第29話「【タイマー】は、狙われる」

「え、エルフって、あのエルフ?!」

「あのエルフが、どのエルフか知りませんが、エルフです」


 うっそ……。

 エルフが禁魔術指定してるのかよ。



 魔法に長けた種族で、排他的な思想と人類と相容れない程、純血主義を重んじている種族だ。

 かつて、エルフのもつ産品と魔法の技術を欲した人間の国が彼らに攻撃を仕掛けたが、アッと言う間に返り討ちに会い。その国は焦土と化した。

 しかし、エルフはそれで満足せずに、怒りの矛先を全人類に向け、近隣諸国を蹂躙し焼き尽くした。

 大昔の人類は慌てて連合を組み、エルフに対抗したが互角程度の戦いに持ち込むくらいで、いつ破れるか分からない事態に陥り、彼等の要求を全て飲むことでなんとか和解したという史実がある。


 その後の彼らは要求した国土に閉じこもり、エルフ自治領として何人も立ち入ることを禁じて今に至る。


 それ以来、人類はエルフをおそれ、彼らに干渉することをやめた。

 いわゆる。エルフに触れてはいけないアンタッチャブルだ。


 たまーに、変わり者のエルフが人間社会に降りてくることを除けば彼等との接点はなきに等しい。

 だが、それでも情報が筒抜けだろうと思っていい。


 長寿のエルフは人類がぶん殴ってきたことを忘れず、未だに警戒し監視を続けているのだという。


 それが、この世界のエルフだ。


「………………それってやばいよね?」

「エルフに見つかったらヤバいですね……。もっとも、それが時間魔法だった場合ですが」


 タイムと時間魔法。

 たしかに、言われてみれば時間を操るタイマーのスキルは時間魔法に似通っている。


 いや、むしろ同じものなのか?


「一応、この近辺はエルフの行動範囲からは大きく外れているのですぐに彼らの耳に入ることはないでしょうが……」

「うん……」


 この言い方だと、いずれバレるということだろう。


「ど、どうしよう」

 エルフ怖い。


「わかります……我々も貴重な人材をエルフに取られたくはありません」


 うん。助けて?


「なので、ギルドとしてはルビンさんのスキルが禁魔術のそれではないと調査することにしました」

「え、ほんと?!」


 さっすがセリーナさん、そこに憧れるぅ!!


「その、タイムが時間魔法と関係あるのではというところから派生する情報ですが、」

「は、はい」



「ルビンさんは『時の神殿』というダンジョンをご存じですか?」

「時の神殿…………? たしか、ダンジョン都市の外れにある遺跡ですか? たしか、Bだか、Aランク推奨の……」

「はい、それです。ですが、ランクはあくまで基準です。実際はほとんど発掘され、目ぼしいものはありませんので、今はせいぜいBランク推奨ダンジョンでしょうか」


「そこに何が?」

「わかりません」


 ズルッ!


「わ、わかりませんって……」

「わからないから調べるんですよ。一応調査は終わっていますが、実はあそこ───まだ未調査の区画あるんです」


「へえ」


 ルビンの気のない返事にセリーナ嬢が困った顔で言う。


「時の神殿の由来は、かつて時間を操る種族がたてた神殿だという伝承があるからと言われています。そして、その最奥には時の秘密が隠されていると……」


「え、それだけ?」


「は、はい。調査はほとんど終わっていますが、一部どうやっても入れない区画があって……。古代文字を解読した学者が言うには、時を操るものが来た時───その扉は開かれる、と書かれていたそうです」


 へー……。


「興味がなさそうなのはわかりますけど、今はこれくらいしか情報がありません。引き続き我々も情報を収集しますので、まずはこちらを調査されてはいかがでしょうか?……という提案です」


 うーん……。

 どうなんだ、これ?


 時の神殿っていうくらいには、なんらかの時間に関係するんだろうけど。

 それと【タイマー】が関連するのか?

 だいぶ、こじつけな気がするけど……。


「これは、ギルドからの特殊依頼スペシャルクエストだと思ってください。実際、未調査の区画があり、そこを調査できそうな人材は今ルビンさんがいるのです。これを逃す手はありませんので、それにルビンさんのランクを上げるためにも役立ちますよ?」


「いや、別にBランクでもいいんだけどね───まぁ、他に手がかりもなさそうだし、うまくいけば、時魔法との無関係が証明できるか」

「はい。是非そうしてください。我々も引き続き情報を収集します」


「わかりました。では、そのクエストを受注します」

「ありがとうございます! あ、そうだ───」

「え? まだ何か?」


「えっと、ダンジョンの特性上、時の神殿は二人以上でないと入れないんですよ」

「ダメじゃん───俺、ソロだよ」


 セリーナ嬢はそれすらも予想していたのか。


「えぇ、そのためコチラからメンバーを紹介しますね。後日ルビンさんにぴったりの人をお呼びしておきます。もし気に入ればそのままパーティを組んでもらえればなー、なんて……」

「…………Sランクパーティが欲しいだけでしょ? ギルドに」

「う……」


 はぁ、見え見えなんだよ。

 『鉄の拳アイアンフィスト』が壊滅して以来、このギルドはSランクパーティを欠いている。

 そのため、ギルドも必死なのだろう。


 先日の話を聞くに、ルビンが加わることでSランクになることができるパーティもいくつかあるんだとか。

 その障壁になっているのが筆記試験というわけだ。


(なら、筆記試験なんてやめちまえよ……)


「た、たしかにギルドにSランクパーティがいてくれるのは心強いのですが……。いえいえいえ! 大丈夫です、きっとルビンさんも気に入ってくださいますから!!」

「わかりました。一度会ってから判断します」


 さすがに知りもしない相手とパーティを組むのは抵抗がある。

 先日も『鉄の拳アイアンフィスト』で大騒ぎしたばかりだ。正直、しばらくパーティは組みたくない。


 だけど、セリーナ嬢がここまで言うのだ。

 会うだけは会ってみよう。


 それに、『時の神殿』とやらが気にならないわけでもない。


 セリーナ嬢にはああ言ったが、『超々希少職』というのが気になっている。

 彼等がかつて厄災をばら撒いたことがあると言うそれに……。


(俺は違うよな……?)


 【タイマー】とはいったいなんなのか。

 その答えが『時の神殿』にあるというなら、調査する価値はある。



 ならば、メンバーを臨時にいれるのもやぶさかじゃないさ……。



「ありがとうございます!! ぜったい、絶対気に入って下さるはずです! えぇ、絶対……! ルビンさん良い人ですもん」

「え、あ。うん」


 何、最後のルビンが「良い人ですもん」って?

 どうにもひっかかりを覚えながらも、ルビンは依頼を受けることを了承した。

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