左の席のあの子は僕の事が好きらしい。でも僕は右の席の子が気になるんだけど。

ひろきち

第1話 左隣と右隣

高校3年生。

当然のことながら高校生活最後の年だ。

部活に入っているものは最後の大会に向け努力しているし、よりよい大学を目指し勉強を頑張っている生徒もいる。


僕はどちらかというと後者の勉強を頑張っている方の生徒だ。

僕自身成績はそれなりに良い方だとは思っている。

いや、別に自慢とかではない。

これ位しか誇れるものが無いんだよな僕。

記憶力や物覚えは良い方なので勉強には役立ってるけど、その分運動神経はそんなに良くないし、見た目も可もなく不可もなく。所謂一般人だ。


ただ、性格は穏やかで人からは"優しい"とか"親切だね"とよく言われる。

これは、小さい頃から両親に"人には親切に"って教えられて育ってきたからかもしれない。

だからよく"冬彦君は優しいね"と好感を持たれることも多かったけど同時に"頼めば手伝ってくれる便利な奴"的な扱いを受けることもあって中学時代は嫌な思いをすることも多かった。


まぁそんなこともあり正直なところ人間関係や人付き合いが面倒になり高校に入ってからは中学から仲が良かった数人の友人以外とは積極的にコミュニケーションも取らないようにしていた。

お陰でいわゆるボッチみたいな状態になったわけだけど望んでなったわけで別に後悔も不安もなかった。

 まぁ最初の内こそちょっと寂しい気もしたけど昔馴染みとは仲良くしていたし完全に1人というわけでもなかったこともあり慣れると意外と快適だったりもした。


ただ・・・3年生になって僕の周りではある異変が起こっていた。


まず1つ目は、高校入学当初から密かに憧れを抱いていた"近藤夏希"の隣の席に座ることが出来たこと。

彼女は1年生の頃から学級委員を務め生徒会でも積極的に活動するなどしていた優等生。また外見もクールビューティという言葉が似合う美人。

ちょっときつそうな感じと人との間に壁を作るような雰囲気もあり話し掛けにくい感じではあったけど僕みたいに密かに憧れを持っている男子生徒は多いと聞いている。


まぁ座席はくじ引きで決まったので、本当偶然隣になっただけなわけだけど、高校最後の年に憧れの子の隣に座れたのは何だか嬉しかったし、彼女と普通に友達くらいにはなりたいなという感情すら芽生えていた。

こんな事を思うとか僕にしてみればちょっとした事件だ。

そう。"友達"でいいんだ恋人とか贅沢なことは言わない。

というか・・・むしろ友達でいい。恋人とか面倒そうだし。


ただ、新学期が始まりもうすぐ2か月が経つけど彼女とは、残念ながらまだほとんど会話はない。これといった話題が思い浮かばないってこともあるけど、たまに話しかけても塩対応なんだよね。。。


そしてもう1つ・・・・

これは正直なんでだか未だにわからないんだけど、クラスの陽キャグループの中心的人物でもある"三田秋穂"にやたらと絡まれている。

彼女は僕の左隣りの席に座ってるわけだけど・・・


「ねぇ内村君 教科書忘れちゃったから見せて~」

「え?うん。ちょ近いよ!」


「ねぇねぇ昨日のミュージックアワー見た?内村君が押しって言ってたアイドルの女の子出てたよね!可愛かったよね!」

「わぁ~押しとかばらさないで~」


「ねぇねぇねぇ明日暇?面白そうな映画やってるんだけど一緒に行かない?」

「え~と・・・明日は用事が・・・」


てな具合で学校にいる間は結構な頻度で話しかけられ・・・というかアプローチされている。

それも距離感がやたらと近い。

あ、僕の名前は内村冬彦ね。

親父が和彦で母親が冬美ってことで一文字ずつ取った名前らしい。


 話がそれたけど、三田さんに関しては、これが陽キャのコミュ力か!と最初は思っていたけど・・・流石に毎日の様に続くとまぁ普通に考えて僕に好意を持ってるんだよねこれ。僕もそこまで鈍感じゃないから気付くさ。


ただ理由がわからない。

彼女は見た目も可愛いし、近藤さんとは違った意味でクラスの中心的な人物だ。友達も多いし告白とかも結構な頻度でされてるらしい。

所属しているテニス部では部長を務め試合があれば彼女を見るために男子が集まってくるくらいの人気だ。

それくらいモテるのに告白は全て断って何故か僕にアピールしてくる。

1年、2年の時はクラスも違かったし中学も別だと思うし話をしたのも多分隣の席になって初めてだと思ってる。


本当なんでなんだ?

と一人考えていると


「おぅ何辛気臭い顔してんだよ」

「何だよイケメン。僕は博也と違ってこういう顔のつくりをしてるんだよ」


と1人のイケメン君が僕に話しかけてきた。

新田 博也。

僕とは小学校時代からの腐れ縁なんだけど、最近行われた校内新聞の"彼氏にしたいランキング"で1位を取ったほどのイケメン君だ。

ちなみにサッカー部の副部長でFW。まぁモテるよね。

それにこいつの場合は悔しいけど外見だけじゃなくて中身もいい奴なんだよ(照れくさいから本人には言わないけど・・・)

文芸部で小説書いてる僕とはえらい違いだよ。


博也は三田さんとも仲が良く普段は陽キャグループで楽し気にしてるんだけど僕の事も気に掛けてくれて休憩時間とかはよく話しかけてくれる。

時々『そんなに僕って寂しそうにしてるのか』とか思うこともあるけどね。

いや一人も結構気楽だし楽しいんだよ。


「そういえば、今日は"左隣りの姫"は居ないのか?」

「ん?"姫?"あぁ三田さん?さっき2年の渋川さんだっけ?あの綺麗な子に呼ばれて出てったよ」

「はは お前も綺麗な子はちゃんと名前覚えてるんだな」

「失礼な。っていうか有名人だろあの子。流石に僕だって知ってるさ。

 "彼女にしたいランキング"でレジェンド恩田に次ぐ2位。おまけに川野辺でも有数の資産家の娘とか・・・あれで成績も良いんだろ?」

「まぁそうだよな。天は二物も三物も与えちゃった感じだよな・・・」


だよねぇ~本当羨ましいわ。

僕もチートスキルとか欲しい。


「でも渋川さんってことはテニス部絡みだよな。時間かかりそうだな」

「そうだな。結構慌てて出てったし何かあったのかもな。

 三田さんに用事だったのか?」

「あぁ・・・ちょっと・・・な。まぁ急ぎじゃないし後でラインしとくわ」

「・・・いいなお前。女子に軽くラインとか流石だわ」

「いや、普通だろ。って冬彦も三田からID聞かれてただろ?」

「まぁID交換はしたけど・・・何を送っていいかわからんしこれといった用事も無いし」


そうなんだよな。前に交換して!って頼まれてIDは交換したけど、僕から三田さんに用事とか特に無いし。送るタイミングが無いんだよな。

っていうかみんなどういうやり取りしてんの?


「俺が悪かった・・・」

「ん?何故に謝る?」 


何か?変なこと言ったのか僕は。

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