今をときめく女子高生に人生最大最強の告白を。
藍坂イツキ
episode:1 エーデルワイス
動悸が早まった。
故に。
17の夏。
彼女は学校でも唯一の場所、どの階からも見える内庭に立っていた。
セーラー服から透けている背中に突き刺さる視線で今にも心が挫けそう。血反吐を吐いてもおかしくはなかった。
日光? 日焼け?
もしかしたらそれなのかもしれない。所謂、錯覚ってやつ。ただ、うなじから尾骶骨にかけて伸びている脊髄に彼らの眼差しが直進していく。
心が痛い。
外的外傷よりも心的内傷の方が大きいという言葉は、今彼女が身で受け止めていることと同じだろう。
下唇を噛みしめると、染みだす紅蓮の液体が彼女の脳を揺らす。
なんで甘いのだろうか。
彼女には分からない。
考えている間もなく、視線が増した。
肌で感じる数十の気配はもはや自分では計れなかった。もしかしたら、何百とあるのかもしれない視線の嵐。吹き荒れる暴風雨、台風の目の中心に彼女は立っている。
甲子園球場での野球や国立競技場でのサッカー選手権、大ホールで行われるオーケストラでの選手たちは一体、どんな気持ちになっているのだろうか。今の彼女にとっては心底それが気になっている。
ただ、想像してみれば分かる。心からあふれる緊張は彼女の比ではないだろう。まず、比べるのがおかしい、前提を吐き違っている。比べることすらおこがましいのだ、その差など目に見える。
でも、彼女は思う。
甲子園なんかよりも、選手権大会よりも、演奏会なんかよりも。
今は刺激的で、衝撃的で、尚且つ高揚感がある混沌とした緊張が渦巻いていると。
彼女の措かれる状況は、人生で一番と言えるくらい、いやこれが一番で最高にして最恐にして最上級、これから歩むであろう人生も入れてもなお、すべての分野で勝っている。
今までの経験が糧となっているのが直に伝わる。
彼女の努力は実になるのか、ならないのかなんて知らない。単純に思うのだ、そんなこと重要ではない。私はここまで頑張ったんだ!
ーーーーなんていう形があれば、過程があればそれでいい。
それがゴールだと思うような気もしない。
たとえば、としよう。
楽しい、悲しい、辛い、面白い、怖い、気持ち良い、気持ち悪い、嬉しい――挙げたらきりがない。
どんなに他愛のない会話でも、面白みのない古典の授業でも、活躍できない体育の授業でも、ひとつひとつの経験は決して無駄ではない。
集中して、注意して、真剣に望んでいけばそれは大切な土台になる。
そして、それを極めた人のことを教養のある人間と言うのだろう。
人間皆病気である。
ん?
あ、ごめん。間違えた。
人間皆平等である。
ん? 雰囲気がぶち壊しだって?
馬鹿言うんじゃねえよ、筆者の俺だって想像して書いてるんだ。緊張して書き間違えることだって必至だろ。文句言わずにお前も書いてみろよ。
平等、なんてことは言わない。皆平等であることなどありえない。
もしそうだとしたら、個性という概念は崩れる。
話し上手だとか、聞き上手だとか、食べても太らないとか、極端に言ってしまえば、瞳の色も髪の色も耳たぶの形も指紋だって、すべて個性だろう。
その人の特徴であり個性であり一種の才能だ。
人それぞれで千差万別。
とても神秘的で、どこか美しい人間の不公平さなのだ。
私はアルビノ。
先天性色素欠乏症を患う私は、肌も髪も目の色も眉毛の色も、表面から見える部分は全部雪のような色をしている。
クラスの皆には綺麗とか美しいとか色々の言葉を投げかけられた。
でも、その言葉の裏には何かを感じる。幽霊のように見えない気持ちをその背後に感じてしまう。なんで、本当のことを言ってくれないのだろうか。思いははち切れて止まらない。
誰も、
話しかけてくれた男の子だってどうせこの肌を見ているだけなんだ。
私には興味なんてありはしないんだ。
女の子だってあんまり仲良くしてくれない。男の子にモテるだろって、そう言って虐めてくる子もいたんだ。
そうやって、みんなみんな————私の事なんか見てくれないんだ! 見てなんか、くれはしないんだ‼‼
あ、いや、その……熱くなって、ごめんなさい。
でも、だからこそ、こんな腐れた本音なんて言いたくはない。
人間皆不平等である。
しかし、不平等さを埋めるのが、経験の積み重ね、つまり努力だ。
人生の楽しみでもあり、それ自体が美学。
経験は命の意味、とても大切なモノだ。
その人の素顔を垣間見てしまったような気分になる、自分が作り出したチートの「不思議な魔法」みたいなものだろう。
異世界召喚? 異世界転生? 異世界転移? 努力もしてないやつが最強の力を手にして、そんなやつらと一緒にしないでほしい。
そこら辺の神にもらったような力と比べるんじゃない、彼女が今手にしているのはたったの17年の
MPを全部消費して、全身全霊で、身を犠牲にして、思いをぶつけようとしている彼女を見てもまだ、世の中に不平等な才能なんてありはしないっていうのなら。
あなたは、とても。
頭がよろしいのでしょう。
それも、すごく、すごく賢しく気高き天才の殻を被った井の中の
彼女は走馬灯を見ていた。
死ぬときだけだと思っていたことを今、経験していた。
なんて羨ましいか、経験が増えたじゃないか。
そんな、人生の経験が、彼女の目の前で。
何度も、何度も、何度も繰り返す。
糧はこの時のためにあったのだと、困った自分のために存在していたと気づいたとき、彼女は涙を流していた。
エーデルワイスが咲き誇る。
花言葉は「大切な思い出」と「勇気」。
真っ白な花弁が風に揺れてリズムを刻んでいた。
一定ではない。決して乗っかっていけるような波ではない。
でも、なんでなのだろう。
自然とテンポが分かる、手のひらで動くオルゴールの振動を歯で感じて楽しむようなくらいに明確で、分かりやすい。
一面に広がるお花畑に――
一人の少女はただ茫然と立ち尽くしていた。
起伏のない人生に、安定だけの人生に、変わらない恋心に。
なんの面白味があるだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます