12

 本当に酔っていたみたい。


 メイナードに部屋まで送ってもらったときには、わたしの頭はくらくらしていて、足元もおぼつかなかった。


「給仕が誤ってアルコール入りのドリンクを持って来たんだろうね」


 すぐ耳元で話しているメイナードの声が少し遠くから聞こえるような気がする。


 メイナードが侍女のセレナたちを呼んでわたしの服を着替えさせるように言って、いったん自分の部屋に向かう。


 着替えさせられたわたしがソファに座ってぼんやりしていたら、メイナードがコップを持って戻ってきた。コップにはミントの葉が浮かべられた水が入っている。


「飲める?」


 わたしは頷いて、メイナードからコップを受け取った。


 清涼感のあるミントの香りのついた水が喉を伝って落ちていく。お酒が入って暑かったからか、わたしはコップの中身を一気に飲み干していた。


「気分は?」


「大丈夫です。たぶん」


 吐きそうとか、気持ち悪いとか、そういうことはない。ただふわふわして――、さっきからちょっと眠たい。


 メイナードはわたしからからっぽのコップを受け取ってテーブルの上におくと、わたしを抱え上げた。


「殿下……?」


「眠いならもう眠ってしまった方がいい。起きていて気分が悪くなったら大変だからね」


 言いながらベッドまでわたしを運んで、そっと横たえる。


 前髪をかき分けるように額を撫でられて、メイナードのひんやりとした手が気持ちよくてわたしは目を閉じた。


「眠るまでここにいるから、安心して眠って」


 それって安心していいのかしら?


 頭の隅に小さな疑問が浮かび上がるけれど、#酩酊__めいてい__#した思考では深く考えることができなくて、ただ頷いた。


 メイナードが頭を撫でてくれるのが気持ちいい。


「ごめんね。アイリーンが飲んでいたものをよく見ておけばよかった」


 メイナードが謝る必要はない。わたしの不注意だもの。


 お酒をグラスに半分飲んだだけで酔っていてはこの先大変だから、お酒はいつか訓練しようと思っていたけれど、苦手だからって先延ばしにしていたのも悪い。


「少しずつ飲めるようにならないといけないってわかってるんですけど……」


「いいよ。無理して飲む必要はない。これからはきちんと私が気をつけるからね」


 それって、この先もずっとメイナードがそばにいることが前提じゃないの。そう思うけれど、「元婚約者でしょ!」とか「殿下と結婚しない」とか、突っぱねる気にならないのはどうしてかしら?


 剣を振るうから、手のひらの皮膚が硬くなっているメイナードの大きな手が不思議と心地いいわ。癪だけど、彼の言う通り、そばにいてもらえると安心する。


「パーティー、もどらなくてよかったんですか……?」


「あと少しで終わりだったし、ダリウス王子の相手はサヴァリエに頼んできたから大丈夫だよ」


 ならいいけど。でも、わたしのせいでメイナードまで途中退出させてしまって申し訳ないわ。


「ほら、もう眠って」


 メイナードがわたしの目の上を手のひらで覆う。


 しばらくそうされていると、もともと眠かったのもあるけれど、わたしの意識はすーっと夢の世界に引きずり込まれた。


「おやすみ、アイリーン」


 完全に眠りに落ちる間際、メイナードがわたしの額にキスを落とす。


 わたしは幼い子供じゃないわよ――、おかしくなって笑ってしまったのは、夢の中のわたしだったかもしれないわ。






 一方そのころ――


 我が、コンラード家を侵入者が襲ったことを、夢の中のわたしは知る由もなかった。

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