第83話 秘密の閲覧室
図書館の中に入るとそこは異空間だった。
扉の外の喧騒は分厚い扉のおかげか一切聞こえてこず、明かり取りの窓から入ってくる陽の光もガラスに細工でもしてあるのかかなり柔らかく、静寂に包まれた室内を照らしている。
入って真正面。
建物の真ん中に司書の人が二人ほど控える場所があり、その周りには椅子や机が並んでいる。
そこでは既に数人ほど座って本を読んだり、資料を机いっぱいに広げて何やら一生懸命書物をしていたりする姿が目に入った。
「二階にも本棚がいっぱいだ」
一階は中央から僕が立つ入り口辺りまでは吹き抜け構造になっており、左右にそれぞれ二階へ上る階段がある。
二階の構造はコの字型になっていて、ちょうど真正面の二階部分には一階と同じように机や椅子が並んでるようだった。
「とりあえず司書さんに声をかけてみよう」
僕は木製の床をなるべく音を立てないように歩き、中央へ進んだ。
今は二人しか居ないようだが、新図書館が出来るまではかなり賑わっていたのだろう。
そのカウンターで囲われた空間の中には六つほど机が並んでいた。
つまり元々は六人がここで様々な業務を行っていたに違いない。
「あの、すみません」
僕は一番近くのカウンターに座る司書に声をかける。
少し神経質そうな細身の彼は、開いていた書類を閉じると「なにか?」と小さな声で応えた。
「えっとですね、この図書館にエルダネスさんという方がお勤めだと聞いたのですが」
「エルダネスは私ですが、貴方は?」
どうやらこの人物が目的の人だったらしい。
タバレ大佐から「エルダネスは気のいい愉快なな奴だよ」と聞いていたけれど、全くそうは見えない。
「僕は冒険者のエイルといいます」
「エイル……? どこかで会ったことでもありましたか?」
「いいえ、僕は王都へ来る途中に会ったタバレ大佐から頼まれまして」
僕がタバレ大佐の名前を出した途端だった。
突然エルダネスは立ち上がるともう一人の司書に「すまない。少し席を外す」と告げてカウンターから外に出て来た。
「こっちへ」
「あっ、はい」
早足で図書館の奥へ歩いて行く彼の後を追う。
かなり早く歩いていると言うのに、エルダネスは足音すらほとんど鳴っていない。
僕もなるべく音を立てないように追いかけるが、彼ほど静かには歩けなかった。
「入りたまえ」
図書館の奥。
本棚と本棚の隙間を抜けた先にいくつかの扉があった。
標識を見る限り、内ふたつは便所で後は資料室と応接室らしい。
そして、エルダネスが開いた扉には――
「閲覧室……ですか?」
「ああ。ここが一番『安全』だからな」
僕が恐る恐る閲覧室の扉を潜ると、続いてエルダネスが中に入って扉の鍵を内側から閉めた。
そして僕の横を通り過ぎると、部屋の中にあった三つの扉の内、一番右の一つを開いて中に入っていった。
その扉の上には「三」と書かれている。
他の扉にもそれぞれ「一」「二」と書かれている所を見ると部屋の番号なのだろう。
後で聞いた所に寄れば、この閲覧室というのは貸し出し不可の貴重な書物を閲覧するための場所だという。
部屋の出入りを管理することにより、貴重な書物の紛失や破損などを防ぐのが目的なのだそうだ。
「何をしている。早く来たまえ」
「すみません」
エルダネスに急かされ三の閲覧室へ入る。
部屋の中には机と椅子だけで窓は無く、天井に取り付けられた魔灯のみが部屋を照らしていた。
僕が中に入るとエルダネスは先ほどと同じように三の閲覧室の扉にも鍵を掛け、そして扉の横に置いてあった折りたたみ椅子を一つ持ち出して机のまえに設置する。
「座りなさい」
「はい」
僕とエルダネスは、机一つを挟んで対面に座る。
図書館の中は静かすぎるほど静かだと思ったが、この部屋はそれにもまして静かだった。
「タバレから何かを預かってきたのだろう?」
「手紙を預かってきました」
余りに静かすぎて耳鳴りが聞こえてきそうな程の静寂の中、僕は肩掛鞄から一通の手紙を取り出して机の上に置く。
エルダネスはそれを手に取ると何やら表と裏を数度確認するように見て「ふむ。本物だな」と呟くと、いつの間にか持っていたレターナイフで綺麗に手紙の封を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます