死んだ恋人との夜

@kurokurokurom

第1話

 僕は2LDKのマンションに住んでいる。テーブルの置いてあるリビング、ベッドがある寝室、テレビがあるこの部屋に分かれている。ベージュのカーテンが窓にはかかっていて、エアコンがその上にあった。

 僕は近所の弁当屋で買ったチキン南蛮弁当を食べていた。テレビではニュースがやっている。チキン南蛮弁当のタルタルソースはなぜかとても好きだ。僕は週に四回はこれを食べている。

 僕がチキン南蛮弁当を食べ始めたのは、昔の恋人がきっかけだった。恋人は病気になり、病室で息を引き取った。記憶の中に恋人の残像が浮かんでは消えていく。

 僕は弁当を食べ終わると、煙草と冷蔵庫から取り出した小さなワインの瓶を持ってベランダに出た。

 空には大きな丸い月と星が散らばっていた。月はこちらまで近づいてくるような気がするくらい大きく見え、星は点滅しているように輝きを放っている。

 僕は手に持っている煙草のケースから一本煙草を取り出した。ライターで火をつけると煙が空に舞う。煙を吸い込み吐き出すと、快感がする。煙は空の空気に溶けていく。

 煙草を一本吸い終わると、ワインを開けて口をつけた。チリ産の赤ワインで安さのわりにおいしく飲むことができた。

 煙草を吸い、ワインを飲みながら、空を見ていると、隣に誰かがいることに気づく。振り向くと亡くなった恋人がいた。彼女は白いカーディガンと花柄のワンピースを着ていた。背は高くて目は大きく、付き合っていた当時と何も変わっていない。

「どうして君がここに?」

 僕はワインに酔って幻覚でも見てしまったのかと思った。

「会いに来ちゃった」

 そう言った彼女は笑っている。

「君は三年前に死んだはずじゃ」

 突然ベランダに現れた女性は紛れもなく昔の恋人だとわかる。

「たまにこういうことが起こるのよ」

 相変わらず無邪気そうに笑っている。僕はもう一度目をこすり、そしてワインを飲んだ。隣にいる彼女はじっと僕のことを見ていた。

「相変わらず元気そうね」と彼女は言った。

「元気も何も。僕は普通に生きてるだけだよ」

 僕はふいに涙が瞳から流れるのを感じた。

「私がいなくなって寂しかった?」

「そりゃあ、ショックだったけどさ」

 僕は当時、彼女のことが好きで大切な存在だったのだ。どうして今頃になってこうして現れたのだろうか。

「まぁ頑張りなさいよ。私はあなたのこと応援しているから」

 彼女の体は透き通っていった。僕はその瞬間彼女が消えるのだなと思った。彼女は煙草の煙のようにすぐに消えてしまった。

 冷たい風が心地よく吹いている夜だった。彼女はきっと風の中へと消えてしまったのだ。

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