3

 あー疲れた。


 どうやら聖女に選ばれてしまったわたしは、そのままお清めの儀式だとか、パレードとか、国王陛下への挨拶とかその他もろもろの儀式や式典に担ぎ出されて、家に帰ってきたときはぐったりとしていた。


 お父様は狂喜乱舞しそうなほどの喜びようで、お母様は興奮しすぎてぶっ倒れ、二人のお兄様は「こんなのが聖女でいいのか宝珠」と言わんばかりのあきれ顔。


 お兄様、大丈夫よ、それ一番言いたいの、わたし。


 さてさて、聖女に選ばれちゃったけど、どうしましょうかね。


 一応、国には聖女の拘束権利はないらしくて、結構自由が認められている。大事なのは聖女がこの国の中にとどまっていることらしいので、無理やり城に閉じ込められたり、神殿に居を移す必要はどこにもない。


 ただ、問題は――


「嘘でしょ? 今日一日でこれ?」


 家に帰ったわたしを待っていたのは、山のような求婚の数々。手紙にプレゼントがリビングにあふれている。


 王家にかっさらわれることが多かった聖女だが、わたしはメイナードから婚約破棄をされたばかり。ということは自分たちにもチャンスが――、と浮き足立った皆様が次々に貢物をよこしてくるようで、リビングの入口に立ったわたしはしばらく動くことができなかった。


 聖女だって判明して一日でこれなら、明日からどうなるんだろう。


 贈られてくる花を生けるメイドが悲鳴を上げているし、花瓶が足らずにコップや鍋も出動して並べられる花のせいで家中香りがものすごい。いい香りの花も、これだけあれば鼻がひん曲がりそう。


「お前、しばらく領地に引っ込んでいろよ」


 兄の一人がそういうので、本当にそうしようかと真剣に考えてしまった。


 女子修道院に行きたいけれど、聖女の修道院入りはあまり認められていない。もちろん強引に行くと言えば行かせてくれるだろうが――、なんか、王家と教会との力の均衡がどうとか? 政治的な匂いのする理由で、できれば聖女は教会に手渡したくないんだとか。


 だからたぶん、わたしが女子修道院に行きたいと言えば、父も兄たちも国王陛下も全力で止めようとするだろう。それを振り切ってまで女子修道院に行きたいかと言えば、そうでもない。メイナードの今日の愕然とした表情を見て、溜飲も下がったし、聖女になったおかげでみじめな結婚をする必要もきっとない。


 ただ、次々に贈られてくる手紙や贈り物を選別するのは大変そうだから、少し領地に下がっていようかなって思うわけ。


「ものすっごくイケメンで、性格がよさそうな素敵な男性からの求婚があったら教えてくれる?」


 領地に下がる条件として兄に言えば、ものすごく残念な子を見るような目で見つめられた。


「これが聖女……」


 ええい、みなまで言うな!


 わたしだって、ちょっと思ったよ!

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