衝撃の事実

 試験の翌日は休みと聞いていたんだが、学園長に呼び出されてしまった。まぁ協力者なんだしとりあえず顔を見ておきたいのかな。まっ特にやることがあるわけじゃない。さっさと行って済ましてしまおう。


「すみませーん。学園長に呼ばれて来ました。ルシウス=ヴァルトシュタインです」


 貴族を示すフォンは名乗らない。よし、ちゃんとできたな。気をつけていないと忘れてしまうからな。


「はい。聞いてますよ。奥の建物の最上階が学園長室です」


「ありがとうございます」


 うーむ、学園長室だとか社長室だとか、そういう組織のトップの部屋ってなんで決まったように最上階なんだろうか。位置でトップということを誇示でもしているんだろうか。不思議だ。日本ならまだしもエレベーターもないこの世界で最上階って上るのも大変だろうに。



「ルシウス=ヴァルトシュタインです」


 ノックをして名乗る。


「どうぞ」


 入室の許可を得てドアを開ける。学園長だというのなドアは他の部屋と変わらなかった。部屋の中も華美ではない。質素というわけではないが下品な装飾がないから好感をもてるな。それから……ん? 学園長以外にも誰かいるのか。


「待っていましたよ。ルシウスと呼んでも?」


「ええ、もちろんです」


「ありがとう。こちらの二人を紹介しますね。冒険者のミリアーナとギルさんです」


「……よろしくお願いします?」


 何故紹介されているのだろう。とりあえずよろしくお願いしたがこれは一体何の会合なのだろうか。


「君がリエルの子か。今紹介に預かったミリアーナだ。よろしく頼む」


 なんかかっこいい人だな。空色の肩にかかった髪が美しい。学園長も深緑の綺麗な髪だなぁ。二人ともシャンプーとかのCMに出ても違和感が全くないどころかCM程度に使うのがもったいないくらいだ。


 それにしてもこの世界は美男美女しかいないのか。隣のギルって人もイケメンだ。短くカットされた赤の短髪がとても似合っている。エリーより少し明るめだな。ってミリアーナさんも母さんの知り合いかな?


「単刀直入に聞かせてもらう。君が試験で使った魔法について聞きたい」


 俺の首がギギギ、と音をたてながら学園長へ向く。シルフィアさん? さっそくバレてる感じだったりしますか? え、これはどう対応すれば……


「心配ありません。この二人には口外できないよう契約魔法を結んでいます」


 契約魔法! そんな魔法もあるのか。俺はまだそんな魔法は知らないから是非とも教えてもらいたい。魔法陣をちょっと見せてもらえればいいです。お願いします。


「君は魔法陣を読み解いたそうだな」


「そ、そこまで知っているんですか……」


 実力をある程度知られることはシルフィアさんの協力を得られた時点で問題はほぼなくなった。しかし魔法陣を読み解いたことは本当に慎重に隠すように言われたんだけどな……


「先ほども言いましたが、口外はできません。それに、この二人は大丈夫ですよ」


 ふむ、まぁミリアーナさんも母さんの知り合いみたいだし、男のほうも問題なさそうな気はする。なんとなくだけど。


「わかりました……そうですね。それで合っています」


「そうか。少し私の魔法陣を見て意見を言ってもらえるか?」


「え? 構いませんが……」


 そういう感じの話なのかな。貴族のなんやかんやじゃなさそうでよかった。まぁよく考えれば冒険者なんだし関係あるわけないか。


「閉ざされた大地、白に染まる凍土。黒を侵す白銀は世界を染め上げる。何者も動くこと叶わず、全ては氷土の彼方へと消え去るだろう」


氷河の棺桶グレイシア=コフィン


 魔法名と共に魔法陣が浮かび上がる。そして効果を発揮する前に魔力をミリアーナさんが霧散させ、魔法陣も消えていった。


「見えたか?」


 そりゃあ見えるけど。魔法式はこんな感じか。



氷河の棺桶グレイシア=コフィン

魔法属性=氷

形状=棺桶

魔力減衰=2

発動数=1

威力=8000

魔力=9500

速度=8000

誘導=100


 正直これは見せてもらった俺が礼を言うべきかもな。魔力減衰の魔法式、これは素晴らしい。単純にこの魔法を組めば最低魔力消費は16100だ。しかし9500しか使っていない。魔力減衰は恐らくだが、割り算なのではないだろうか。つまりこの場合は16100÷2で8050が最低値。ミリアーナさんの魔法式だと二割程しか無駄になっていない。今まで見た中では母さんと変わらないレベルだ。


「とてもいい魔法式だと思います」


「魔法式?」


 あ、魔法式って俺がつけた名称だったか。


「すみません、魔法文字で記述された内容を俺が便宜上そう呼んでいるんです」


「なるほど、そういうことか。それで、どう思った?」


「この魔法、発動後は瞬間的に効果が発現しますよね? 速度があまりに高い値になっているので多分かなり無駄になってると思います。誘導は、まぁ大した消費じゃないのでどちらでもいいですね。それと、魔力減衰の魔法式は素晴らしいです。本来必要な魔力量を大きく軽減してくれているようです。これのおかげで速度で無駄になって本来なら発動がもっと難しくなる魔力制御が軽減されてます。全体で見れば無駄になっている魔力は魔力減衰の効果が俺の考える通りならですが、二割程かなと。ただ速度が圧倒的に無駄になっているので全体の魔力消費は半分くらいまでは抑えられると思います。それか消費はそのままで威力を上げるとか、ですね。こんな感じです」


氷河の棺桶グレイシア=コフィン


魔法属性=氷

形状=棺桶

魔力減衰=2

発動数=1

威力=16000

魔力=8300

速度=500

誘導=100


「あれだけでそこまで分かるのか!? というか今改変したのか!?」


「これなら俺が試験で使った魔法より単純な威力は高くなって魔力消費もさっきまでより少し減ってます。さっきの魔法式と比べると倍くらいですね。速度は落ちてるとは思いますけど使う分には影響ないんじゃないかな」


「ば……倍だと!? というか詠唱は!?」


「……ルシウス、その力は私たち以外には絶対に知られてはいけませんよ」


 改めて念を押されてしまった。そういえば詠唱破棄も一般的じゃなかったか。そして俺としても冒険者の最高峰の魔術師の魔法式を見てより状況がわかりやすくなった。母さんのも見ていたけど他に知らなかったからあんまり実感なかったからなぁ。


「そ、その魔法式? でいいのか? それをもっと見せてくれ!」


断章のフラグメント=模造品イミテーション


「はい、どうぞ」


 魔法で改変した魔法陣を転写してミリアーナさんに差し出した。便利だよなぁ。これさえあれば魔法書だってすぐ作れるぞ。


「え? ありがとう?」


「ルシウス……その魔法で転写した魔法陣も……」


「わかってますよ。絶対にここにいる人たち以外には見せないし渡しません。ちなみにミリアーナさんがどの程度魔力制御ができるかわからなかったのでさっきまでと同じくらいにしてますが、もっと上げれますよ」


「……いや、今はいい。今の私にはあれより上の魔力制御は難しい」


「なるほど、それなら少しだけ上げたものも渡しておきます。なんとか制御可能な魔力より少しだけ高いものを使っていくと魔力制御できる限界が増えるんですよ。おすすめです」


 そういって元々ミリアーナさんが使っていた魔力量の一割増くらいの魔法式も転写して渡した。ついでに使えるようになったらどこをどう変更すればいいかも伝えておく。


「そうなのか……私はSクラスと評されていることが恥ずかしくなってきたぞ……」


「ミリアーナ、私も同じ気持ちです。多分誰でもそうですよ。そうじゃないのは深淵アビスくらいでしょう」


「そう……だな。いや、今もらった情報だけでもこれまで私がしてきたことの何倍も価値がある。初心にかえってまた修行しないといけないな」


「あの、すまないが俺もいいか?」


「あ、すみません、ギルさん。どうぞ」


「横からすまないな。ルシウス君、俺は君の魔法に助けられたんだ。その礼を言いたかった。ありがとう」


 助けた? 一体なんの話だ?


「俺は君が試験をしていた時に、森に出たブラッドオーガに殺されるところだったんだ。それを君の魔法で助けてもらった。命の恩人だ。ブラッドオーガを換金した金も持っている。受け取ってくれ。」


 は? あの軌道にいたのかこの人。まじかよ。ちょっとズレたら俺が殺してたってこと? やっば! こわ! 魔法を使うときはちゃんと魔法の範囲全部確認するようにしよ……礼はもらえないな。


「すみません。それは受け取れません。」


「何故だ? 君が倒したブラッドオーガが元だぞ?」


「いいんです。それはギルさんが持っていてください。」


 戒めだ。こんなので受け取るわけにはいかない。俺は人殺しになっていたかもしれないんだから。


「そうか……そこまで言うならわかったが、必要になればいつでもいってくれ。」


「ありがとうございます。」


 本当に良かった。ギルさんが生きていてくれて。

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