Nemesiss Code 【MAGUS】の破壊任務

@Rruon

【MAGUS】破壊任務 Voidβチームの場合

光化学スモッグが立ち込め、陰鬱とした雰囲気の下層街区。そのとある場所に、三人のサイボーグがいた。

「さて…久しぶりの仕事ですよ、気合入れてくださいね」

魔法使いのような出立の男が2人に話しかけた。

「そんなのわかってる、それにしても…ヴァースが時間通りに来るなんて珍しいな?」

「あはは、この前ルオンに怒られちゃったんだよねぇ…皆んなに迷惑かけすぎ!って、お母さんかっての。まぁルオンに言われちゃね、従うしかない」

「…次からルオンに頼むとするか…てか今までの俺の説教は何だったんだ!!ヴァース!!」

「うへぇ〜、うるさいなぁ〜…ルオンがお母さんならシュヴァルはぐちぐちうるさい姑だね〜」

黒衣の男シュヴァルは、いつも奔放なヴァースに苛立ちを隠せず、思わず声をあげた。しかしヴァースは『また始まった!』と言わんばかりに、シュヴァルに対し大袈裟に耳を塞ぐポーズをしてみせた。

「はいはい二人とも!喧嘩しない!まったく…とりあえず、資料は確認しましたよね?」

「あぁ、【MAGUS】…AIでありながら魔法を行使できる生態コンピューター…見たところそこまで苦労するような相手じゃないな…すぐに終わるだろうよ」

「えぇ、私達なら簡単な仕事です」

「はぁ〜あ…早く帰りたい…」

3人は京極ハイテックスが誇るサイボーグ部隊『Void』であり、

魔法使い風の出立に丁寧な言葉遣いをする、〈ロッド〉

口が悪く、全身黒づくめのマントを着た〈シュヴァル〉

身の丈よりはるかに長い鉄の棒を持っているのが特徴のマイペースな〈ヴァース〉

βチームに所属するこの3人は、『Void』の中でも問題児として有名である。


「ではでは、作戦を話しますね。情報通りであればスサノヲ隊員が遺した、"禊"、"楔"、"黒雨"があるのでそれらを使い、巨大な手の形をした一対のサブユニットの攻撃を避けつつ、敵本体のAIの破壊をしようと思います」

ロッドが作戦の内容を簡潔に話した。

「あぁ、了解した。役割分担はどうする?」

「役割は、私が二人のサポート。シュヴァルは"黒雨"での敵本体への攻撃。ヴァースは陽動でいきましょう」

「敵の…念動力放出とか言う馬鹿げた攻撃はどう対処するんだ?」

シュヴァルは怪訝そうに質問した。

「それは私の念動力で防ぎます。相手の念力を探知したら私の念力で相殺させるので安心してください」

「俺は避けるから良いよ〜、あ、シュヴァルはすぐやられちゃうから絶対必要だよね〜」

「なっ!てめぇ!」

ヴァースがシュヴァルを馬鹿にし、ふざけているのをロッドはいつも通りの風景、と思いながら説明を続けた。

「…ほんとこの子たちはもう…とりあえず流れとしてはまず目標のいる空間に侵入後、私の念動力で遺品を回収し、"黒雨"をシュヴァルに、"禊"は防御用に私が、"楔"は敵の動きを止めるのにヴァースが持ってください」

「わかった」「あいよ〜」

「その後まずヴァースが目標に突っ込み、引き付けてください。その間にシュヴァルが敵の懐に入り"黒雨"を発射し、目標を破壊。と言う流れです」

「他に注意することはあるか?」

「シュヴァルは心配症だな〜、その場その場で対処しなさいよ〜、まったく〜」

「うるせぇ、何事も用心深く準備するのが1番なんだ」

シュヴァルの心配をよそに、ヴァースはまたシュヴァルをからかった。

「そうですね〜…情報通りなら敵の〈両手〉からの魔法攻撃ですかね。いくら複数の脳を使ってると言っても流石に詠唱の隙があるんでしょうが…両手なのでその隙を埋めてくるでしょうね。それにさっきも言いましたが念動力にも気をつけてくださいね」

「了解した」

「よ〜し!そうと決まれば早く行こう!ちゃちゃっと終わらせてさっさと帰ろう〜〜、何してんの2人とも、置いてくよ〜?」

「…ロッド……あいつぶっ飛ばしていいか?」

「はいはい、喧嘩するなら仕事の後!行きますよ!」

意気揚々と走っていったヴァースを、呆れつつも2人は追いかけて行った。




【下層街区 地下研究所】

「さぁ、この壁の向こうに目標がいます、準備は良いですか?」

3人は地下研究所内の一室にいた。

「あぁ」「うぃ〜」

「では5カウントで突入します、5、4、3、2、1」

ロッドがカウントを終わらせようとしたその時

「よいしょー!」

ドン!と大きな音を立てて、目の前にあった厚い壁は崩れた。

ヴァースが待ちきれず壁を叩き壊したのだ。

「……」

シュヴァルは呆然と立ち尽くし、

「やれやれ…行きますよ!」

ロッドは溜息をつきながら走った。


少し遅れて2人が壁の向こうへ入るとすでにヴァースは戦闘中であった。

敵の大きな手の指先から放たれる、一度に数十発はあろう多重魔法行使によるアイスミサイルを巧みに避けつつ、自前の鐵混での攻撃も行なっている。

「…これ…あいつ1人で片付きそうだな…」

「えぇ…そうですね…」

2人が呆気にとられていると、

「ねぇ!これがさっき言ってたやつでしょ!ほい!」と、先行したスサノヲ隊員であろう死体を片手で掴み、2人に投げつけた。


死体は二種類のクナイを3つずつと、スサノヲの諜報員に配備されると言うライフル【黒雨】をその腕にしっかりと抱えていた。

「さすが天下のスサノヲ隊員、死してなお闘う意思を手放さないとは…感服です」

「あぁ…だな…」

「もー!のんびり話してないで手伝っ…!?」


2人が感傷に浸っていると、まるで何かに遮られたかのようにヴァースの声は途切れた。

「!!ヴァース!危ない!」ロッドが何かを感じ取る、その瞬間、敵の右手が何かを握るような形を取った。

「…ぐっ……くそ…」

ヴァースが何かに掴まれたように、体を捩る。

「まずい!今助け…」

「いや、平気…」

「!?おい!どこが平気なんだ!?」

シュヴァルが駆け寄ろうとすると、ヴァースは一度だらりと全身の力を抜き

「ふん…っ!!う…ぉぉおお!!」と言う怒号のような声と共に、一気に力を込めた。

すると握る形をしていた敵の右手が徐々に開き始め

「あと……もぅ…すこ……しっ!!!」

ヴァースが叫ぶと共に、敵の右手は完全に開きヴァースは解き放たれた。

それと同時にヴァースは、敵の本体である浮遊する球体へ一気に近づき、鐵混を振りかぶった。

その刹那、敵も負けじと浮遊する両手でヴァースを押し潰そうとした。が、

「お前ばっかりに良い格好させるか!」シュヴァルは敵の右手をナイフで斬りつけ、

「でも客観的に見るとやはりヴァース1人で片付きそうでしたね…」やれやれと呆れつつロッドが左手の攻撃を念力で防いだ。

ヴァースは2人を一瞥し、フッと鼻で笑う。

「これで…終わりぃ!!!」

力の限り鐵混を叩きつけた。

ドコーン!!!と雷が落ちたかのような大きな音と共に砂埃が立ち込める。



煙が落ち着くとそこには敵の本体が真っ二つに割れていて、両手も完全に沈黙していた。

「ふぅ!結構やばかったかも!あはは!」

ヴァースが不敵に笑った。

「元はと言えばお前が指示通りに動かないからだ!!」

「まぁまぁ、無事に終わってなによりじゃないですか。さぁ、報告ついでに隊員さんの遺品を持ち帰ってあげましょう」

怒鳴るシュヴァルをロッドが鎮め、その場を後にしようとしたその時

『ニューラライズ・オーバーロード発動』

と機械の音声と共に沈黙していた巨大な両手が動き始めた。

「なんだ!?こんな情報、資料に無かったぞ!?」

「まさか…『東方の三賢人』ていうのは…くそ!考えが足らなかった!」

「おい!どういうことなんだ!?」シュヴァルは声を荒げた。

「簡潔に話すと…さっき破壊したのは確かに本体のAIですが…サブAIとなる両手も破壊しないといけないってことです…」

「わかりやすい説明ありがとよ!それよりどうする!?一旦引くか!?」

「えぇ…仕事残したまま帰るの…?それはそれで嫌なんだけど…」

ヴァースは気怠げに言いながら

「両手も壊しちゃえば良いんでしょ?すぐ済む話じゃん。…それ!!」

動き始めた〈両手〉に鐵混を叩きつける。が、

「!?…なんだ…?」

鐵混は〈両手〉ではなく床を叩き付けていた。

「これは…分離してる…!?…面倒だなぁ……」

ヴァースが頭をかきながらぼやいていると、

「ヴァース!!危ない!!」

「ん?…ぐっ…!」

分離した〈両手〉のパーツが念動力によって加速され弾丸となってヴァースを襲った。

「ヴァース!!無事か!?」シュヴァルの心配をよそにヴァースは

「あ〜…痛ってえ〜……」と呑気な声をだしていた。

「平気そうだな…しかしまずいな…関節がAIの周囲を固めて簡単には手を出せなくなってる…」

「そうですね…これは一旦引いて作戦を立て直すとしましょうか…」シュヴァルとロッドが話していると、

「まだ…やれるっ!!」

ヴァースが飛び出し分離したパーツを叩く、がしかし、別のパーツがまたヴァースを襲う。

「くそ!言わんこっちゃない…!」

シュヴァルはハンドキャノンで、

「中々まずい状況になりましたね!」

ロッドは念力で。

それぞれパーツに攻撃するが、パーツ自体が念動力で覆われており中々破壊できない。

その間にもヴァースは、一方的に壁に叩きつけられていた。

「仕方ない…持ち帰る予定でしたがこれを使うしかないですね…」

ロッドが"黒雨"を取り出そうとしたその時、

「ちっ…あぁ〜……うぜぇな…」

ヴァースが呟いた。

シュヴァルとロッドはヴァースの異変に気づき、動きを止めた。

「これは…キレたか…!?」

「……怒って…そうですね…」

2人は焦っていた。

それは暴走したAIにではない。

その焦りは、何度も叩きのめされた事に怒るヴァースに向けての焦りであった。

「くそが…ムカつく…ムカつく…あ゛〜…」

ゆっくりと、ぶつぶつ呟きながら立ち上がるヴァース。

「あ゛ークソ、なんなんだ…たかが指如きが足掻いてるのもムカつくし……そんなのにやられてる俺も……全部…ムカつくなぁ!!!」

怒号と共に周囲に熱風が広がる。

「やべぇ!やっぱりだ!!逃げるぞ!!」

「ですね!!一刻も早く逃げましょう!!」

2人は怒るヴァースを尻目に、その空間から走って逃げ出した。

「あぁ゛ー、…ムカつく…くそくそくそくそくそ…」

ヴァースが怒りをあらわにするほど周囲の温度は上がっていく。

AIは異変を察知し、分離体を加速させヴァースにぶつけるが、ヴァースに反応はない。

AIは『分離体は確かに当たった筈だ、外れた訳ではない。なのに相手は吹き飛ばなかった…なぜだ?』と混乱した。

しかしその疑問はすぐに解決した。ぶつけた分離体はヴァースに触れた傍から、溶けていたのだ。

周囲の温度は上がり続ける。

AIは『コイツは危険だ排除せねば』と判断し、すべての分離体を加速させヴァースに向かわせた。

しかしそれはヴァースに触れる事なく、どろりと溶けて燃えていった。

「おい…まだ抵抗すんのか…イライラさせやがって……」

さらに温度は上がり続け、ぐにゃりと空間は赤く歪み始めた。

「…さっさと……燃え尽きろ!!!」

手を前に掲げながらそう叫ぶと、ヴァースを中心にその場が白い閃光に包まれた__。




【下層街区 とある居住区】

「ここまでくれば…さすがに大丈夫だろ」

「ですねぇ…たぶん本気を出したら下層街区丸ごと無くなっちゃうんじゃないですかね…」

「それは言い過ぎ……でもないな、やりかねん」

「でもあの地下研究室は丸ごと無くなってるでしょうね…あそこら辺に人が住んでなかったのが唯一の救い…ですね」

研究所から逃げてきた2人が話していると、生暖かい風が吹いてきた。

「…終わったようですね…」

「あぁ…ヴァースを回収しに行かなきゃな…」

はぁ、とため息を吐きつつ2人は歩き出した。




【下層街区 地下研究所周辺】

「いやぁ…やっぱあいつヤバイわ…」

「同感です…果たして同じサイボーグなのでしょうか…」

シュヴァルとロッドが地下研究所があった場所に辿り着くとそこは目測でも直径100mほどの球状にくり抜かれていて、跡形もなかった。

未だ熱気が立ち込めるなか

「おーい、助けておくれ〜〜」

と、気の抜けた声でヴァースが地下から呼んでいた。

「はぁ…やれやれ…今行く」

「アレやると動けなくなっちゃいますもんね〜」

2人がヴァースの元へ駆け寄った。

「まったく……よっと」

「いやぁ〜、すんませんなぁ〜」

シュヴァルがヴァースを肩に担いだ。

「最初から作戦通りに動いてればこんなことには…」

「はいはい、わたくしが悪うございますよ〜」

「…(なんだかんだ仲が良いんですよねぇ)」

ロッドは、2人が軽口を叩き合っているのを微笑ましく見ていた。


「さて!それでは任務達成という事で私は報告と遺品を届けに行ってきます。2人は先に帰っていてくださいな」

「あぁ」

「えぇ〜、シュヴァルと2人きりかよ〜、やだなぁ〜」

「てめぇ!担がれてるくせに何言ってんだ!!」

「うへぇ〜、ほらロッドがいないと俺がいじめられる〜」

「はいはい2人とも仲良く帰ってください。それではまた後ほど。」

ロッドは2人を見送ると

「さてさて…報告と遺品を届ける前に……っと」

スサノヲ隊員の遺品を取り出した。

「滅多にお目にかかれない鬼神衆の装備ですからね……ただ返すだけじゃ勿体ないですよね♪」

上機嫌に、ロッドは歩き出した。

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