第6話イービルロード「俺の名を言ってみろォっ!」

再び飛び上がると、イービルロードが兜ごと兵士の側頭骨を蹴り飛ばす。


潰れた肉と砕けた骨に混ざって飛び散った中脳と小脳が、他の兵隊たちの頭上に降り注いだ。




「ぎぎぎィっ、俺の線香っ、俺の香炉っ」



空中で半回転しながら、左右に居た兵士の顔面目掛けて両方の掌を張り付ける。




そのまま密着した顔面の皮膚を眼球ごとむしり取ってやった。



悲鳴を上げながら地面を転がりまわる、顔面の皮を剥がされた兵士達。




イービルロードは躊躇せずにその頭を踏み潰した。


まるで虫けらのように。



兵士の踏み砕かれた頭部と眼窩から、脳みそと眼球がどろりと露出した。




「はあァ、久しぶりの血の味だ・・・・・・」


桃色の筋肉繊維を剥き出しにしたふたりの兵士の死体を見下ろし、イービルロードが指の間に付着した黒ずんだ血糊を舐めとる。






槍を構えた重装兵達が、イービルロードを円を描くように囲いこみ、一斉に鋼の穂先を突き立てた。


だが、槍はむなしく、空を突き刺すだけに終わった。



虚空に浮かぶイービルロードが。ケタケタと兵士達を嘲(あざけ)るにように笑う。





「ヒャヒャッ・・・・・・瘴気の波動」




イービルロードが呪文を唱えた途端、黒い波動が唸るように弾けた。


黒い波動を浴びた兵士達が、見る見るうちに青黒く変色し、ロウソクのように溶け崩れていく。




眼窩から視神経ごと、地面にこぼれ落ちる眼球。



腐敗し、溶解した皮膚や筋肉繊維が、兵士達の鎧の隙間から異臭を放ちながら、ドロドロと流れ出ていった。



その光景に呆然とする兵士達。



仲間の兵士達が、腐り溶けていく悪夢の光景を見せつけられ、ただ、思考と言葉を失う。




あとには鎧を着た大量の白い骸骨と、黒っぽいヘドロ溜まりだけが残されていた。






残された兵士たちに走る怯えの色、だが、それこそがイービルロードの狙いだ。



人間の恐怖心は、イービルロードに力を与えるからだ。



「マ・・・・・・マサヒコ様ァッ」



恐怖に駆られた兵士達が勇者マサヒコに助けを乞う。



だが、マサヒコは「邪魔だ、役立たずどもがっ」と冷酷に告げると、黒いマントをひらめかせながら、足元に追いすがった兵士達達にマジックアローを浴びせて射殺していった。



マサヒコの放つ魔法の矢で、次々に胴体や頭部を射抜かれ、断末魔の叫び声をあげながら倒れていく兵士達。


兵士達の飛び散った臓物や血が、通りの地面を赤く濡らしていく。



身体中を穴だらけにされた、無造作に転がる兵士達の亡骸にマサヒコは唾を吐いた。



部下である兵士たちに対する、その余りにも惨(むご)い仕打ちに、魔物であるはずのイービルロードも思わず顔をしかめそうになる。




(こいつのほうが、魔物なんぞよりもよっぽど残忍残酷だな・・・・・・それも同じ人間相手だってのに・・・・・・)




「無能な兵士など俺にはいらない。それよりもお前、小娘だとばかり思っていたが何者だ。名前をいえ」



「・・・・・・」



「答えたくなければ答えなくてもいいぜ。どうせ俺のほうが強いんだ。まあ、でも、どうしてもっていうなら、俺の配下に加えて・・・・・・」



素早く間合いを詰めたイービルロードが、マサヒコの脇腹目掛けてつま先をめり込ませる。



「がは・・・・・・っ」



「戦闘中に喋るなよ、この間抜けが」



「き、貴様、よくも・・・・・・っ」




(流石は勇者、この蹴り食らっても生きてるとはな・・・・・・だが、こいつよりも俺のほうが強いな)




イービルロードは既にマサヒコを値踏みし、その強さを見切っていた。



マサヒコが無数のマジックアローとファイアーボールをイービルロードに向かって解き放つ。




「・・・・・・邪仙瘴壁(じゃせんしょうへき)」


イービルロードが展開した瘴気を用いた結界により、マサヒコの魔法が全て弾かれていった。



「な、なんだと・・・・・・」


途端に冷や汗を流し、後ずさるマサヒコ。




どんな相手だろうが苦戦したことは一度もない。




圧倒的な火力を武器に膨大な魔法による集中砲火を浴びせれば、いつだって勝負は一瞬でついた。


そんな絶対的な信頼を置いていた自分の魔法が、すべてふさがれてしまった。


それもたかが小娘風情に。



「ひひ、さてと、お次はなんだ?それとも、もうネタ切れか?」



「ふ・・・・・・ふざけるなっ」




再び魔法による集中砲火をイービルロードに浴びせるマサヒコ、だが、結果は同じだった。



「それじゃあ、次は俺の番だな。そうだな、まずは生きたまま四肢を引きちぎってから、地面に埋めて通行人達に首を木製のノコギリで一回ずつ引かせていくか」



「ま、待てっ、金をやろうっ、だから命だけは助けてくれっ」



「命乞いか。だらしねえ野郎だぜ。そうさなあ・・・・・・おい、お前、さっき俺の名を聞いたな。だったら俺の名を当ててみろ。そしたら命だけは助けてやる」



「な、何を言って・・・・・・」




「俺の名を言ってみろォッ!!!」



マサヒコのこめかみに口腔から取り出したショットガンの銃口を突きつけ、イービルロードが叫ぶ。



「わ、わかったっ、今言うから撃たないでくれっ」



両手を上げ、地面に膝をついたマサヒコが震えながらいう。



「じゃあ、さっさとしやがれっ、ほれっ、どうしたっ」



「あ、貴方様の名前は、ええと、その・・・・・・」




眼を泳がせるマサヒコのこめかみに銃口を押し付けてイービルロードがなぶる。



「俺は嘘がでえ嫌えなんだっ!!」



そういうと、イービルロードがショットガンの引き金をゆっくりと絞っていく。



マサヒコは自らの運命に涙した。

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