第50話「【タイマー】は、最奥を目指す」

 レイナによる暗殺未遂───もとい、ちょっとしたミスのおかげで死にかけたルビン。


「死ぬかと思ったわ!!」


 「えへへ。失敗、失敗」と可愛らしく笑うレイナの頭を軽く小突いておいて、今度はしっかりするように言い置くルビン。


「わ、わかった! ごめんね。お兄さん」

 素直に謝るレイナをみて毒気を抜かれたルビンはあっさり許してしまう。


 ま。まぁ…………わざとじゃないよね?

 可愛いから許すよ。


 しかし、その後は順調にトラップを乗り越えていくルビンたち。

 レイナもすぐに順応したのか思ったよりも手堅く行動してくれる。


「あ、お兄さん! トラップだよ!」

「うお! あっぶねー……。ありがとうレイナ」


「えへへ」


 何度目かにはレイナに助けられることもしばしば。

 むしろ、レイナの順応率が高く、ルビンですら舌を巻くほどだ。


 最初は戸惑っていたものの、レイナも段々慣れてくると、ミスはついになくなった。


「やっぱり、レイナでよかったよ」

「え?」


 レイナはルビンの言葉に意味が分からず首を傾げる。

 まぁ、ルビンがレイナとパーティを組むことになった経緯はまだ話してないので、彼女には意味が分からないだろう。


「いや、こっちの話さ」

「ん~?」


 よくわからないという風に首を傾げているレイナの頭を掻くる撫でてやる。

 それを気持ちよさそうに受け入れるレイナ。


 それにしても、連動型のトラップが多い。

 しかも、パーティメンバーに命を預けるタイプのやつだ。


(こりゃ、セリーナ嬢のいうとおりにメイベル達とここに訪れていればどうなった事やら……)


 少なくとも、微塵も信頼できないメイベル達に命を預けるなんて考えられない。


 下手をすりゃ、彼女たちに連動式トラップで殺されている未来もあったかもしれない。


(やっぱり仲間は選ばないとな……)

 過去エリック達とパーティを組んでいた自分の視野の狭さに目眩を覚えそうだ。


 その点、レイナは凄い。

 スラムから足抜けさせたことを恩に感じているのか、出会った頃のツンケンさが抜けて、今ではルビンにベッタリだし。

 しかも、子供だからか、覚えが早い。


「そこ、トラップがあるから絶対に踏まないでね」

「う、うん!! 感圧型だね」


 この通り、ルビンの指摘にもレイナはすぐに反応して見せる。

 しかも、一度教えただけのトラップなのに、すぐにその種類を見抜いてしまった。


 やはり、レイナ以外に考えられない。

 彼女が同じ【タイマー】である事以上に、素直で健気なレイナは信頼できる。

 まだ、知り合ったばかりでも、ルビンにはそれが理解できた。


「よくわかったね?」

「えへへ。こういう仕事もさせられてたから……」


 レイナ曰く、アシッドドッグやらのスラムの連中は、時々近場のダンジョンに挑むことがあったそうだ。

 当時にレイナたちはダンジョンのことを何も知らずにつれていかれ───……あろうことか、その上を歩かされたのだという。


 つまりは人を使ったトラップの強制解除。

 ……家畜より酷い扱いだ。


 そして、その過程で何人ものスラムの住人が亡くなったという。

 レイナが生き残ったのも、ひとえに【タイマー】の能力チカラのおかげだという。

 だが、その甲斐あってか、トラップの類には感覚的に鋭くなったのだという。


「酷い話だね……。っと! あっぶねー……。こりゃ罠線だ。絶対に触れないでね?」

「う、うん……。これじゃ、ほとんどモンスターも棲みつけないね」


 その通りだ。

 しかし、なんだろうなこのトラップの多さ……。


 内部に入ってさほど時間はたってはいないものの、まぁあるわあるわ。

 トラップのオンパレードだ。


 かわりにモンスターの類はほとんどおらず、せいぜいがオオコウモリに、大ネズミ。それに昆虫系がいるくらいだった。

 それも数は少なく、時には彼らがトラップを踏み向いて絶命していく場面すらあった。


 今も、ルビンがナイフで大ネズミを一匹きりたおしたところであった。

「そっちは大丈夫?」

「う、うん! 大丈夫だよ!」


 レイナも慣れないながらもナイフで戦い、オオコウモリを仕留めていた。


「やるじゃないか──────って、なにやってんの?」

「ん? えへへ、お肉だよ♪」


 そう言って嬉しそうに蝙蝠の解体を始めるレイナ───って、やめんか!!


「ばっちいから触んないの!!」

「えー?! おいしいよ?!」


 食ったんかい!!


 あーもう、そういえばこの子スラム歴が長いんだったな……。

 そりゃ食ったことくらいあるか。


 だが、

 ダンジョンに生息する蝙蝠だ。さすがに衛生的とは言い難いので、ルビンは蝙蝠の解体を止めさせる。


「ほら、のんびりしてる時間ももったいないでしょう? まだまだトラップだって残ってるんだし」

「はーい……」


 ションボリしたレイナが、名残惜しそうにツンツンとオオコウモリの死体をつついているが速やかにやめさせる。


 ばっちい……。


「あとで、ご飯を奮発するから」

「ほんとー! わかったぁあ!」


 ニィと、歯を見せて笑うレイナ。

 こういうところは年相応だと思う。


「はいはい。じゃあ、気を抜かないで先を急ごう。まだまだ、トラップはあるからね!

「はーい!」」


 いたって普通の神殿タイプのダンジョンにみえるのだが、それを忘れさせるくらいにトラップだらけ。


 いっそ、トラップの博物館か! といいたくなるほどだ。


 それにしても、荒廃した神殿はあちこちがひび割れ外気にさらされているというのに、一体何を護るというのか……?

 首を傾げるルビンだったが、その答えはきっと最奥にあるのだろう。


(ここまでして守りたいものは何なんだ?)


 『時の神殿』が守ろうとしているもの……その正体とはいかに?


「……ふむ。次の通路を抜けた先が最奥だね。レイナ気を引き締めていこう」



 そして、そろそろ最奥に近づいてきた頃───。

「あれ? お兄さん、これって───」

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