弱小ギルドの下克上~来る者拒まずで仲間を大切にしていたら、爪弾きされた実力者たちが集まってきました~

空野進

ギルド結成

 ギルド【赤龍の絆】にいつもお世話になっていた俺――アイルは両親の都合で町を離れることになった日、ギルドマスターに頭を下げて頼み事をしていた。



「大人になったら俺も仲間に加えてくれ!」



 どんなときでも楽しそうに笑い合っていたギルドメンバー達。

 そんな様子を見て、俺もこのギルドに入りたい……と思うようになっていた。


 ただ、自分はまだ八歳の子供。

 今ギルドに入ったとしても何もできることはない。

 それなら、これから自分を鍛え上げて改めてギルドに加えてもらおうと考えたのだ。



 すると、ギルドマスターは笑いながら『アイルが成人して、しっかりとした実力が付いたときには仲間にしてやる!』と答えてくる。



 その言葉を聞いた俺はうれしさのあまりギルドマスターに抱きついていた。



「次に会うときはしっかり鍛えてくるからな!」

「おう、俺たちもお前に負けないように高みを目指してやる!」



 しっかり約束をして、俺はギルドを去って行った。



 そして、俺はギルドマスターからもらった言葉を信じ、成人するまでしっかりと鍛えてあげた。



 魔物と戦える実力を得るために剣を振り続け、後方から支援をできるように簡単な攻撃魔法や補助魔法も覚えた――。

 まだまだトップクラスには及ばないが、普通の依頼なら十分にできる能力となった俺は意気揚々とギルドへと向かう。



 今の俺から文句なしにギルドメンバーにしてくれるはず。



 そう思っていたのに、どうしてこんなことになったんだ――。




◇◇◇




 ラッツェンの町。

 その町外れにある木造住宅を前にして、俺は愕然がくぜんと眺めていた。



 そこは元々ギルド【赤龍の絆】があった建物なのだが、中はもぬけの殻であの楽しくて騒がしかったメンバーの姿もなかった。

 その上、建物の中には埃が溜まっていたり、蜘蛛が糸を張っていたり、と長いこと使われた形跡がなかった。



 もしかしてギルドを解散してしまったのか?

 何か事情を知ってる人はいないのか?



 周囲を見渡して、たまたま近くにいた人に聞いてみると、やはり予想通り数年前に彼らは去ってしまったようだ。



 思わず視線を落として茫然としてしまう。



 ただ、こんなことで気持ちを落としていたら彼らに笑われてしまう、とすぐに顔を上げ、両頬を叩いて気持ちを奮い立たせる。



「なくなったのなら俺が作り直せば良いだけじゃないか。彼らにも負けないような最高のギルドを――」



 この場所もギルドを管理している本部が所有しているので、登録のついでに借りることができるかの交渉をしてみよう。

 使われている形跡がないので何とかなりそうだけど――。



 行動方針を決めた俺は、町の中央にあるギルド本部へと向かっていった。


 


◇◇◇




「手持ちの金を全て使い切ってしまった――」



 登録を終えた後、俺はおぼつかない足取りで町の外を目指していた。

 ギルドの登録費とギルドホールを借りるのに、貯めてきた金を全て使い果たして――。



 金がない……ということは、このままだと夕食も食べられない。

 だから、まだ残っていた簡単な依頼は受けてきた。



 内容は『大トカゲ討伐』で難易度的にはEランク相当と書かれていた。



 どうやら原因は分からないが大量発生したようで、一体以上討伐したら依頼達成になるようだ。


 報酬は一体で銀貨一枚の千リル。

 食事代だけで消えるような額だが、夕食の費用もない俺にとっては確実にできる依頼……ということで、迷わずにこれを手に取っていた。


 初心者でも倒せるような低ランクの魔物なので、鍛えてきた俺なら余裕で倒せるだろう。



 今日の夕食がかかっているんだ。

 確実に成功させないと――。



 ただ、今の俺の装備は安物の剣と回復ポーションが一つ――。

 あまり危険な魔物と戦えるような装備ではない。

 怪我をしても治療する金もないわけだから、大トカゲくらいがちょうどいいだろう。



 気合いを入れ直すと俺は町の外へ出て、大トカゲが出たという近くの山の麓を目指して進んでいった。




◇◇◇




 山の麓に着く。

 青々とした草木が茂り、心地よい風が吹いている。

 遠くを眺めると狼や鳥の魔物が見える。



 余計な相手とはあまり戦いたくないな……。



 見つかりにくいように少し腰を落としたあと、周囲を見渡して大トカゲを探し始める。


 すると、大トカゲではないが、すぐ近くでだいだい色の長い髪をした少女を見かける。

 更にその側には人の半分ほどの大きさを持つキノコ型の魔物であるマッシュロンも見える。



 ただ、少女とマッシュロンの距離はほぼゼロ。

 なんだか様子がおかしいように見えた。



 ゆっくり近づいて、状況が分かる位置まで移動する。

 すると、少女の声が聞こえてくる。



「うーん、キノコの魔物さんは味がイマイチですねー」



 えっ!? 魔物を食べてる!?



 思わずポッカリと口を開けて見てしまう。

 たしかに魔物を食べることはできる。

 ウルフ肉とかは安価で買えるので、頻繁に料理に出てくるものだ。


 ただ、まだ魔物が生きてる状態で、生のまま食べていることに驚いてしまう。



 そんな、マッシュロンにかじり付いている少女。

 整った顔立ちの美少女で俺の頭ひとつ分ほど低い背丈。

 服装は軽装で村娘……という言い方がぴったりかもしれない。



 そして、その側には大きな剣が転がっている。



 あれがきっと少女の武器なのだろう。

 すぐ近くに魔物があるのに転がっているのは不自然だが――。



 しかし、そんな俺の驚きとは裏腹にマッシュロンはだんだんと少女に食べられていく。



 マッシュロンも必死に抵抗して、バタバタと暴れている。

 しかし、その抵抗も虚しくどんどんと食べられていき、最終的には全て少女の腹の中に収まってしまった。



「ふぅ……、満足満足。ようやくひと心地つけました。最近あまりお金がなくてご飯をちょっとしか食べられませんでしたから」



 軽く自分のお腹をさすっていた少女と目が合う。

 俺に気づいた少女は動きが固まっていた。



「あっ、えっと、すまない。食事中だったか?」



 頭をかきながら少女に問いかける。

 すると少女が我に返り、俺に近づいてくる。



「あのあの、もしかしてギルドの方ですか!?」



 目を輝かせながら、ぐいっと顔を近づけながら話してくる。

 美少女に顔を近づけられて、思わず顔を背けながら答える。



「えっと、確かにギルドには入ってるね。一人だけど……」

「やっぱりそうなんですね! 町から離れたこんなところにいるからそうだと思いましたよー。実は私もギルド加入志望なんです!」



 笑顔を見せながらやたら親しげに話しかけてくる少女。

 そんな彼女を見て、俺は少し考え込む。



 ギルド加入……志望?

 すでに魔物を一人で倒せるのに、どこのギルドにも所属していない?

 かなりの有望株じゃないか?


 彼女を誘うことができれば、一気に戦力が上がるな。



 考えがまとまった後、俺は小さく頷くと少女に視線を向ける。



「加入志望……か。それならよかったらうちのギルドに来ないか? ちょうどメンバーを探していたんだ」

「本当ですか!? ぜひよろしくお願いしますー!」



 あまりにもあっさり頷いてくれたので思わず拍子抜けしてしまう。


 こんなに簡単に決まってもいいのか?

 何か裏があるんじゃないのか?


 いや、そんな思惑を抱いている感じには見えないな。


 俺が必死に考えをまとめていると、顔を上げた少女が顎に人差し指を当てて、首を傾げる。



「あれっ、でも、ギルドに所属するにはギルドマスターさんの許可が必要になるのですよね?」

「大丈夫、俺がそのギルドマスターだから……」

「そうなんですね。すごいですー!」



 俺の手を掴んでくる少女。

 無防備に、笑みを浮かべながら――。

 その突然の行動に俺の頬が紅潮するのを感じる。



「い、いや、そこまですごくはないな……。まだ作ったばかりで、俺しかいなかったんだ」



 頭を触りながら小声で呟く。



「それなら新米ギルドマスターさんなんですね。私もギルドに入るための手土産を準備しようとして魔物を倒していたんですよー。でも、すぐにおなかが減ってしまって――」

「それで、マッシュロンを食べていたんだな……」



 事情はわかり、思わず苦笑してしまう。



「とーーーーっても美味しそうだったんですよ! だってキノコさんですし」

「一応魔物だからな。襲い掛かってくるし、生で食べても美味しくないだろう?」

「お腹は膨れましたけど、味はイマイチでした。次は味付けがいりますね」

「そういうことを言いたいんじゃないんだけどな」



 俺は深々とため息を吐く。

 その様子を少女が不思議そうに見ていた。



「それより町の外にいる……ということは何かの依頼をされるのですよね? どこに向かうのですか?」

「あぁ、『大トカゲ』を討伐しにいくところだ」

「トカゲですねー! わかりました、行きましょうー!」



 俺の手を掴むと少女はどこかへ向かって駆けだしていく。

 とんでもない速度で――。



「待て待て! 俺はそこまで速く走れない――」

「大丈夫ですよ! まだまだ本気じゃありませんからー!」

「だから、これ以上速く走るな!!」



 大声で何とか少女を止めようとするが、止まってくれない。

 そのまま少女が止まってくれるまで引きずられていった。

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