保険料の算出

 互いの思惑が一致した俺とアドランは傷害保険に詳細について話を進めた。


 まずは、怪我の治療費。軽傷から重症までの治療費をアドランが紙に纏めてくれた。ルナは「ルナも調べたのですよ……無駄骨だったですか……」と落ち込んでいたが、そこはスルーした。


「リクの話だと、この治療費が保険金というのに当てはまる。で、よかったな?」

「そうですね。支払金額の上限が保険金になるな」

 アドランの質問に俺は答える。


「そうなると、傷害保険の保険金は一律五十万万Gか? それは大袈裟に感じるが……」

 ちなみに、五十万Gというのは四肢のいずれかを失う、もしくは内臓に達する大怪我を負った時の治療費だ。


「まぁ、怪我をしたら全員に五十万Gを支払う訳ではない。あくまで支払う保険金は治療にかかった実費だけだな」

 俺のよく知っている元の世界の傷害保険は、死亡保険金、入院日額、通院日額、手術一時金などがメジャーな保険金項目となるが、この世界では当てはまりづらい。どちらかと言えば、労災保険に近い、怪我の治療費を全て負担するタイプの保険金を支払うことを提案したのだ。


「なるほど。そうなると……どうなるのだ?」

 アドランは首を横に捻る。


「次は、治療費の平均金額、一回のクエストで冒険者が怪我をする割合を算出して……それから、保険料を算出すれば、基本的な形は完成するな」

「ふむ。了解だ。資料を探すか」

 アドランはそう言うと、棚に幾つも並べられたファイルを漁り、お目当ての資料を探し始める。


 その後、アドランが机の上に並べた書類を手分けして整理し、一回のクエストで冒険者の怪我をする割合と、平均的な治療費を算出した。


「治療費の平均が約二千Gで、治療を必要とするほどの怪我をする冒険者の割合が二四%か。こちらの冒険者ギルドで一日にクエストを受注する冒険者の数が百二十七名だから……えっと、百二十四×二一%×二千Gが一日あたりの治療費になると考えて、それを百二十七名で割ると……四百二十Gか。俺の手数料が五十Gとして、冒険者ギルドの手数料を三十Gにすると……五百Gだな」

「むむ。何やら複雑な計算をするな……。リクは本当に冒険者なのか?」

 俺が数値を呟きながら紙で計算をしていると、アドランは驚いた表情で俺を見つめる。

「ははっ。駆け出しの冒険者で間違いないさ。それは、そうとクエスト一回あたりの保険料は五百Gになるが、どうだ? 現実的に、冒険者達から徴収出来そうな金額か?」

 俺は算出した保険料をアドランに伝える。


「五百Gか。そうだな……。Cランクより上の冒険者であれば問題ないな。むしろ、安い位だ。Dランクだと、まぁ払えるか? 位だな。但し、Eランクの駆け出しには、ちと厳しい出費になるな」

 アドランは眉間に皺を寄せて答える。


「あ、あの一つよろしいでしょうか?」

 アドランの答えを聞いて、俺も腕を組んで悩んでいると女性の職員が手を上げた。


「どうした?」

「五百Gという金額で思ったのですが、クエストの報酬金の一割を保険料にするという案はいかがでしょうか?」

 アドランが話を振ると、女性職員が話す。


「報酬金の一割を保険料にする?」

「はい。変動はありますが、クエストで支払う報酬金の平均金額はおよそ五千Gです。Eランクの冒険者であれば、クエストの報酬金はおよそ五百G。Aランクになれば、十万G以上となります。そうすれば、お金の無いEランクの冒険者の保険料は五十G。Aランクの保険料一万G。全ての冒険者を平均すれば、五百Gとなるので、リクさんも損はせずにいい案かと思いまして……」

 俺の質問に女性職員が答える。ちなみに、冒険者で一番多いランクはD。一番少ないランクはAなので、実際に十万G以上の報酬金の出るクエストは稀である。


「そうなると、高ランクの依頼を受ける冒険者ほど、保険料が高くなるが、問題はないか?」

 俺の中の常識では、自動車保険が当てはまるが、新人――免許取り立ての若者ほど、保険料は高く、ベテラン――無事故を続けた人たちほど保険料は安くなる。


「問題ない。高ランクの冒険者は、本来低ランクの冒険者の育成、後援をする義務がある。であるならば、彼女の唱えた保険料の在り方は正しいと言える」

 アドランが胸を張って答える。パトロンとも言える、冒険者ギルドのトップが納得したならば、俺からは何も言わない方がいいだろう。


「そうなると、俺の手数料は保険料の一割程度が入る予定になるな」

 あくまで、保険は俺のビジネスだ。手数料が無くては意味が無い。俺は少し遠慮気味に確認する。


「うむ。俺達ギルドの手数料はリクの半分。〇.五割でいいぞ」

 アドランが快諾したことにより、傷害保険の基礎が完成したのであった。

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