第四章 望んだ再会、望まぬ再会
第95話 ゴブリンテイマー、再会する
「よぉ坊主。久しぶりだな」
「皆さんもご健勝そうでなによりです」
王都ギルドに顔を出すと、偶然にもそこで出会ったのはあのSランクパーティ【荒鷲の翼】の面々だった。
五人のメンバーの内でギルドに居たのはリーダーのビリーとエーボ、シーナの3人。
残りのディーンとマイナの二人は出かけているらしい。
「あの時はすまなかったな」
エーボが苦笑いを浮かべながらそう口にする。
あの時とは、僕がギルドに登録した日のことだろう。
「みんな酒癖が悪すぎるんですよ」
たしかにあの時の【荒鷲の翼】は、依頼を終えたあとの打ち上げをしていてかなり飲んでいたのを思い出す。
まだあれからそんなに月日は経っていないのに、随分と懐かしく思える。
「まぁ、でもよ。あれは新人冒険者に対する挨拶みたいなもんでな。俺たちも言われたっけ……」
「そんなヒョロガリで冒険者なんて務まるわけが無いだろとかいわれてたね」
「皆さんほどのパーティでもそうだったんですか」
「誰にだって新人時代ってものはあるからな」
僕は【荒鷲の翼】の皆と、しばしの間、ギルド併設の酒場で話をした。
その間、何故か帰らず中まで付いてきたニックスは、僕たちから少し離れた所でミルクを飲んでこちらを時々チラチラと見ていた。
混ざりたいなら混ざれば良いのに。
一応ルーリさんの話なら共通の話題として盛り上がれるだろうに。
「それでお前さん。本当にダスカス公国軍を追っ払ったのかい?」
「いや、まぁ。僕だけでは無理でした」
「そうだろうな。話を聞いた時はさすがに盛りすぎだと思ったもんだ」
「ええ。あのワイバーンが助けに来てくれなければ僕は死んで居たと思います」
そこからしばらくワイバーンの話になった。
あの騒動は【荒鷲の翼】も見ていたし、何よりワイバーンの子供を隣国へ送り込もうとしていた【炎雷団】を、その後王都まで護送したのも彼らだ。
「そういえば【炎雷団】はどうなったんですか?」
「あいつらなら俺たちがここに送り届けたあとに簡易裁判が行われてな」
「ギルドからの追放と、十年の強制労働だ。今頃は執行前の檻の中のはずだ」
あれだけのことをしでかしてその程度で済むのか。
僕は少し納得がいかなくてもやもやしてしまう。
しかしビリーの次の言葉に僕はさらに驚くことになった。
「結局死人が出なかったからな。極刑はなしだそうだ」
「えっ。だって【炎雷団】は新人狩りをして何人も殺してきたんでしょ?」
「それがな。証拠がねぇ上に彼奴らが裁判でそれを否定しやがってな」
彼ら【炎雷団】は、新人狩りで新人から金品を奪っていたのは事実だと認めた。
だが、殺害に関しては否定し続けたそうだ。
新人冒険者というのは無茶で無鉄砲な者が多く、早い内に命を落とすことは珍しくない。
なので、エヴィアスギルドの新人が連続して死んだのも【炎雷団】が手を下したのではなく、あの地に居た魔獣によってのものだということになったらしい。
「そんな馬鹿な……あの人たちは絶対に……だって僕は現に殺され掛けたし」
「でも殺されては居ない。彼らが言うにはちょっと脅かしただけだと」
結局【炎雷団】が新人冒険者を殺したという証拠は無く、ただ新人狩りでの金品強奪とワイバーンの子供の密輸については罪を認めたため罪が確定したという。
納得がいかない僕の肩をエーボが軽く叩く。
「気持ちはわかる。だがギルドからの追放と十年の強制労働は実質死刑と変わらないもんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。特に強制労働の場合はかなり危険な現場に送られるらしいからな。生きて帰って来ない囚人も多いらしい」
なんだかんだと実際は新人狩りでの殺人も裁判官は認めたのだろうとエーボは言った。
ただ証拠も自白も無いため、極刑には出来なかった。
そういうことだと教えられ、僕は胸のつかえが一つ無くなった気がした。
「あっ、そうだ。【炎雷団】と言えば……」
僕はなるべく周りに聞こえないような小さな声で話を続ける。
「彼らはやっぱりアナザーギルドのメンバーだったんですか?」
「……」
しばしの沈黙。
もしかしたら【荒鷲の翼】にはアナザーギルドの話は伝わってなかったのだろうか。
僕がそう不安になりかけた時、ビリーが口を開いた。
「ああ。それは間違いないらしい」
「俺たちもまさかそんな奴らが裏で暗躍してるなんて知らなかったぜ」
「知ってたらアタシたちが潰してやったのにさ」
小さな声で話す三人だったが、不意に真面目な顔になる。
そして、周りを確認してからアナザーギルドに関する情報をいくつか教えてくれた。
どうやら王都ギルドの中にもやはりアナザーギルドの人間が紛れ込んでいるのは確実で、かなり上の方にも幾人か怪しい人物がいる。
そしてその手は王国の貴族たちにも及んでいる可能性がある。
もちろん木っ端の冒険者も彼らに取り込まれている可能性が高い。
逸れも含めて現在【荒鷲の翼】を含む高ランクパーティが王家と協力し捜査を進めていて、近いうちに一斉検挙を行うらしい。
「その時は是非エイルにも手伝って貰いたいな」
「でも僕そんなに長くは王都に居ませんよ? 多分あと一週間くらいで帰る予定なんで」
「それまでには間に合わせるさ。多分な」
秘密の話はそこまでだった。
暫くして【荒鷲の翼】の残りメンバーであるディーンとマイナが戻ってくると宴はさらに盛り上がった。
飲み慣れない酒まで飲まされた僕は、宿に帰る時にはかなり千鳥足だったと、何故か宿まで送ってくれたニックスから後に話を聞いた。
僕たちが盛り上がってる間、彼はずっとミルクをちょびちょびと飲み続けていたらしい。
「聖職者が職務中に酒など飲めるか!」
どうしてお酒を飲まないのかと聞いたら、そんな返事が返ってきた。
そして宿の前で別れる時、ニックスはこう言い残し去って行った。
「明日は二日酔いで大変――が酔い覚ましの魔法は――てやらん。それとだ、あの――は――ろ」
酔っ払った僕が覚えているのはそれだけ。
跡でもう一度聞けば良いと思いながらも、結局翌日は二日酔いで倒れていてすっかり聞き直しに行くのを諦めた。
「ううっ……頭痛いし、式が終わってから大聖堂に行けば良いか……うえっぷ」
後に僕はそれを後悔することになるなんて思いもせずに。
*************お願い***********
これから話が急激に動き出します。
王都を襲う騒乱と暗躍する影。
そこでよろしければまだ【★】による評価がまだの読者様がいらっしゃいましたら、ぜひ評価をいただけますとうれしいです。
最後までのプロットは完成していますが、それを文章に起こすにはモチベーションが必要不可欠。
二幕ラストまで一気に駆け抜ける力を是非。
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