第63話「【タイマー】は、パーティを組む(前編)」
「う、埋め?…………いやいやいや無理ですって!! エルフとの揉め事の種だってのは分かるんですけど───」
「いや、分かってて、
もう一度封印しましょ、そうしましょ!!
そう言って、勢い良く立ち上がったセリーナ嬢。
だが、言わせてもらおう。
「───無理。絶対無理!!」
「はぁ?! 何言ってるんですか? あの人がここにいたらエルフが何をしてくるか!!」
いや、そうなんだけどね。
「た、たぶん、
「はぁ?!」
いや、はぁ───って、あんた。
「いや、その……。エリカさん。メッチャ強いです」はい。
「え? ええええ?! る、ルビンさんより?」
「は、はい……。多分、ギルド全員が束になっても勝てませんよ」
これは本当だ。
初めて退治した時のエリカは、間違いなく本調子ではなかった。
……そう。あれで本調子でなかったのだ。
戦闘中も、調整がどうのとか言っていたし、
実際、寝起きで全力で戦えるはずもない───。
そして、あの時の彼女にはある程度の手心もあった。
「そ、そんなバカな……!? い、今のギルドの最高戦力はアナタなんですよ?!」
「ええ?! 最高戦力ってそんな……」
「しょーもない謙遜してる場合じゃないですよ!! あの人が暴れ出したら、誰も手に負えないッとことじゃないですか! そんな人を───!!」
しょ、しょーもないって……。
「う……」
今さらながらとんでもないことになってきた気がする。
一応、エリカにはそういったことをする気はないと聞いてはいるが……。
何がどうなって気持ちが変わるか分かったものじゃない。
マジでどうしようと、ルビンが冷や汗をダラダラ流していると、
とつぜん、
「がおー! 人類滅ぼすーっ……てか? 言わないわよーそんなこと」
エリカが話に割り込んできてビクリと震えるセリーナ嬢とルビン。
「ひぇ?!」
「ひょ?!」
「そんなビックリしないでよ。あんまし待たせるから退屈してきちゃった」
そう言ってレイナと手を繋いで狭いカウンター席にグイグイと。
「ちょ、ちょっと! エリカさん狭いです! ケツ圧がぁ!」
「エリカでいいわよ、
あ、
「主ぃ?!」
エリカの言葉に眉じりをあげたのはセリーナ嬢。
「いやいやいや! 違う違う! 変なこと想像しないでよ!! 違うから……!」
「ロリっ子の次は金髪お姉さんとか、ルビンさんちょっと見損ないましたよ」
「だーかーらー!!」
ジトーっとしたセリーナ嬢の視線をうけつつ、ルビンは憤慨する。
なんなのよ!
勝手に人の属性増やさないでよ!!
「───んふふふ~。寄る辺なきこの身は主に捧げましょう……ってね。どうせ、身元不明だしいいでしょ?」
飄々と言ってのけるエリカはその豊満は体をルビンに押し付ける。
それをムッとした目で見ているセリーナ嬢と、エリカの膝の上にちょこんと座っているレイナ。
「はぁ……。えっと、エリカさんと言いましたか?」
「エリカでいいわよ。お嬢ちゃん」
「お、お嬢ッ……。コホン」
セリーナ嬢は一瞬、ビキスと額に青筋を立てるが、すぐに平静を取り戻し、
「まずは、はじめまして。私、当ギルドのマスター代理を務めているセリーナと申します。お見知りおきを、」
「あいあーい」
軽い返事のエリカ。
「そして、ルビンさんの担当を務めさせております、ギルド職員でもあります」
「ふむふむ?」
「な、なので──え~っと、相方を務めたいというのであれば、まずはいくつかお聞きせねばなりませんがよろしいですか?」
「どーぞぉ」
終始この調子だ。
セリーナ嬢はじっとり汗をかいているのを誤魔化しているが、その実かなり緊張しているらしい。
まぁ、無理もない。
ギルド最高戦力と評したルビンが勝てない。と言い切った化け物女と話しているのだ。
なにかが違えばギルドが吹っ飛んでもおかしくはない───と考えているのだろう。
「ま、まず。冒険者登録をしていただきます。そうすれば、それが身分証となるので、街で暮らすには不都合はないかと思います」
「あーい」
そう言って差し出された書類に無造作に書きつけていく。
存外きれいな字でエリカ・エーベルトと記入。古代文字だが、別に文字の指定があるわけではない。
それ以前によく書類が読めたものだ。
ルビンが変な所で感心していると、その視線に気づいたエリカがバチコンとウィンクをしてくるので柄にもなく照れてしまった。
「え~っと、古代文字ですね。エリカ・エーベルトさんでよろしいですか?」
「
そう言って素直にセリーナの質問に答えていくエリカ。
次々に書類の確認事項が「レ」点で埋まっていく。
その様子にセリーナが気付かれないように嫌そうな顔で唇を噛んでいた。
どうやら、書類不備を口実に追い返したい様子……。
だけど、悲しいかな。
元々荒れくれ者でも登録できるようなシステムになっているのが冒険者登録だ。
普通に答えていれば特に問題なく登録できてしまう。
住所だって必要ないし、なんなら元犯罪者でもお構いなしだ。
それほどに気楽で、そして危険な仕事なのだ。
5年生存率は聞いて笑っちゃうくらいに数字だったりするしね……。
「他には───?」
「い、いい、以上です……」
ガックリと項垂れたセリーナ嬢。
悲しいことに、用紙に記入された内容だけを見るならエリカは普通以上に冒険者の適性があるようだ。
「ぐぬぬぬ……。ぼ、冒険者登録ありがとうございます。ご説明を、お聞きになりますか……」
ギリギリと歯ぎしりをしながらセリーナ嬢が顔面崩壊寸前で対応している。
しかし、
「いんえ。どーせ大したことないし、いいわー。主に聞けばいいんだし、んね?」
ビキス。
「こ、ここここ、こちらがFランクのライセンスになります……。どうぞお受け取り下さい。」
「あいあーい。ふ~ん? ちゃっちいのー。んじゃあ、これで主と一緒にいてもいいのね?」
「うぐ。あ、主って……。ルビンさん、本当にいいんですか?!」
(え。何で俺に振るのよ……?)
「え? なんで俺に振るんですか?」
あ、声に出ちゃった。
「そりゃあ、ルビンさんのパーティですし……」
「…………………………は?」
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