している。

 武器を構えた兵の多くはマイクロ水着で露出した肌にペイントを施した上で武装している。

 集団の中には出てきた女性よりは地味目な色合いの羽織を着ている者もいるので部隊を率いる者には羽織の着用を許されているのだろう。

 兵が手にしているのは前衛は主に槍で後ろに弓部隊が控えている。またその後ろには鉄砲を抱えた部隊と刀で武装した部隊がいるのだが商業科の教頭達にそこまで観察する余裕はなかった。


「その方等がこの城の城主なのか?」

 周囲に護衛を伴い20mほど離れた位置から偉そうな女性が古風ではあるがそう問いかける。


 その事実を受け入れた商業科の教頭達は内心で吃驚しつつも。

「城主……とは違いますが、責任ある立場の者でございます。どうか我々にお話をさせてください」

 ちょっと迷った後教頭がそう返す。

 城主と言えば学園長がそれにあたるだろう、勝手にそうだと答えれば今度は左遷では済まないかもしれない。

 学園長の怒りを買ってこの地に追放されれば、生きていける保証はない。

 なので教頭は事実に近いことを返答した。


 だが相手はそれを聞くと表情を歪め

「勝手に斯波と係争中であるこの地に城を建て、あまつさえ城主でない者がこの長島城主友貞の相手をするとはどのような了見か!?」

 激発する。


「いえ城主は今臥せっておりまして……」

 矢島が横から口を挿み取り成そうとする。


「一夜にして城を建てた城主が一夜にして起き上がれぬほどの病で臥せっていると申すのか? 我を愚弄するのも大概にせい!!」

 そういい捨て身を翻し陣形内に戻ると、

「この者どもらを根切にせよ!生かしておくのは城主を始め数人でよい。かかれぇい!!」

 と命令を下すと、

「おおーっ!!」

 軍勢が鬨の声を上げ矢島達に一斉に襲い掛かる。


 それを耳にした矢島達はあるいは腰を抜かし、あるいは逃げようと後ろを向く。


 後ろを向いたものは目にする、そこに金属バットとゴルフクラブで武装した穂村達が今まさに昇降口から飛び出してくる姿を。

 だが彼らが助けに来るよりも早く災厄は襲い掛かっていたので、敵に背を向けたものは槍で心臓を突かれて事切れたのだった。


 穂村はその光景を見てさらに加速し、

「奴らは殺しに来てる! こっちも殺すつもりでやれ、でないと死ぬぞ!!」

 そう叫んで腰を抜かしたまま小便を垂らす長岡に切りかかろうとする敵兵に向かってドライバーを投げつける。

 頭に当たったそれによりスイカが破裂するように頭部を粉砕されながら敵兵は長岡を切り殺す。


 内心で歯噛みしながら

「相手の間合いを外すつもりで戦え! でないと怪我では済まないぞ!」

 後ろに続く仲間たちにそう声をかける。


「能力的にそう高い兵はいない。だが実戦経験は豊富のようだから油断せず周囲を警戒しながら戦ってくれ!」

 生徒会から派遣され後から加わった誠が昇降口からそう叫ぶ。


 糞便を垂れ流し腰が抜けたのか手を地面に付けて藻掻きながら逃げようとする蓑部に後ろから槍が突きさされ首から槍先が生える。


 まだ無事そうな学園関係者はもういない、運よく生き残っている者がいるかもしれないが、救えるなら!

 そう思って校外に出た穂村は全力で駆け敵の前衛とぶつかる。

 全力で駆けたせいか衝撃波が発生し、それにより敵の何名もの前衛が四肢をまき散らしながら肉塊になり吹き飛ばされる。


 その光景を目にした敵集団に動揺が走る。

 加速した穂村は前衛を突破し弓部隊に到達したのだ。

 彼女等にすれば弱兵とも言えぬ惰弱な男達ばかりだと思っていたら、常識外の化け物が襲い掛かってきたとしか思えない出来事である。


 後ろに陣形を構えていた弓部隊に突入すると、周囲が敵ばかりであることを確認した穂村はパターを横なぎにフルスイングする。

 するとスイングした先にいた兵は穂村を射ようとした弓ごと腹から上下に泣き別れになり飛び散る。


 敵陣系内を無人の野を駆けるが如く走り回り、敵兵を吹き飛ばしパターを振り回して上下に別れた死体を量産する。


 何とか穂村を弓で射ようとする兵もいたが、穂村の動きが早すぎて捉えられない。

 横薙ぎにゴルフクラブを振るう一瞬は止まるのだがその際に矢を射ても届く前に別の所に移動しているのだ。

 歴戦の彼女たちですら見たことがない異次元の速さである。


 何度かそれを繰り返すと弓部隊は逃げる間もなく文字通り全滅し、更に後ろに構えていた突撃の為の刀部隊と鉄砲隊が武器を捨てて逃げようとする。


 残りの前衛部隊も誠を中心とした仲間達により壊滅寸前のようで許しを請う声が聞こえる。


「敵を逃がすな! 投降するものは手を頭の後ろで組みうつ伏せになれ! それ以外は残敵とみなし全て殺せ! 下手に逃がすと後続が攻めて来るぞ!」

 そう叫びながら穂村はこの軍の責任者を探すべく周囲を見渡す。


 今の叫びを聞いたのか予備兵力であったであろう部隊の者達が武器を捨て両手を頭の後ろに組みうつ伏せになろうとする。

 聞こえなかったのか逃げようとする者達は前衛を壊滅させた誠たちが追いかけて次々始末している。


 前衛部隊の最後部周辺でお供を全員殺された敵将が穂村の叫びに従ってうつ伏せになろうとしていた。


 穂村は残敵掃討と降った者の捕縛を誠たちに任せると告げ、その女性の元に寄る。


「お前は何者だ?」

 感情をこめない声で穂村が敵将に問いかける。


「……」


 何も答えない敵将に対し穂村は彼女の左足のつま先にパターを触れるように置くと一気に下へ向かって力を籠める。

「うぎゃっ!」

 骨が砕ける音とともに敵将がうめき声をあげる。


「まだ話す気にならないのかな? もうちょっと指を砕いたら話してくれるかな? まあ二十本もあるし、砕き続ければ話したくなるかもね。こっちはお前が五体満足である必要も、極論すれば生かしておく必要もないんだから」

 へらへら笑いながらパターを次の指にずらし、

「さてもう一ぽ「待って! 話す! 話しますから」なら、お前は何者だ?」

 再度問いかける。


 穂村は自分の価値観が一般的なそれからかけ離れていることを認識している。

 恐らく自分はサイコパスと呼ばれるものなのだろうとも思っている。

 それは恐らく幼少期に育った環境でそうなった訳ではなく生まれついてそうだったとも思っている、いや思いたがっている。

 あの屑共に自分が影響を受けたとは思いたくないからだ。

 今自分が歪な面はあるが普通の人生を送れているのは引き取ってくれた叔母一家、特に従姉さんの存在が大きい。あとは大叔父のおかげでもあると思っている。

 だが父であったあいつと義母を自称するから何かを得た影響を受けたということは絶対に認めない。


 殺せないなら存在を認めない。


 それが穂村が至った結論である。


 逡巡している間に敵将の女がおずおずと

「長島城主服部友貞……です」

 力関係を認めて下出に答える。


「なぜ我が校の者を殺した?」

 穂村が冷然と問いを紡ぐ。


「こう? この城の者の事か?……ですか?」

 敵将が伺うように問い返す。


 穂村は思わず

『疑問に疑問で返すなぁーっ!!』

 と叫びそうになったがぐっとそれを我慢し。


「そうだ門前に並んでいた連中だ、なぜ殺した?」

 分かり易く説明し再度問い詰める。


「城主である我に対し城主でもない者が理由も述べず自を交渉相手として話をせよというのは無礼であろう? それだけならまだしも、一夜にして城を築いた城主が一夜にして起き上がれぬほどの病で臥せっているというのはこちらを馬鹿にしている話ではないか? それ故根切にしろと命じたのみ。こちらは話し合うつもりで来たが話をするつもりすらないと出られたのなら戦になるしかあるまい?」

 彼女は整然と理屈だって訳を話す。


 なるほど、筋は通っている。

 今こちらの公的な責任者は学園長と実権を握っている生徒会長のクラーラだ。

 商業科の教頭や矢島達は学園内にあっては商業科の教頭という立場や、代表者会議の人員という立場があったが、学外にそれは通用しない。

 彼女の名前から推察するに、外の世界は暴力渦巻く戦国の時代である可能性もあり、舐められたらダメな世界のようでもある。

 筋としては勝手に事を運ぼうとした矢島達に責任があり、それを止められなかった武蔵総合学園側の手落ちではあるのだろう。


 だが! だからこそここは引けない。


 穂村はそう意を決すると。


「どちらにせよ戦を仕掛けたのは貴様らで、我が校の者を殺したのも貴様らが先だ。結果貴様等はこの有様。これは敗北、いや完敗と言える状況ではないか?」

 穂村は話をいったん棚に上げ別の切り口から攻め込む。


「そ……それは確かにその通りではあるが……」

 友貞は渋々認める。

 いや彼女にしてみれば穂村の機嫌を損なわないよう認めるしかない。


「お前たちの主食は米か?」

 穂村はさらに話の切り口を変える。

 相手に熟考させる時間を与えないために。


「その通り米を主食としている」

 友貞がそれを認めると、

「ならば二万の兵が三年暮らせるだけの米を賠償として支払え。あとここにある武器や食料、兵を運んできた乗り物は戦利品として我が方のものとする。あとで念書を書かせるからそれで明後日までにここへ運んで来い。運んできた乗り物も我々のものとする。それで手打ちだ。良いな?」

 一方的に穂村が条件を突きつける。


「ま、待って下され! 明日までに六万石を用意するのは無理でございます!!」

 友貞が決死の覚悟で食い下がる。


「ならば七日後までにもってこい」

 穂村が少し譲歩したように見せかけ情報を引き出そうとする。


「一週間では無理です! せめて一月後ならば……」

 必死に友貞が食い下がる。


 穂村は必要な情報を引き出せたことに満足し、

「ならば三十日後に六万石を持ってこい。一日でも遅れたらこちらがお前の城や城下を襲い根こそぎ略奪して根切にしてやる。約束を破るなよ……」


 友貞は安堵の息を吐き、

「分かりました、一月後までに必ずや浮き車ごと六万石をお支払いいたします」

 首が繋がったことを安心して

「急いで城へ戻りたいので浮き車はいくらか戻していただきたいのですが……」

 約束を守る為には急いで手配をする必要がある、友貞は必要な事なので譲歩を願い出る。


「兵の死体を乗せて帰る分と貴様が乗る分は貸してやる。燃料込みで返せ。あとお前の護衛と運転要員として何人かは兵を返してやるが、捕虜を解放してほしいなら別の形で支払いが必要なのは理解しているな?」

 死体を鞭で打つように追撃をやめない穂村の言葉に顔を真っ青にする友貞だった。


 だが、この事件をまとめた穂村の手腕により武蔵総合学園の全校生徒は当面の食糧問題に光明を見出すのであった。


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