現役JKアイドルに教える恋の必要十分条件

くあふゅずO

プロローグ


 ステージ裏には一瞬の静寂があった。とは言え決して無ではない、化学反応が起こる直前の緊張と焦燥のようなものが確かにそこには存在していた。今すぐにでもその起爆剤になりたくて仕方がないとでも言いたげな熱気が客席から押し寄せてきていて、こちらの逸る気持ちも抑えられなくなっていく。


 こういう時は、落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ。 


 2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31……ちなみに素数とは「1とその数以外に約数のない数」である。ざっくり言うと九九に出てこない数である。ちなみに1は例外的に素数から除外する。ちなみに1から100までの間に素数は全部で25個ある。ちなみに(多いな)判別のコツとしてはまず2の倍数と5の倍数は外せるので一の位が「1,3,7,9」になる数の中から3と7の倍数を外していく方法が速い。各位の数字の和を足して3の倍数になればその数が3の倍数になるので、それを使えば51みたいなトラップ(5+1=6 より51は3の倍数のため素数ではない)は回避できる、あと7の倍数だが、7×13=91が素数もどきで間違いやすいので注意が必要……



「ちょっと、本番前にナニぶつぶつ言ってんの? キモイんですけど」



 すぐ傍にあった気配に全く気づけず思わずのけぞった。


「アンタが緊張したって何も変わらないでしょ、することなんてもう何もないんだから」


 いつもの通り悪態をついているように聞こえたが、その声は若干ではあるが上ずっていて、よくよく見ると彼女の手も心なしか震えているように見えた。そんなこと言ってるお前だってなあ……と言いかけて今その言葉は逆効果にしかならないと思い黙ってしまう。こういう時かける言葉は果たして……



「大丈夫ですよ、お兄様」



 もう一人の存在に気づく。柔らかな表情。自信がなくて怯えていたかつての彼女の姿はもうそこにはない。本当に頼もしい存在になった。


「ちゃんとお兄様の想いの分も背負って、頑張ってきますからっ」


 お、おう……という声しか出ない、気の利くことも言えない自分が情けなくて仕方がない。彼女達が手を取り合って最後の儀式を始める。そうだ、もうできることは全てやった。あとは任せるしかない。



「ほ、ほらっ、来なさいよ……」



 俺も輪の中に強制的に入れられてしまった。そしてみんな一緒に掛け声をあげる。彼女達が決めた、そして最も彼女達にふさわしい、その名を。


 思えば本当に長かった。でもようやくここまで来れた。まるで夢のようだ。

 

 

 夢……じゃないよな?

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