盗難保険②

「……護衛割引」


 俺は思いついた単語を呟く。


「護衛割引ですの?」

「護衛割引を導入すれば、恐らく盗難保険は成功する」

 シャーロットの纏めた資料を確認した限り、護衛を付けない商隊の盗難保険はリスクが高すぎる。仮に五〇万Gの商品を運搬して、盗難保険の保険料として十万Gの保険料を支払うか? 答えは否だろう。


 しかも、護衛なしのケースで考えれば十万G――つまりは、保険金(運搬する商品価格)の二十%を保険料として貰ったとしても、こちらの赤字だ。


 商隊に盗賊に襲われる確率は約十二%。しかし、私兵を擁している大規模商会を除いた中小規模の商会のみの被害率は二十%となり、護衛を雇ってない商隊の被害率は三十%以上に跳ね上がる。


 盗難保険に喜んで加入する商隊は後者――護衛を雇っていない商隊になるであろうと予測出来る。


 そのようなリスクの多い顧客のみでは、盗難保険は即破綻してしまう。保険会社というのは保険金を支払うのだけが業務内容ではない。時には、リスクを軽減出来るマネージメントを実施するのも保険会社の業務だ。


 そこで俺が考えた施策が――。


「護衛割引を適用した後の保険料を、適正な保険料として算出する」

「つまりは、どういうことですの?」

「ルナはチンプンカンプンなのですよ」

 俺の言葉に、シャーロットとルナが首を捻る。


「具体的に説明すると、護衛を雇わない商隊の保険料は保険金の五十%とする」

「五十%ですの!? 護衛を付けていない商隊の被害率は三〇%ですわ。五〇%では、リク様のおっしゃる収支相等の原則に反するのはないですの?」

「そうなるな。しかし、仮に護衛を雇わない商隊の保険料を保険金の三十%にすると、盗難保険に加入した商隊は、どうせ被害に遭っても保険で弁償されるからと、盗賊の対策がおざなりになり、更に被害率が高まる可能性がある」

「その可能性は……ありますわ」

「と言うか、そもそも論となるが……仮に保険料が保険金の三〇%に設定しても、加入する商人はいると思うか?」

「正直、厳しいと思いますわ」

 俺の問い掛けにシャーロットが目を伏せる。


 そもそも、この世界は盗難に遭う確率が高すぎる。そこを是正しない限り、盗難保険は型にならないのだ。


「シャーロット。一つ、尋ねてもいいか?」

「何ですの?」

「保険金と護衛費用を併せて、商人が捻出できる金額はいくらだ?」

「そうですわね。運搬する商品にもよりますが……一五%と思いますわ」

 これも、今回の書類を精査して確認したが、やはり運搬することにより商人が得る利益は運搬する商品の価格の約三〇%と、高い利益率を誇っていた。


「護衛にかかる経費を単純に十%と仮定すると、盗難保険の保険料は保険金の五%で設定しないと、商品として成り立たないと言うことになるな」

「そうなりますわね……はっ!? 五%……そういうことですの!?」

 俺の言葉にシャーロットは、何かに気付いたようだ。


「ふふん。ルナはチンプンカンプンなのですよ」

 脳筋エルフは当然、話に全くついてこれない。ってか、ルナは何でこの場にいるんだ。


「その通り。護衛を付けている商隊の被害率は四.六%。護衛を付けるのを前提とすれば、盗難保険は型として、成り立つ」

「流石はリク様ですわ!」

「ご主人様凄いのですよ!」

 うっとりとした目で俺を見るシャーロットと、流れに乗ってとりあえず称賛するルナ。


「護衛なしの保険料を法外な金額にした理由は、簡単に言えば……護衛なしの商隊は保険は受けない、ということだな」

「リク様。感服しましたわ」

「とは言え、不安材料は幾つかある」

「それは、何ですの?」

「ご主人様は欲張りなので、五%じゃ足りないって考えに一票なのです」

 俺の言葉に、シャーロットは首を傾げ、ルナがある意味正解を言い当てる。


「そうだな。五%では足りないな。仮に、この施策が上手くいったとして、ほとんどの商隊が護衛を雇ったら、盗賊はどうすると思う?」

「廃業なのです」

「護衛ありの商隊も襲う……ですの?」

「正解」

「やったですの!」

「……シャーロットが正解な」

 なぜか、喜ぶルナに俺はジト目を送る。


「そうなると、護衛ありでも被害率が上がる可能性がある。とは言え、無闇に保険料を高くしては、盗難保険が売れない」

「なるほどですわ」

「はうぅ。振り出しに戻ったのですよ」

「その問題を解決する為に、冒険者ギルドに行って、交渉だ」

「畏まりましたわ」

「はいなのです!」


 こうして、俺達は盗難保険を型にするべく、冒険者ギルドへと出向くのであった

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