二人三脚


「あ、すみませんお兄様。もうすぐ一華がでる競技の集合がかかる時間です」

「そうか…。頑張ってこいよ!最前列で見てるからな!1位を取ってこい!!」

「はい!必ずや1位取ってきますのでしっかりじっくりねっとり見ててくださいね!それでは行ってまいります!!」



そう言って一華は集合場所へと向かって行った。

あれからなんとかして一華の機嫌をよくし、2人でのんびり過ごしていたのだが、いつの間にこんなに時間が経っていたのやら。

やっぱり昨日だけじゃ一華と離れていた3日間分の話をするのは無理だったんだな。



「さてと、俺も行くか」



俺は一華に最前列で見るって言ったんだ。

なら頑張って場所とらねぇとな。

だって次の種目である二人三脚は一華が唯一出場する競技なんだ。

だからたぶん……というか絶対ギャラリーがハンパないことになる。

まぁ俺はいろんな意味で有名だったから何人かは俺が何も言わずとも勝手に退いてくれると思うけど。

あまり褒められた行いではないけれど、一華との約束を果たすためだ。それなら俺の悪評だろうが遠慮なく使わせてもらうさ。




少し時間はかかったが、なんとか最前列に行くことができた。

自分の悪評の高さが予想以上だったと思い知ることになって少し凹んだが……目的は達成したんだ。喜べ、俺。………喜べよ、俺。


そんな憂鬱な気分を晴らすように選手入場の音が鳴り響く。

そして一華が現れると同時に開会式同様にまた何処からともなく歓声が湧き上がった。


……お前らノリ良いな。






競技は進み、ついに一華の番になった。

一華への歓声や応援が一段と大きくなる。他のチームの人にとっては鬱陶しいことこの上ないだろう。

それだけで済んだのなら良かったんだけど……この大歓声だ、一華とペアを組んでいる人にとってはもの凄くプレッシャーを感じるだろう。

ぶっちゃけ敵より味方の方が被害大きいので今すぐこの大歓声をやめてほしい。まぁ無理だろうけど。

(ちなみに後で聞いたのだが、一華にとってもこの大歓声は鬱陶しかったらしい。なんでも集中の邪魔になったとか)


1番手の人達がスタートラインに立つ。

数秒後、実行委員がマイクを通して『位置について』と告げる。

瞬時に訪れる静寂。

そして—————




『よーい………ドン!!』




競技が始まった。




さて、ここで一華の出場する二人三脚リレーについて説明しておこう。

種目名は『女子二人三脚リレー』。

最初に1年生の部があり、次に2年生の部、そして今行われているのは3年生の部だ。

4組のペアでリレーを行い、一華のペアはアンカーである4番手。

つまり一華の活躍によって順位が変わるのだ。


一華は『必ずや1位を取ってきます!』と言っていたが……正直言ってこのままでは難しいだろう。


今3番手にバトンが渡されたが、今のところ一華のチームは最下位になっている。

しかも1位のチームとはかなり差がある状態だ。

もしこのまま1位との差が広まったらいくら一華といえども逆転はかなり難しい。

そもそも一華は運動神経はそこそこ良いが、足がめっちゃ速いというわけではない。それにこの競技は二人三脚だ。たとえ一華がものすごく走るのが速かったとしてもペアのがダメだったら意味がない。

しかもこの無駄に大きな応援のせいでペアの娘はプレッシャーが半端ないだろう。これじゃ万全の状態で走れない。


これは……一華を慰める準備でもしておくか。


そう思った瞬間、どよめきと悲鳴が聞こえた。

どうやら接戦を繰り広げていた1位と2位が接触し、2組まとめて転けてしまったようだ。

わかる人にはわかると思うが、二人三脚で転けてしまうと立ち上がるのに時間がかかるものだ。

もし2人の足を結んでいる紐が解けてしまった場合にはもう一回結び直さなきゃいけないからさらに時間がかかる。

そして見たところ1位のペアも2位のペアも紐が解けてしまったようだ。

その間に3位のペアと一華のチームの最下位のペアが追いつき、拮抗したレースとなった。


……これは…勝てるかも?

ほんの数秒前にはなかった希望が湧き出てくる。

そして4組ほぼ同時にアンカーへとバトンを繋いだ。






結論から言えば一華達のペアは見事に他のペアを追い抜き、1位になった。

これは一華のやる気が高かったこと、そして何より一華とペアを組んでいた娘の身体能力が高く、やる気が一華よりも高かったことが原因だろう。

なんでも一華とペアを組んだ娘は竜堂一華ファンクラブ(非公式)の幹部だったらしく、一華を優勝させるために死ぬ気で頑張ったそうだ。

一華への無駄に大きな応援もプレッシャーには感じておらず、一華と足を結べる事への興奮でそれどころではなかったらしい。


……やはり真の敵は男子ではなく女子だ。

俺はそう深く心に刻んだ。

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