新人対抗戦編
白雷隊
森だった面影はどこにもない。森だった場所はクレーターがそこかしこに広がる荒野になっていた。最後にできた特大のクレーターの中心部は白雷の残滓がまだ残っていて、赤熱し煮えたぎっている。
俺は衝撃でクレーターの外に飛ばされたおかげで最悪の事態は回避できたようだ。ただ体は満身創痍の状態だ。骨も折れているだろう。治癒魔法で治せるがもうその魔力も残っていない。せめてもの救いはこの周囲の魔物がこの戦いで逃げたか巻き込まれて消滅しているということだろう。まぁそれら全部合わせても全く足りない化け物が目の前にいるわけだが。
「もうなんも残ってねーよ……好きにしやがれ」
「いやぁ、僕もさすがに疲れたよ」
疲れたで済むとかイかれてんだろ。ていうか認識阻害の効果もう切れたのかよ。いや、解呪されたのか。おい神様、こいつバグってないですかね? 俺も大概チートだと思ったけど勝てる気がしないわ。認識阻害までしたのにまさか自分中心の全方位攻撃仕掛けてくるなんてな……それでなんでまだピンピンしてんだよ。疲れたとかふざけんなよマジで。
「せっかく楽しみができたんだ。僕は帰るからさ。君はもっと強くなってよ。また遊ぼうね」
遊ばねーよ! なんでお前みたいな化け物とまた戦らなきゃいけないんだよ! まぁでも見逃してくれるというのなら仕方な……くはないけど仕方ないってことにしておいてやる……
「あ、そうそう。君の名前教えてよ。僕だけ知らないのは不公平だろ?」
お前の存在が不公平だよバカヤロウ。
「……ルシウスだよクソヤロー」
「ルシウス……ルシウス……うん。覚えた。それじゃまたね!」
「あーくそ! 生き残ったぞコノヤローが!」
あ、母さん! ……良かった。空に逃がしてたのは正解だったな。地上じゃあの衝撃で吹き飛んでたかもしれないなマジで。俺グッジョブ。さて……とりあえず寝るか。
◆
「ルシウス、ルシウス。起きて」
ん? なんだ……母さん? あと5分……って母さん!
「母さん! 気が付いたんですね!」
「ええ。それでルシウスはこの状況分かる? 傷だらけだったけど……それに遠くに森は見えるけどこんな穴だらけの荒野は記憶になくて、どこか分からないの」
あ、体の痛みがほとんど消えてる。母さんが治してくれたのか。
それと状況は分かる。この穴ぼこ荒野はさっきできたばっかりの新しい観光地だからね。深淵が暴れた悲惨さを物語る非常にわかりやすい場所だ。ここが森だったなんて信じられるか? 当人の俺ですら信じられないぜ。
「分かりますが、父さんとミーアが心配してると思います。三人集まってからでいいですか?」
「気になるけど……分かったわ。」
◆
「リエル! ルシウス!」
「お二人ともご無事でしたか!」
二人とも一晩中探してくれていたんだろう。目の下に隈ができている。力尽きて動けなかったとはいえ悪いことをしたな。
「リエルを連れてるところを見ると大丈夫だったんだとは思うが、どうなったんだ?」
「それについて伝えたいことがあります……」
「帝国だったんだろ?」
「……主犯の皇帝と実行犯、それと立ちはだかった敵を殺しました……」
もしかするとこれで家族として扱ってもらえなくなるかもしれない。それは、どうしようもなく嫌だ。俺はこの家族が好きなんだ……でもだからこそ、今回のことで嘘は言いたくない。
「殺した……?」
「……あなた。私はまだ状況をちゃんと把握できていません。でも、ルシウスを見れば分かる。そうするしかなかったのでしょう?」
「あぁ……そうだ。リエルの言う通りだ。お前を助けるなら仕方なかったことだ。しかし……皇帝か……」
「戦争になるかもしれませんね」
やっぱりか。俺のせいで戦争に……
「いや、待て。ルシウス、倒した相手に魔術師はいたか?」
「魔術師ですか? はい、いましたけど。確か魔法師団? とかなんとか名乗ってました」
「あの魔法師団を!? いえ……ルシウスなら不思議ではありませんね。しかしそれなら、帝国は戦争どころではないかもしれません」
「あぁ。魔法師団は帝国の戦力の要だ。それに他にも兵を倒してるんだろ? すぐに戦争を仕掛ける余裕はないだろうな」
不幸中の幸いというやつか。何よりクズとはいえ人を殺した俺が気にしないように普通にしてくれている。本当にありがたい。
「まぁ陛下には報告したほうがいいだろうな。この情報を帝国だけが持っているというのは出方が予測できなくなるからな」
「そうね。私から陛下に緊急で取り次いで頂きますから、すぐにご報告しましょう」
やっぱりそれは回避できませんよね。俺の秘密を知る人がまた増えそうだなぁ。
◆
「む、リエル様! お久しぶりです!」
王城の衛兵が母さんに頭を下げている。やっぱり元とはいえ宮廷魔術師はすごいんだな。息子の俺としても誇らしい。母さんは父さんのどこが良かったんだろうか。いや、いい父親だとは思っているよ。ただ男としての魅力とかね?
「久しぶりね。緊急の用件が発生したの。陛下に取り次いでもらえる? 人払いもお願い」
「き、緊急ですか! 承知いたしました! すぐに確認して参ります!」
「いきなり来て謁見なんて、さすが元宮廷魔術師ですね」
「宮廷魔術師の立場上、陛下の近くにいることが多かったから、直接会いにいけなくもないんだけど、内容が内容だからね」
宮廷魔術師って給金良さそうだなぁ。王城勤務って要は公務員みたいなもんだよな。しかもかなり高給とかめっちゃいいじゃん。安定っていいよね。
「ルシウス、この報告をする上でお前のこともある程度話すことになる。陛下なら問題はないが、今後どうしたいかはよく考えておけ。すぐに決める必要はないからな」
「はい……」
俺はどうしたいんだろう。本当に公務員になるか? それとも自由な冒険者か。せっかくの異世界だし旅をして見てまわりたい気持ちはあるんだよな。
「お待たせしました! 陛下がお会いになるそうです!」
◆
「久しいな! リエルよ!」
アルベール王国の王様は豪快な人らしい。というか声がでかい。
「お久しぶりです。陛下。お元気そうで何より」
「まだまだ若いやつらには任せておけん! あと100年は現役だぞ!」
白髪で一見おじいちゃんだが体格がやばい。筋骨隆々で白髪の王様って設定濃ゆいわ!
「それで、後ろの二人はリエルの夫と息子か?」
「はい。夫のラティウスと息子のルシウスです」
あの父さんが堂々としている。やはり貴族ということか。それで剣の腕もいいみたいだし、顔もいい。まぁモテるのは不思議じゃないのかもしれないな。
「うむ! して、人払いしてまで緊急とのことだが?」
「はい。単刀直入に申し上げます。オルデンブルク帝国皇帝とその直属の魔法師団を殺しました」
陛下が目を見開く。
「……何があった?」
豪快に笑っていた陛下の顔から笑みが消えた。ごめんなさいごめんなさい。やり過ぎたとは思いますが仕方なかったんです。母さんに手を出したあいつらが悪いんです。
「不意をつかれて私が浚われたのです。私は意識が無かったため気づいた時には終わっていたのですが……」
「それではお主ではないということだな。ヴァルトシュタイン男爵か? とはいえ腕が立つとはいっても一人では無理だろう」
「陛下、先に前置きさせてください。これから話すことに嘘偽りはありません……オルデンブルク帝国皇帝と魔法師団を倒したのは、息子のルシウスなのです」
「儂をからかっている……様子ではないな。だが容易に信じられることではないぞ。リエルの子はまだ学園に入る程度の年だろう。いくらお主の子といっても限度があるぞ……」
「そのことについて、これから話すことはここだけの話とさせてください」
「分かっておる。そのために人払いまでしたのだ。話してみろ」
また俺の秘密を知る人が増えていく。まぁ今の状況で相手がこの国の王様なら仕方ないんだろうけど。それでも母さんも王様のことは信頼しているように見える。会って少しだけどこんな感じの豪快な人は大体信じてもいいと相場が決まっているしな。ラノベの話だけど。
「はい。息子のルシウスが魔術師の悲願……魔法陣を読み解きました。ルシウスはまだ十歳ですが、既に実力は私よりも遙かに上……故に今回のこともたった一人で為せたのです」
「本気……なのだな? だがお主ですら一部しか読み解けなかったのだろう?」
「ルシウス、私には詳細が分からないから、陛下にご説明を」
「はい」
ここまで来て隠すなんてことをする気はない。でも不安はあるんだよな。皇帝のほうは最悪もうどうでもいい。ただあの
◆
「あの精強で知られる魔法師団をまとめて一撃か。凄まじいな」
「はい。それで母さんを助け出したのですが……」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「えっと……カズィクル=ベイと名乗る
「なんだと!?」
「ルシウス!? 聞いてないわよ!?」
はい。ごめんなさい。皇帝の話とかした時点ですぐ報告にいくことになったから言いそびれたんだった。もしかしてこれは言わないほうがよかったのだろうか。
「それで!? どうなったのだ!?」
王様が立ち上がって前のめりになっている。
「戦闘になって危ないところだったのですが、最後はまた遊ぼうと言って去っていきました」
「なんと……」
「それで戦った周辺の森が消えてしまいました」
「消えたって……もしかして、私が気がついたあの場所……森だったのね……」
「ふはははは! リエルよ! お主の子はあの
「これは……もうどうにもならないわね。」
どうにもならないとはどういうことだろう。
「目をつけられたとも言える。またいつ
なんだ? 空気が変わったな。嫌な予感がする。
「ルシウス=フォン=ヴァルトシュタインよ」
「は、はい!」
「お主の得意魔術は何だ?」
「得意魔術……ですか? ……雷でしょうか」
「ほう。そんな属性が存在したのか……面白い。よし、決めたぞ」
「我、ハインリヒ=ファーロード=アルベールがお主を対深淵の新部隊、
「畏まりま・・・は?」
待って。なんて言った? 対深淵だって? はぁ!? あの化け物相手の!? 無理無理無理!
「さっきも言ったが拒否権はないからな。あと隊とついてはいるが、今の隊員はお主だけだ。他に深淵とまともに戦いになる者などおらんからな」
はい終わったー。俺の人生終わったわー。逃げることもできないとか難易度ベリーハードかよ。
「その代わり隊の編成もルシウスに一任する。ルシウスが魔法陣の知識を授けても良いと思える者を部隊に自由に引き入れても良いこととする。まぁつまりは
魔法陣の知識……なるほど! そうか! 何も一人でする必要はないのか! そもそも
「それと、魔導師の称号を授ける」
魔導師? そういえば俺の鑑定結果も何故か魔術師じゃなくて魔導師だったな。
「陛下!?」
母さんが叫ぶ。どうしたんだろう。
「不服とは言うまいな? もう百年は使われていない称号だが、ルシウスには相応しいはずだ」
もう何でもいいや。好きにしてくれ。俺はこのベリーハードモードに誰を道連れにするか考えることにしよう。避けられないなら楽しむしかないだろう。それにまだまだ魔法には可能性がある。この前は負けたが勝てるようになるかもしれないしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます