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 そろそろパーティーがはじまる時間になって、わたしたちは会場の大広間に移動した。


 王族は王族専用の席が設けられているのに、メイナードってばわたしとバーランド様にくっついて一般客用の入口から会場入りしちゃうから、すっごく注目を浴びちゃったわよ。


 バーランド様は、第一王子と三大公爵家のジェネール公爵家の自分がそばについていれば、ちょうどいい虫よけにもなっていいだろうって笑うのよ。……そっか、うっかり忘れかけちゃうけど、わたしって「聖女様」だったわ。油断していると人に囲まれる危険性があったのね。


 王子とジェネール公爵家の次男で第二騎士団の副隊長でもあるバーランド様を押しのけて挨拶に来るような度胸のある人は限られるから、わたしは人に邪魔をされることもなく飲食スペースに到着で来た。


 ウェルカムドリンクでシャンパンはもらったけど、わたしお酒って得意じゃないのよ。ノンアルコールがいいの。それに、おなかすいちゃったし。ダンスがはじまったらしばらく食べられないから、今のうちに好きなだけ食べておきたい。


「アイリーンの好きな燻製肉があるよ」


 メイナードが甲斐甲斐しくわたしの好きなものを皿に盛って差し出してくれる。さすが十八年の付き合い。わたしの食べ物の好みを熟知しているメイナードが作ったワンプレートは、キラキラと輝かんばかりに素敵なお皿。


 わたしがご機嫌で食事をしていると、オルフェウスお兄様と一緒にキャロラインがやってきた。


「一目散に飲食スペースに向かう聖女ってなかなかよねぇ」


 キャロラインがおかしそうに言って、自分のお皿の上に甘いものをひたすら載せはじめた。どうせ食い意地が張った聖女ですよーだ。キャロラインこそ、甘いものばっかり食べてないで、ちゃんとご飯も食べないとだめよ?


 オルフェウスお兄様はメイナードのことをじろりと睨んでいるし、メイナードはお兄様の視線が怖いのかわたしのうしろに隠れちゃうし、バーランド様は苦笑しているし、キャロラインは我関せずでバクバクとケーキを食べているし――、ここだけ妙に浮いている気がするのは気のせい?


「お兄様、いい加減に殿下と仲直りしてください」


 お兄様がメイナードに腹を立てているのはわたしのせいだから、わたしが言わないと収まらないわよね。


 婚約破棄されたのを思い出していまだにムカつくときもあるけど、メイナードに何かしらの事情がありそうなのは薄々気がついているわたし。だから、オルフェウスお兄様がいつまでもメイナードに怒っているのは、メイナードがちょっとかわいそうになっちゃう。それでなくとも、この一か月、お父様に散々いじめられていたし。


 お兄様はやれやれと肩をすくめて、「もしもまたうちの妹を泣かせたら、顔の形が変わるまで殴ったあとで城の庭に埋めてやる」なんて物騒なことを言っているけど、お兄様? わたしが泣いたってどうして知ってるの⁉ 泣いたって言ってもちょっと涙が出ただけで、部屋の中で一人で泣いたから誰も知らないはずよ!


「アイリーン、泣いたのか?」


 ああ、もう! メイナードが妙に感動したような顔になっちゃったじゃない!


「すまないアイリーン。もう二度と私は君の手を放さない――」


 だああああ!


 手を握るな!


 わたしはメイナードともう一度婚約なんてしないわよ!


 ここがパーティー会場じゃなかったら殴ってでも手を放すのにぃ! 


 メイナードはわたしが暴れられないのをいいことに、ぎゅーっと握った手に力を入れちゃうし。


「殿下、これだと食事ができません!」


「食べさせてあげるよ」


 いらんわ!


 ムッとしたわたしは殿下の足を靴の踵で踏みつけてやる。


 メイナードが顔をしかめて手を放すと、小さく舌を出してやった。


 あんたが調子に乗るから悪いのよ、べーっだ!

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