竜王ネレイデス
王都から南に位置するガリオベラ山脈。円を描くような山脈の中心には、一際大きな山がある。
その山の頂上は隕石が落ちたかのようにパックリと穴を開けており、まるで火山の火口のようになっている。
「かなり大きい穴が空いてるけどあそこか?」
風の翼で上空から確認しながら肩に乗るアグニへ話しかける。
「あぁ。やつはそこを
「そうか……よし、じゃあ行くか」
「本当に一人でやるのか?」
「あぁ。そのほうが仲間に引き入れやすい……と思う」
「よくわからないが、任せよう」
(すっげー行きたくねーけどな……)
一人と一匹は、山の頂上に空いた穴へと飛んでいく。穴の真上にたどり着くと、底に黒い生物を視認した。
「あれか……でかすぎだろ……」
やっぱり帰りたい--と思いつつも、引き返せない理由があるルシウスは穴を降りていく。
この山は大きな穴が空き、頂上部分がほとんど吹き飛んでしまっている状態ですら、8000mを越える標高を持つ。
斜めに差し込む太陽の光は底まで届かず、うっすらと反射した光が届く程度であった。
底へ着地したルシウスの前には、目を閉じて眠る巨大な黒竜の姿があった。
そしてゆっくりと
(
ネレイデス〈竜王〉
魔力=5271500
状態=竜化
(これはあかんやつや……桁違いじゃねーか……)
「ほう……人間、お前なかなか強そうだな」
「それはどうも……」
「何をしにここへ来た?」
ネレイデスは顔をルシウスに近づけ、その息づかいでルシウスの髪が後ろへはためく。
(こ、こえー!? そりゃアグニともやり合えるわ……)
「た、頼みがあるんだ。あなたが精霊の涙と呼ばれているものを持っていると聞いた。それが欲しい」
瞳が鋭くなり、ネレイデスの放つ圧力が強くなった。
「ふむ……確かに持っている。だがあれは我のものだ。お前に渡す理由はないな」
(まぁそうだよな……協力も得たいし……やるしかないか)
覚悟を決め、声を発する。
「提案がある」
「言ってみろ」
「あなたと戦って勝ったら……ってのはどうだ?」
ルシウスが息を飲み、ネレイデスはそれを見つめる。そして--
「--クハハハ! 我を倒すと? 面白い! 矮小な人間がよくぞ言った! 受けてやろう!」
--瞬間、ネレイデスの魔力が爆発的に膨れ上がった。
(おいおい……魔力炉臨界起動みたいなのまで使えんのかよ……でもやるしかない)
『
溢れ出る魔力を見て、ネレイデスが笑みを浮かべる。
『
白雷が体を纏う。そして混じり合うように黒炎が揺らめいている。
「口だけではないようだな」
「まだだ」
意識を集中させ、魔法名を紡ぐ。
『--
バチバチと弾ける音が増していき、ルシウスの体が白雷へと変質していく。
混じり合っていた黒炎は分離され、以前とは違い白雷には変質していない。
追加効果を維持したままの精霊化だ。
「精霊化か」
ルシウスの魔力は以前に比べて余裕がある。それは魔法具の効果によるものだ。魔力消費軽減に、魔力回復速度など、ありったけの魔法具を装備している。
それに黒炎の追加効果--簒奪の黒炎による魔力吸収も重なり、強化魔法の持続魔力以上の回復量を得ていた。
(魔力的には余裕ができたけど……やっぱり精霊化まですると魔力制御が厳しいな……)
「いくぞ」
顔の横まで上げた腕を、ネレイデスへ向けて振り払うと、それに呼応するように白雷が生成される。
それに黒炎が混じり、黒と白の混ざり合った嵐が、轟々と空間を埋め尽くすように、ネレイデスへと襲いかかった。
対してネレイデスは口を大きく開けると、
単純に魔力を凝縮させ、ただ放出しただけのそれは、理外の破壊力を持って
(精霊化もしてないのにこれかよ……)
「悪くない。それで次は? まだ終わりではないだろう」
「当然だ」
魔法名の必要のない精霊化で、ルシウスは魔法名を紡いだ。
『--
それは本来の魔法とはかけ離れた規模のものだった。
ネレイデスを囲むように展開された雷球は、それぞれが直径3メートルの巨大さで、黒炎が混じっていた。
「ほう……面白い……『--
雷球が囲む内から、全てを喰らい尽くすような雪崩が溢れ出した--
--雷球から雷球へと稲妻が迸るはずだったが、雪崩に埋め尽くされたことで、稲妻は雪崩へと流れ込む。
(そんな回避方法が!?)
「そろそろ我からいこう」
ルシウスが身構えると、ネレイデスが翼を広げ、口を大きく開ける。
開いた口の先--虚空に小さな紅が生じ--それは一瞬で直径10メートルを越える紅蓮の球となった。
その紅球は、溶岩が煮えたぎる様を彷彿とさせた。それはただの炎球とは隔絶した破壊を
(やっば!)
両腕を大きく広げると、包み込むように白雷が砲身状に生成される。
砲口はネレイデスへと向けられ、黒炎と混じり合った白雷が充填され続ける。
ネレイデスとルシウスの視線が交差する。そして--
--破壊を齎す紅蓮の砲と、黒炎が混じる白雷の砲が放たれた。
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