第1章‐2 空き缶と彼女
誰かに見られていただけでも恥ずか死案件だというのに、そこにいたのは女子。しかも制服姿の黒髪美少女だった。
すらっとした顔立ちに細身のスタイル、風に揺れるスカートからまっすぐ伸びた白い脚。髪を風に靡かせながら立っているその姿は凛として美しく、俺は息をするのを忘れていた、とさえ後で思った。それくらいの美少女。そんな女の子が目の前に突如として現れたら、誰だって動揺してしまうのではないか?
無意識にじっと見つめてしまっていたのだろう、彼女と思いっきり目が合ってしまっていることに気づき、反射的に目を逸らしてしまった。やばい、これキモい陰キャムーブだ! 普通に恥ずいヤバイ穴があったら入りたい。そして一体いつから見られてたというのか、おい。
俺はますます気が動転してしまって、とりあえずさっき外した空き缶を、慌てて拾い上げるともう一度ゴミ箱に投げ込もうとした。しかし、今度は空き缶はあらぬ方向にとんで行ってしまって向こう側の舗道にころころと転がっていった。
「……くっ、きゃはははっ」
ばっと彼女のほうを向く。めっちゃ笑ってる。やばい恥ずい穴があったら入りたいむしろ入った穴をそのまま穴ごと埋めてほしい。彼女は俺がずっと見ているのにさすがに気付いて、慌てて口を手で押さえて、そして今ここで何事もなかったかのように通り過ぎていこうとする。俺はとりあえず何か弁解したかったのだが、呼び止められるわけもなく、ただしゃがんで彼女が通り過ぎていくのを見ているだけしかできない。彼女が一度こちらを振り返ってきて一瞬目があった。思わず目を逸らしてしまう。
「拾わないの?」
ん? 彼女のその言葉が俺に向けてのものだということにすぐには気づかなかった。こっちを見ている彼女……いったい彼女は何を?
あっ、空き缶か!そうだ。まだ転がったままだ。はっ、俺はまた慌てて缶を取りに行こうとして……また笑われてしまった。
俺は今度こそ空き缶をつかんで見事ゴミ箱に放り込むことに成功した。どうだ、やってやったぞ! 彼女の方を見たが、もうこちらを見ることなくすたすたと歩いて去って行くところだった。肝心な場面は見てないのね、まったくだ。
さっさと帰ろう。かばんを拾い上げ歩き出したときだった。向こうから誰かが歩いてきているのに気づく。少し腰の曲がったおばあさんが袋を抱えてゆっくりと歩いている。その時だった。そのおばあさんがちょうど俺の目の前で転びかけた。
危ない!
とっさにおばあさんの方へと駆け寄る。すんでのところでおばあさんを支えるのが間に合って、おばあさんは転ばずに済んだ。ほっ……
しかし、安心したのもつかの間、その拍子におばあさんが持っていた荷物から中身が飛び出してしまった。コロコロと丸い何か……玉ねぎとかが転がりだす。
「ごめんなさいねぇ」
「いえいえ、大丈夫ですか」
「ええ、転ばなくてすんでよかったけれど、申し訳ないわ」
「ケガがなくてよかったです」
優しそうなおばあさんだった。おばあさんを立たせなおすと玉ねぎを拾いに行く。転がったものは幸い固めの野菜ばっかりのようで、つぶれてしまったものもなさそうだった。とにかく玉ねぎとかピーマンとかをおばあさんの袋に戻す。
そして向こうに転がってるりんごに手をのばそうとしたときだった。
何かにぶつかったのと、ドスンという音がしたのと、「きゃっ」という声がしたのは全部同時だったように思う。そして、とっさに声の方に振り向いた俺の目に飛び込んできたのは……
眩しい白色……
え?
これはまさか……?
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