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いかんいかん。
王子に捨てられて心がやさぐれているわたしは、ものすごく嫌な女になるところでしたよ。
人の不幸を笑ってはいけません。
ええ、いけませんとも。
――ごめん、顔がにやけるのは許して。だって振られて結構傷ついてたんだもん!
えへんえへんと場を仕切る神官の咳払いが聞こえて、仕切り直しで、次の候補者が宝珠の前に立つ。
だが、やはり宝珠は反応しない。
わたしは候補の中でも末席だし、順番が回ってくるのはまだまだ先。
だからのんびりリーナとメイナードの反応を見ているんだけど、リーナってば本当に泣きだしちゃった。
でもメイナードにそれを慰める気力は残っていないみたいね。
まあ、それはそうか。
聖女が手に入ると浮き足立っていたのに、聖女! と信じて疑わなかったリーナが聖女じゃなかったんだもん。婚約までしちゃったのにね。どうすんのかしら。本物の聖女が現れたら改めてそっちに鞍替えするのかしら。……さすがに二度も婚約者を捨てるのは、王子と言えども醜聞だと思うけどね。
そんなことを思いながらじーっとメイナードを見つめていたら、わたしの視線に気がついたのか、彼と目があった。
にこっと微笑みかけてみるわたし。
メイナードは気まずそうに視線をそらしたけど、まあ、そうだよね。恥ずかしいよねー。聖女がほしいって婚約破棄したのに聖女さんじゃなかったもんねー。ふっふっふ。……いかん、また顔がにやける。
メイナードは艶やかな黒髪のイケメンさんなんだけどねー。なんだか今日は打ちひしがれていてとっても残念な感じ。でも、わたしはもう婚約者じゃないから慰めてなんてやんない。その隣の聖女じゃなかった聖女最有力候補さんになぐさめてもらえばいかが? ま、周りの令嬢のくすくす笑いで顔を真っ赤にして泣いているリーナに、そんな気力はないだろうけどさ。
リーナは昔からちょっと高飛車な女だった。
次の聖女は自分だと言って憚らず、男にちやほやされて周りの女を見下しているような節があったから、当然敵も多かったけれど、王子の婚約者の座に収まってから敵がさらに増えた様子。
自慢じゃないけど、わたし、女友達多いのよ。そのせいか、わたしが婚約破棄されたせいで、友達みんながリーナを敵認識しちゃったから、まあ、ちょっとごめんなさいと思わなくもないけど、リーナの自業自得な面もある。
リーナ、女友達って大事なのよ。
結婚前も女子トークで盛り上がれるし、結婚したらしたで旦那の愚痴とかも聞いてもらえるとっても心強いお友達なの。
今だって、女友達がいたらきっと慰めてもらえたのに――、これを機に、少しお友達を作ったらどうかしら? とわたしがいらぬおせっかいなことを考えていた時だった。
「アイリーン・コンラード侯爵令嬢!」
どうやら、わたしの番が回ってきたみたい。
呼ばれて、わたしは顔をあげた。
宝珠の前まで歩いていき、じっとそれを見つめてみる。
うーん、どこからどう見てもガラス球にしか見えないんだけど、これ、本物なのかなー?
だって、わたしに回って来たってことは、まだ誰も聖女に選ばれていないってことよ?
ここにいるのは選りすぐりの候補たちで、過去を見ても、だいたい一回目の候補者たちの中から聖女が現れているから、ちょっと怪しい。
誰か宝珠とガラス球をすり替えたんじゃないの?
「コンラード侯爵令嬢、お早く」
あー、ごめんなさい。考え事を。
一応わたしのあとにも候補者が十何人も控えているから、さっさとしてほしいのね、はい。
わたしは台座の上においてある宝珠の上に手をかざした。――その時だった。
「あれ?」
わたしは思わず首を傾げてしまった。
ガラス玉――もとい、宝珠様がキラキラと輝きはじめてしまいましたことよ?
茫然としかけたわたしは、周囲がどよめきだしてハッとする。
もしかしなくても、わたし――
「おめでとうございます! 聖女に選ばれました!」
あー、仮にも聖女が選ばれたっていうのに、そのくじ引きに当選したみたいな言い方ってどうなのよ。
がっくりと脱力したわたしだが、ごめん、これだけ言わせて。
くるりとメイナードを振り返り、
――ざまあ、メイナード!
声に出す勇気がなかったわたしは、口の動きだけでそう告げた。
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