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「つまり、国で流行している『リアースの祟り』と似た症状の正体不明の病は、正真正銘『リアースの祟りで』それはルビーの呪いだと、そう言うのですか」


 メイナードが突然フィリップを連れてきて、驚愕したダリウスだったが、すべての事情を聞くと大きく息を吐き出した。

 にわかには信じがたいが、メイナードがそばにいることで比較的冷静に話を聞くことができた。

 それに――


「確かに兄上に追っ手を差し向けていましたが、あなたの足取りがランバースで消えてからは、さすがに情報を集めていただけで攻撃許可は出していません。これから外交関係を結ぼうとする国で騒ぎなんて起こしたくありませんからね」

「では、この国に来て私たちを襲ってきたのは――」

「少なくともこちらが手配した者たちではありませんね」


 答えてから、ダリウスは考え込むように視線を落とした。


「国で起きている疫病騒ぎがそのルビーだの闇の力だの言うのは信じがたくはありますが、確かに妙なことが続きすぎていますね」

「信じられなくても、これがリアースの祟りである可能性は高い。ルビーを見つけて再び封印しないことには疫病は蔓延し続けていずれ国を――、いや、大陸を飲み込むことになる」


 ダリウスは眉を寄せて黙り込んだ。

 兄弟とはいえ、ダリウスはフィリップと仲がいいわけではないし、むしろ今までほとんど会話らしい会話をしたこともない。

 グーデルベルグの王家の関係は冷え切っていて、親、兄弟の情はさほどない。父は後継ぎがほしいだけで、母たちは贅沢と権力がほしいだけ。ダリウス自身、二人の兄にも母にも父にも興味はない。けれども、王族に生まれた以上、国に対しての責任がある。

 リアースの祟りとかいう得体のしれないものに国を飲み込まれるわけにはいかない。

 けれどもそれに同じくして、自国の問題に他国を――ランバースを巻き込むわけにもいかないのだ。


 ダリウスは平然とメイナードを巻き込んできたフィリップに苛立ちながら、それについて苦言も言わないでいてくれるメイナードに頭が下がる思いだった。

 ダリウスも確かにランバースの薬学をあてにしたが、それはしかるべき手順を踏み貿易という手段を取るつもりだった。けれどもフィリップのしていることは、ただ縋り付いているだけだ。


 グーデルベルグという大国の王族である以上、ある意味フィリップの態度のほうが正しいのかもしれないが、ダリウスはそれが腹立たしかった。

 グーデルベルグは大国であるからこそ、昔からその力で他社をねじ伏せようとする。他は言うことを聞いて当たり前だと思っている。

 父はもとより、目の前にいる兄も本人の自覚のあるなしはかかわらず、心の底にその考えが根付いているのだ。

 そしてそれは、王族ではないけれども、兄の乳兄弟であるマディアスにしたってそうだ。

 ランバースが手を差し伸べてくれるのが当たり前だと思っている。それはひどく傲慢で、都合のいいことだと気が付かずに。


 もちろん、ダリウスにだってわかっている。

 この問題が本当にリアースの祟りと呼ばれる過去の遺物ならば、ランバースの協力なくして片付く問題ではないだろう。一国の王子として、国が疫病に飲まれるのを指をくわえて見ているわけにはいかない。


 しかし、だ。

 もとを正せば、自分たちの蒔いた種だ。

 リアース教徒を迫害し、封印されたルビーを持ち出した。すべて自分たちの罪であるのに――

 これは、すべて自分たちが正しいと、絶対だと、驕っているグーデルベルグの王族に、民たちに下された神罰ではないかとすら思えてくる。

 ダリウスはもうフィリップを見なかった。

 メイナードに深く頭を下げて、自分自身がなんて浅はかなのだと思いながら、口を開いた。


「近日中に国に戻ります。聖女の棺、ルビーのことは責任をもってこちらで調べます。けれども、その封印を再び施すすべを我が国は持ちえません。都合のいいことを申し上げていることはわかっています。手を――」

「大丈夫ですよ」


 ダリウスの言葉を遮ったメイナードは、少しだけ困ったような表情を浮かべていた。


「私も、そして聖女も、多くの人の死を望みません」


 ダリウスは、おそらく一生この王子に頭が上がらない――、そう思いながら、膝に額をつけるほど深く頭を下げた。

 そのやり取りを半ば平然と聞いているフィリップに、強い失望を覚えながら。

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